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今回はこういうお題でいきます。今流行のコロナウイルスは、
日本では豪華客船、ダイヤモンドプリンセス号がその序章と
なりましたが、タイタニック号が沈んだのは、
100年以上前になる1912年のことです。

イギリス、ホワイト・スター・ライン社の北大西洋航路用
豪華客船で、蒸気機関で駆動しました。4万6328総トン。
速力は23ノット (42.6km)で、客員定数は約2500人。
当時としては高度な安全対策が施されており、船底は二重で
不沈船などとも呼ばれました。

ところが、1912年4月14日深夜、氷山に接触。
翌日未明にかけて沈没してしまいます。これは処女航海中の
出来事です。乗客乗員合わせて2200人以上のうち、
1500人前後(正確な数は不明)が死亡します。

タイタニック号
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事故の原因は、氷山の発見が遅れたことで、目視したときには
すでに回避不能になっていました。救命ボートに乗れた者は
全体の約3分の1、1500名ほどが沈みゆく船体に
取り残されてしまいます。船は衝突から2時間40分後に
船体が2つに折れて沈没。

4月の海は-2℃の冷たさで、多くの乗客は低体温症で
短時間のうちに死亡したと見られています。救命ボート以外の
生存者はわずか2名だけでした。まあ、このあたりのことは
みなさんよくご存知だと思います。で、大量の死が起きた
劇的な出来事には、必ずと言っていいほどオカルトが発生します。

沈むタイタニック号
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日本でも、1954年。青函連絡船 洞爺丸の沈没事故が起き、
1155名が亡くなる大惨事になりましたが、後日、たくさんの
幽霊話が語られています。事故死者が船のスクリューを傷つける
なんて話もありました。では、タイタニック号のオカルトには
どんなものがあるか。有名なのが2つありますよね。

一つはミイラの呪いに関するオカルト。タイタニック号の荷室には、
大英博物館からニューヨークのメトロポリタン美術館へと
送られる予定だった、エジプトのファラオのミイラが積まれており、
その呪いによって船が沈んでしまったというもの。もしこれが
本当だったとしたら恐ろしい話ですが、都市伝説の域を出ません。

現在のタイタニック号
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これについては以前に書いているので、詳しくはふれませんが、
タイタニック号の積荷の記録にはミイラ、あるいはそれに
類する古美術品という項目はありません。実体のない話なんです。
ただ、それではツマラナイので、「ミイラを正規のルートで
送れなかったバイヤーが、船に積んだ車のトランクに隠していた」

という話がつけ加えられています。ですが、ここで話に出ている
ミイラは海に沈んではおらず、まだ大英博物館に収蔵されて
いるんですね。このデータは、大英博物館のウエブサイトで
確認することができます。さて、もう一つは、

大英博物館のミイラ
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タイタニック号沈没を予言した小説があった、というもので、
事故の14年前の1898年に発表された、アメリカ人の元船員
モーガン・ロバートソンの短編小説『タイタン号の遭難、
または愚行』の内容が、実際の事故に酷似していたため、
事故を予言した小説として話題を集めました。

うーん、この小説、日本には翻訳されてないんですよね。
ただ、著作権が切れているので海外サイトで英語で読めます。
で、読んでみると小説としての出来はかなり悪いです。
冒険小説なんですが、話の内容が荒唐無稽で
実際に起こりそうな感じはまったくありません。

それと、タイタニック号(小説ではタイタン号)に関する描写は
全体のわずか2ページほどで、幼い少女とともに生き残った
船員の主人公が氷山の上でホッキョクグマと戦い、
ナイフだけで仕留めるとか、ありえない内容になっています。
まあ、ヒマつぶしに読み飛ばすような本なんです。

『銀河鉄道の夜』 タイタニック号の乗客の幽霊たち
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それから、最初の題名は『愚行 Futility』だったのが、
タイタニック号の事故の後、上記の『タイタン号の遭難、または愚行』
に改められています。それと同時に、船の排水量についても
変更がなされています。これは現実の事故に合わせて
本を売ろうとする戦略ですよね。

実際と違っているところも多々あります。列挙するまでも
ないので一つだけ。小説では、犠牲者の数は3000人と
読み取れますが、これは実際の事故の倍の数です。
あと、同じロバートソンの著作を見ても、この作以外に
未来を予言したと言われるものはありません。

ギリシア神話の巨人タイタン(ティターン)
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まあ、小説が書かれた当時、タイタニック号という船がなかったのは
確かであり、「タイタン」という船名が予言と言えなくは
ないでしょう。ただ、タイタンはギリシア神話に登場する
巨人族なので、将来的に巨船が建造されたとき、
この名前になる可能性はかなりあったと考えられます。

さてさて、タイタニック号と言えば、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の
後半部分で、沈没の犠牲者らしき姉弟が列車に乗ってきて、
主人公たちと「たった一人の神様」についての議論が交わされる
シーンが印象的でしたね。では、今回はこのへんで。

この挿絵は蒸気船ではなく帆船のようです
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