タイトルなしaas

今回はこういうお題でいきます。カテゴリはオカルト論かな。
これも地味な話題で、みなさんが興味を持たれるかどうかはわかりません。
さて、「ウエンディゴ」とは、アメリカ合衆国北部から、
カナダにかけてのアメリカ先住民、オジブワ族などに信じられている
悪霊というか、一種の精霊です。

その姿はいろいろ言われますが、身長が高く痩せこけていて、
皮膚の上から骨格がわかる。目は落ちくぼみ、唇はボロボロ。肌は灰色で、
大鹿のような角を持っているともされます。また、ウエンディゴは
強い腐敗臭を放っていて、近くにくるとすぐにわかるということです。

北アメリカ大陸の北部はかなり気温が低く、ウエンディゴは、
冬、寒さ、飢餓の象徴であると見られることが多いですね。
森の中を一人で歩いていると、ふと近くにウエンディゴがいる気配を感じ、
そのうちにウエンディゴにとり憑かれてしまいます。そうすると、
その人物は自分自身がウエンディゴになったと思い込んでしまう。

そうすると、いくら食べてもお腹が一杯にならない、満足しないという
状態になり、目につく食べ物をすべて食べつくすと、
近くにいる人間を手あたりしだいに襲い、殺して食べてしまう。
このあたりは、日本の「餓鬼」や「ヒダル神」に似ているかもしれません。

ヒダル神


また、自分がウエンディゴになったと思いこむところは、
「犬神憑き」や「狐憑き」との共通点があるようです。
アメリカ先住民は、部族の誰かがウエンディゴにとり憑かれた場合、
火を焚いて太鼓の周囲を後ろ向きに回るなどの儀式を行ったとされます。

さて、このウエンディゴの名をとった精神疾患の一つに、
「ウェンディゴ症候群」があります。最初は気分が落ち込み、
食欲がなくなります。そうして、自分がウェンディゴになったと思って
他人を襲い始める。この場合、儀式で回復しなければ処刑されたようです。

ウェンディゴ症候群の有名な事例としては、カナダのアルバータ州で、
1878年 の冬、雪の中に孤立したスウィフト・ランナーと彼の家族は
食料が尽き、まず長男が餓死すると、ランナーはその遺体を食べ、
さらに妻と残りの5人の子供たちも殺して食べてしまったんですね。

ランナーが殺して食べた家族の遺骨


ランナーは春になって逮捕され、当局によって処刑されています。
この事例なんかは、ウェンディゴが人肉食のタブーと深い関係に
あることを物語っているようです。食料がなくなって、
人を殺して食べることの罪悪感が、ウェンディゴにとり憑かれたと
思い込むことで軽減されるのかもしれません。

さて、話変わって、みなさんはアルジャノン・ブラックウッドという
人物をご存知でしょうか。イギリスの短編ホラー小説家で、
「妖怪博士ジョン・サイレンス」が活躍するシリーズが有名です。
代表作として『いにしえの魔術』 『犬のキャンプ』などがあります。

アルジャノン・ブラックウッド
タイトルなしqqqw

太古から信じられている超自然的な存在が出現する恐怖をモチーフとする
作品が多く、「クトゥルー神話」のH・P・ラブクラフトにも大きな
影響を与えています。また彼は生涯独身で、
秘密結社「黄金の夜明け団」に所属する魔術師でもありました。

ブラックウッドは、1900年代の初めに、上記のアメリカ先住民の
伝説をもとにした『ウェンディゴ』という短編を書いていて、
これも傑作の一つと言われます。なぜイギリス人が、
アメリカ先住民の話を書いたかというと、どうもこのころ、イギリスでは
アメリカ先住民の文化に対するブームがあったみたいなんですね。

有名な「シルバーバーチの霊訓」は、イギリスの心霊主義新聞を
主催していたモーリス・バーバネルという人物が、
高位の霊である「シルバーバーチ(シラカバという意味)」
と接触して、そのメッセージを書き伝えたものです。

シルバーバーチ レッドインディアンの姿を借りている
タイトルなしde

シルバーバーチは霊訓の中で、アメリカ先住民の体を借りていると
述べています。この時代のイギリスの文献を少し調べると、神智学協会など、
あちこちにアメリカ先住民の精神文化の影響が見られます。
インド思想の輪廻などとともに、キリスト教とは異なった叡智として
受け入れられていったみたいですね。

さて、ウェンディゴの影響のもとに書かれた作品としては、
オーガスト・ダーレスの短編『風に乗りて歩むもの』が有名です。
ここで出てくる「イタカ」という精霊は、ウェンディゴと同一視されます。
また、スティーブン・キングの長編『ペット・セマタリー』なんかも、
その系統に連なるものだと思います。

『ペット・セマタリー』には、アメリカ先住民の禁断の土地が出てきてましたが、
作品のテーマである死者の復活は、アメリカで強い勢力を持つキリスト教的には
いろいろ問題があります。そこで、太古の「インディアンの呪い」
をベースにして、小説のストーリーを組み立てているんですね。

さてさて、ということで、ここまで読んでいただいた方がどのくらい
おられるでしょうか。じつはこの話、アメリカのニューエイジ・ムーブメント
までつながっているんですが、もう余白がありません。
それはまた書く機会もあるでしょう。では、今回はこのへんで。

ペット・セマタリー
タイトルなし