2週間前の土曜日に心霊スポットに行ったんだ。
場所はダムに向かう車通りの少ない県道沿いにあるパチンコ屋、
バブル崩壊直後につぶれて、そのまま数十年放置されてる。
ガラスはあちこち割れてるし、スプレーの落書きだらけになってて、
DQNがたくさん来てることがわかる。それでもこの寒い時期なら、

他のやつらとは鉢合わせにはならないだろうって、
男4人で夜中に出かけたんだよ。
結果は、変な音が聞こえたってやつもいたけど、俺はおかしなこと、
いわゆる超常現象ってやつはなんもなかったと思った。
中にいたのは小1時間ばかりで、ビデオを持ってっていろいろ撮ってきた。
まあ、遊びだったんだよ。心霊とか幽霊なんて信じてなかったし。

ところが車で帰るあたりから、Iってやつの様子がおかしくなった。
後になって考えればちょっと変だった、ってことだな。いや、別に

怖がってたとか、幽霊を見たって言ったとか、行ったのを後悔してたとか、
そういうわけじゃない。ただちょっと、元気がなかったなくらいのもんだ。
いつもはしゃいで冗談ばかり言ってるやつだったから。
その程度だから、そんときは誰も気にしてなくて、
まさかあんなことになるなんて思ってもみなかったんだよ。
・・・あんなことってのは、そこに行ってから2日後にIが自殺したんだ。
それも例のパチンコ屋の廃墟に昼間一人で出かけて、
2階に上がる階段のとこで首を吊ったんだよ。
発見されたのは、捜索願いが出てから4日後だ。

・・・私生活で悩んでることなんて俺が知ってるかぎりじゃなかった。
彼女とはうまくいってたし、仕事のほうも、つねに給料が少ないと

愚痴ってはいたが、ローン組んで中古のアリストを買ったばかりだったんだ。
警察が検屍をして、俺らのうちでも話を聞かれたやつがいたけど、
自殺で事件性はなしってことになった。あんな死に方だったから

葬式は家族だけでやって、俺らは出られなかったよ。もしかしたら当人にしか

わからない事情があったのかもしれないが、こうなったのは、やっぱ

心霊スポットに行ったことと関係があるんじゃないかって思うだろ。で、俺の

アパートに残り3人が集まって、そのときのビデオを検証することになった。
それが一昨日のことだよ。みな仕事の後だから夜の9時過ぎになってやってきた。
ビデオカメラは俺ので、ざっとモニターで見た

だけだがおかしなことはなかったと思った。

パソコンにビデオをつないで、ビール片手に3人で見た。映像はほとんど

俺が撮った。まず車から降りてパチンコ屋の建物に向かうとこから始まる。
懐中電灯は全員強力なのを持ってたから、それで照らされた場所を主に写してる。
けっこう画面は明るい。柵とかロープもなにもない、
完全に放置されたパチンコ屋の表のガラスの割れた部分から中に入っていく。
みな画面に注目してて話もしない。下に落ちてるガラスを

ガチャガチャ踏みながら、パチンコ台の並ぶ通路を歩いていく。
何か大声で叫びながら落ちてたパチンコ玉を投げてるやつがいる。
音声が割れてて何を言ってるかわからないが、どうせ無意味な言葉だろう。
どこもかしこも数十年分の埃と蜘蛛の巣で薄気味悪い。
目立つ落書きにも懐中電灯をあてて撮っている。

20分ほどで1階が終わって、2階に上がるところになった。
話ではこの階段の上の手すりにロープを結び、自分の首にもかけて

Iは飛び下りたらしい。階段は片側にパチンコ台やダンボールが

積まれてせまくなっていて、俺らが一列で上っていくとこが映ってる。
で、2階に出たところで、見ていたMが「なんだよ、今のおかしいだろ」

とぼそっと言った。「ん、俺が入ってることか? 

こんときは窓の桟にビデオを置いて撮って、すぐ回収したんだ。後で

編集しようと思って凝った撮り方をしてる。だから全員映ってるのは

変じゃない」 「そうじゃなくて、俺ら4人で行ったのに、

5人いる」 「え?!」・・・巻き戻してみた。
列の先頭がI、懐中電灯をかまえて、さほど怖そうな顔もせず上がっていく。
次がO、M・・・最後が俺のはずだ。この後にカメラを回収したから。

ところが俺の後ろにもう一人いる。そいつは懐中電灯を持ってないし、
誰からも照らされてないから黒い影になってるが、人なことは間違いなかった。
「えー嘘だろ、ありえねえよ」俺が言った。OもMもビビリきった顔になってる。
「これ、Iに似てると思わないか。背格好が」
「もしかして、走って2階をまわって、別の階段から下りてまた

列の最後に来たんじゃないか。俺らを驚かせようと思って」
「無理だよ、俺のすぐ後ろに続いてるだろ。
Iが先頭で上に出てから5秒くらいしかたってない。
確かに下りる階段もあったが、時間的に絶対不可能だ」
「じゃあ誰なんだよこいつ」
「もう見るのやめようぜ、俺らまで祟られるかも。処分しちまわねえか」

「いやダメだ。Iがああなった原因があるかもしれないと思って見てるんだから、
なんとか解明しなけりゃあいつも浮かばれねえだろ。そんなに怖いのか」
「これもっと明るくできないか。もしかしたら何かの関係で影がこう

見えてるんじゃないか」 「カメラのほうを明るくしても無理そうだな。

1回映像ソフトに取り込んで光量を上げてみる」それで、画像ソフトに

ビデオ全体を取り込み、階段を上るシーン10秒くらいの光量を上げて

スローで再生した。「首から上は画面から切れてる。これ黄色いよな」
「ああ、Iが着てるパーカーと同じに見える。やっぱIが2人に分裂してるのか?」
「いや、着てるものに模様がある。何か字が書いてるように見える。
Iじゃねえんじゃねえか・・・」
「まて、もう少し光量上げてみるから」

「あ、あ、これIの黄色いパーカーと同じだけど、字が書いてる」
「自殺、自殺・・・・」
あの、怪談で裸の体中にお経書くやつあるだろ。あれみたいに、

パーカーの全体に5cmくらいの大きさでびっしり書いてあったんだ。
自殺、自殺、自殺、自殺、自殺って20個以上。字ははっきりしないが、
全体として見ればそうとしか読めない。印刷じゃなく手書きの文字に思えた。
「なんだよ、これ・・・」Mがそう言ったとき、
部屋の電気がバチンと消えた。ベッドの上に座ってた俺らは全員立ち上がった。
「ブレーカーが落ちたのか?」
パソコンはついたままだが、これはバッテリーに切り替わったせいか。
パソコンから目が離せなかった。

なぜなら画面の中の人物がゆっくりと体を沈めて、
顔が正面から画面に入ってきた。目を閉じているがIの顔だと思った。
鼻の上部、眉間のところに、服と同じ字で自殺って書いてあった。
Iはゆっくりと目を開け、カメラのほうを見たままぼそっと言った。
「お前らのせいだ」 「うわー」誰かが絶叫した。バチンと電気がつき、

かわりにパソコンの画面がブラックアウトした。・・・パソコンはおしゃかで、

どうやっても回復しない。リセットもできなかった。
ビデオのほうはここに持ってきてある。あれから一度もさわってない。
あんたら専門家だそうだから、こういうのどうすればいいかわかるんだろ?
俺もいっしょに見ろって?もう一回あれをかよ。・・・わかった、わかったよ。