みなさんは料理に味の素を使われているでしょうか?自分は使ってませんが、
「体に悪い」から使わない、というわけでもありません。
この分子構造を見るかぎり、よほど大量に消費しなければ、
体に悪いということはないような気がします。

それと、「化学調味料」という言われ方をするので、
味の素は化学合成されている、と思ってる方は多いようですが、
実際は主に発酵法によって作られます。
味の素の主成分は、L-グルタミン酸ナトリウムです。

この「L-」の部分に着目してください。グルタミン酸はアミノ酸の一種で、
アミノ酸にはL型とD型があります。これは左手と右手の関係に似ていて、
どちらも同じ原子でできていますが、その構造は、ちょうど鏡に写ったように
反対になっているんです。これを鏡像異性体と言います。(下図)



アミノ酸を化学合成すれば、ふつうはL型とD型が半分ずつできます。
ところが人間をはじめ植物や細菌類まで、地球上の生物のほとんどは、
L型のアミノ酸を利用しているんです。
われわれはL-グルタミン酸ナトリウムを食べればうま味を感じますが、
D-グルタミン酸ナトリウムでは感じません。

これは、われわれの体をつくるタンパク質がやはりL型からできている
ことと関係していると考えられています。舌の味を感じる部分がL型で

あるため、D型は右手の手袋を左手にはめるように上手く合致しないんです。
L型とD型は同じ原子からできており、基本的な性質もほぼ同一なのに、
なぜこのような偏りができてしまったんでしょう?

 

さて、話変わって、地球上の生命はどうやって誕生したんでしょうか?
これにはいくつかの説がありますが、主なものをあげると、
① 神が創造した説 ② 自然発生説 ③ 化学進化説 ④ パンスペルミア説
に分かれます。まあ、いろいろとさし障りがあるので、
ここでは①にはふれないことにします。

②はアリストテレスの昔から長い間信じられてきた、
何もないところから命が生まれるという説です。
水を容器に入れてほうっておけば、
いつの間にか微生物がいるのが見つけられるというような話ですが、

現代のみなさんは、これは空気中を漂っているものが水の中に
落ちたためであることを知っていますよね。自然発生説は、
19世紀のパスツールの、加熱処理した水を雑菌が入りにくい
フラスコに入れる実験によって、ほぼ否定されました。

 

パスツールの実験



③は、最初の生命は原始地球にあった材料から合成されたとする説で、
今のところ支持者が最も多いのではないでしょうか。
最近は、海底の熱水噴気孔あたりで生命ができたのではないか、
という説が注目されていますが、これも化学進化説の一つです。

最後に④ですが、簡単に言えば、生命をつくるもとになった材料は、
宇宙から隕石に乗って飛来したとする説です。
今回取り上げるのはこの④の説について。
19世紀末頃からこれを唱える人はいましたが、20世紀に入って、
イギリスの天文学者にしてSF作家のフレッド・ホイルや、

同じくイギリスの、DNAの2重らせん構造を解明した分子生物学者クリック
などが熱心に主張していますね。特にクリックは「意図的パンスペルミア説」
つまり、地球外の知的生命体が宇宙に意図的に生命の種をばらまき、
その一つが地球にやってきたとする過激な説を述べていて、
しかしこれ、SFならともかく、さすがに過激すぎて学会の反応はいまいちです。

 

宇宙での円偏光



さて、L型とD型の話に戻って、近年、隕石からアミノ酸が検出されたとする
報告例が増えているんですが、このアミノ酸がL型に偏っているんです。
では、なぜ偏りが起きたんでしょうか? 話はここで一気に宇宙にとびます。
それは天体現象である円偏光による、と考える学者が多いですね。

円偏光は巨大な質量を持つ星のまわりで起きることが多く、
偏光には右回りと左回りとがあります。
そして右回りの円偏光の紫外線を浴びると、
D型のアミノ酸は壊れてしまうのです。

太陽系が誕生した頃、その近くで重い恒星が生まれていて、
あたり一帯が右まわりの偏光に包まれ、
L型のアミノ酸が残ったという仮説が提唱されているわけです。
ここまでは論理的な穴はないと自分には思われます。

 

パンスペルミア説



さてさて、そのL型のアミノ酸は、隕石に乗って原始地球に飛来し、
最初の生命を形づくる源となり、原初の生命は長い時間をかけて
進化をとげ、現在の人間まできました。そのため、
われわれの体はL型タンパク質で構成されており、

味の素を食べればうま味を感じる・・・とまあこんな話です。
ただしこれ、あくまで一つの仮説ですし、
実証にはさまざまな困難があることをつけ加えておきます。
では、今回はこのへんで。