こんばんは、bigbossmanです。今回は「隠形 おんぎょう」について
取材した話を書いてみます。この言葉はご存知でしょうか。仏教の
真言密教で使われます。摩利支天の隠形印を結んで真言を唱えると、
自分の姿を隠すことができるとされ、魔から身を守ることができる。
摩利支天は仏教を守る古代インドの女神ウシャスのことと
考えられています。では、真言宗の修行を積んだものは、実際に
姿を隠すことができるのか。これはわからないです。自分の知ってる
真言宗のお坊さんに聞いたら、「それは何事にも動じない
心のあり方のこと」みたいな返答をされました。で、どうやら、
人間が身を隠すことができるのと同様に、魔のほうも自らの
姿を隠すことができるらしいんですね。

会社員 園田洋平さんの話
あ、どうぞよろしくお願いします。さっそく話していきますけど、
実際にあれを見てるのは僕だけなんです。ですから、妄想と
言われてしまえばそれまでだし、まず、そのことをお断りして
おきます。そうですね、一番最初にあれの存在に気がついたのは
2年前かなあ。会社に通うのに都合がいいってことで、
今住んでる町に引っ越してきてからですね。はい、アパートに
住んでるんですが、最寄り駅まで10分くらいなんです。会社のある
駅までは電車で40分ほど。だから1時間くらいで通勤できます。
それで、駅に出る大きな通りは2つあるんです。僕はいつも
その一方を通ってたんですけど、ごくたまに、もう一つの
道を行くときもあって。僕、熱帯魚の飼育が趣味で、そっちの

通りに、やや専門的な熱帯魚店があるんですね。ですからたまに寄って
何か買ったりするんです。で、あれは引っ越してすぐ、会社の帰り、
6時頃にその熱帯魚店に寄ったんです。時期は5月で、まだ明るく、
店の前に箱に入れて並べてある流木や石を見てました。で、立ち上がって
何気なく道路の向こうを見たとき、赤い丸いポストが目に入ったんです。
熱帯魚店から10mばかりずれた道の向こう側。今、そういう形の
ポストってないですよね。だから、珍しいなとは思いました。
まあ、レトロな雰囲気を出すためにわざと昔のポストを立ててるのか、
くらいに考えたんです。でも、そのあたりの店構えには、あんまり
合ってない気がしました。店に入って店員さんと話したとき、
そのポストのことを言ってみました。そしたら「え、そんなのあったかな」

みたいな反応だったんです。でね、店から出たとき、さすがにもう
暗くなってましたが、そのポストを探したけど見つからなかったんです。
でもまあ、気にしたわけでもなく、そのことはすぐに忘れちゃいましたけど。
それでね、1ヶ月ほどたった日曜です。またそこの店に行き、
道の向こう側にレトロポストがあるのを見つけました。
あ、そういえばこれ、前も見たな。そう思い、また店の中で、前とは
別の店員さんに話を出してみました。けど、「えー、昔のポストですか。 
ここの近く? そんなのあったかなあ」こんな反応だったんです。
変ですよね。道をはさんですぐ向かいなのに。それで、買い物後に
その店員さんといっしょに外に出ました。そしたらです。晴れた
日中だったのに、ポストがなくなってたんです。

さすがに不思議だなと思いました。自分の勘違いなんだろうけど、
今度もし見かけたら、道を渡って写真を撮ってやろう。そう考えたんです。
で、また3ヶ月くらいして熱帯魚店に行くとき、ポストはあったんです。
前の記憶とは多少位置がズレてる気がしましたが、やはり道の向こう側。
で、店には入らず、少し先の信号で道路を横断しました。
目はそのポストから離さなかったつもりです。向こうの歩道に出て、
ポストまで40mくらいですか。スマホを撮影モードにして、まずその
距離から1枚撮り、それから足早に近づいてったんですが、あと数m
というところで、ポストがぱっと消えたんです。「ええ!?」さすがに
びっくりしますよね。走ってそこまで行っても、ポストなんてどこにも
ないんです。地面のアスファルトにも跡などは見つかりませんでした。

変ですよね、どう考えても。しばらくそこで立ち止まって、周囲を
探しました。でも、何もわからない。それで最初に撮った写真です。
見てみると、ポストはないんだけど、それが立ってた位置に、うっすら
赤っぽい煙みたいなのがあったんです。高さは人の背丈くらいで、
向こう側が透けて見える。気味悪いと思いながらも、その画像は
保存しました。で、それからまた半年くらいたって、その間ポストを
見ることはなかったんです。納得はできないけど自分の勘違いなんだろう。
そう思ってた矢先、そこの熱帯魚店がつぶれちゃったんです。シャッターに
廃業の貼り紙がされてて、ネットのホームページも半月ほど前から
更新がされてませんでした。でね、嫌な噂を聞いたんです。そこの店長が
自殺したっていう。電車への飛び込みって話になってました。

その真偽ははっきりしないんですが、たぶん本当だと思います。というのは、
前に言った画像ね、ひさびさに見てみたんです。そしたら、赤い煙だったのが
そこに立ってたのは店長で、こっちを見て手をふってたんです。
その画像は今持ってきてますから、最後にお見せします。
でね、話はまだ続くんです。このことがあってから、そっちの道を通るのは
避けてたんです。なんだか怖いし。あれは今年の初めですね。変な話ですけど、
スーツのズボンの股のとこが裂けちゃたんです。かぎ裂きとかじゃなく、
ミシンの縫い目に沿ってだったので、自分で直せるかと思いました。
ただ、独身者で針と糸とか持ってなくて。で、あの通りに手芸の店が
あることを思い出しまして。あれは土曜日だったはずです。ひさびさに
そっちの通りに入りました。熱帯魚店はすでに別の店になっていて、

そここら100mほどで手芸店なんですが、自分の歩く先、20mくらいの
とこに あのポストがあったんです。「え?」と思うまもなく、そのポストの
投函口から黒いロープのようなのが飛び出して、歩道を自転車で通ってた
若い男性の背中に軽く触れたように見えました。「ええ!?」で、
その男性はぐらぐらっとよろけて、杖をついて歩いてたおばあさんに後ろから
ドンとぶつかり、おばあさんはステンという感じで転んだんです。それほど
勢いがあるぶつかりかたには見えなかったですが、仰向けになった
おばあさんは両目を閉じてピクリとも動かず、自転車の男性がスマホで
どこかに連絡をしてました。おそらく救急車を呼んだんだと思います。
でね、またポストが消えてたんです。どこにもそんなのはない。
野次馬が集まってきて、倒れてるおばあさんを取り囲み、

やがてサイレンの音が聞こえてきました。僕はもうすっかり怖くなって、
逃げるようにしてその場を離れたんです。・・・その事故のことは
テレビやネットには出ませんでした。ただ、翌週、朝に道のポストがあった
反対側を通ってみたら、あのおばあさんが倒れてた歩道のガードレール沿いに
花束がいくつも供えられていたんです・・・ それで、あのポスト、
もう一度だけ見てるんです。怖いので、あっちの道は通ってなかったんですが、
通勤途中、いつもの道でです。今年の5月の連休前でした。自分が駅に
向かってる前に、黒い衣のお坊さんが5人ほど列になって歩いてました。
で、急に先の列のお坊さんが立ち止まり、歩道の奥に向けて指を組み、
気合みたいなのをかけて両手を伸ばしたんです。するとそこにあのポストが
出てきて、すぐに赤い煙のようになって消えたんですよ。
 

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