あ、僕、山本といいまして、今25歳です。仕事は
建築事務所で設計士をやってます。それで僕、親父が
転勤の多い会社で、小中の頃に10回くらい転校してるん
です。1年に1回のペースですね。ですから、その頃の
友だちっていないんですよ。まあ、慣れっこになってました。
4月に新しい学校に転校してきて、イジメを受けないよう
目立たなくして過ごし、3月に転校していく。もちろん
高校は親戚の家に下宿して、3年間同じとこにいましたけど。
それでね、いつの頃からか夢を見るようになったんです。
これ、いつからか覚えてないんですけど、同じ夢を見てた
時期があるんです。うーん、中学校時代です。

小学生のときは見てないですかね。中学校2年から3年に
かけてかなあ。見る頻度は、月に1回くらい。それが、
ものすごく気味悪い内容なんです。夕方ですね。青い月が
見えてて、僕は建物の屋上にいるんですが、まわりの景色を
みるかぎり、そんなに高くない。せいぜい3階か4階。
あれは団地なのかなあ、工場のようにも思えたし。よくわかんないん
ですが、そこにかなり大きな給水塔があるんです。ええ、
屋上の給水塔。その横についてる錆びた鉄のはしごを
昇ってるんですが、すごくリアルで、はしごの表面が手の中で
ぽろぽろ崩れてくのがわかるくらい。そんな夢ってふつう
ないですよね。で、僕の上を昇っていくやつがいるんです。

いや、前にいるから顔は見えないんです。夢の最初から最後まで。
背格好はその当時の僕と同じくらいで、つまりそいつも中学生だと。
で、塔の上までくると、そいつは後ろを向いたまま点検用のフタの
ハンドルを回しはじめて、僕は脇で立って見てる。で、フタが開いて
マンホールみたいな穴が出てきたところで、僕はしゃがんでる
そいつを後ろから押して穴に突き落とす。水が入ってたかどうかは
わかりません。落ちた音は聞こえなかった気がします。
そのとき、すごい満足感があるんです。ついにやった、みたいな。
でもね、さっき話したように、そのときイジメられてたとか、
憎いやつがいたとか、そんなことはまったくなくて。
ただただ不可解な、嫌な夢で。そのあたりで目が覚め、

心臓がすごいバクバクしてる。まあでも、高校に入ったとたん、
その夢はまったく見なくなりまして。父親には夢の話は
したんです。そしたら、「ああ、転校が多いから無意識の不安感で
そんな夢を見るのかもしれんな。お前には苦労をかけるな」
みたいに冗談めかして言ってました。それでですね、つい
2週間ほど前、中学のときの同窓会があったんです。僕が
3年のときにいた学校の。20歳のとき、成人式に合わせて
やったみたいですけど、僕はその市の住民じゃないんで、
当然 案内はこなかったんです。そんときに同窓会もあって、そっちは
いちおう僕にも連絡はきたんですが、仕事が忙しくて行かな
かったんです。いや、その市は今住んでるとこからは、そう

遠くないんですけど。でね、それから5年たって、またやろう
ってことだったみたいで、今年、案内がきて。それで、行こうかって
思ったんですよ。1年だけのつき合いだったし、僕を覚えてる
やつは多くないだろうけど、せっかくだしなと考えて。それと、
その市には、有名な建築家が設計した美術館があるんです。
一泊して、翌日にそこを見学してから帰ろうかと。同窓会は
駅前のホテルで、会場に入ると受付に何人も女子がいて、胸に
名札つけてたんですが、字面に記憶はあるものの、顔とまったく
一致しませんでした。会費を出し、中学のときの組と
名前を言って自分の名札をもらってつけました。で、座席表を
見ながら席についたんです。当時の先生方も来賓として何人か

来られてて、そっちのほうは顔、覚えてたんです。で、乾杯の後、
歓談になりましたが、誰も僕のとこに話しにくるやつが
いなくて。まあしょうがないかと思い、立ち上がって見渡すと、
知った顔がありました。その中学に転校して一番親しかったやつです。
で、ビール持ってそいつんとこに行ったんです。顔はあんまり
変わってなかったです。「よう、久しぶり」と言うと、
そいつはとまどった様子で僕の顔と名札を見比べ、「いやあ、
山本か。なんか様子が変わったなあ、ぜんぜんわからなかった」
って言って。僕のほうはそんな、変わったつもりはなかったん
ですが、まあそんなもんかと思って・・・でも、その後そいつが
しゃべったことに仰天したんです。「あんとき大変だったな、

死体を見つけて」 「ええ、死体?」 「覚えてるだろ、
廃工場に入って俺たちで死体を見つけたこと」 「えええ?」
僕にはまったく記憶がなかったんです。そいつが言うには、
放課後、もう一人のやつと3人で、給水塔に上がろうとして廃工場に
しのび込み、たまたま死体を見つけて警察を呼んで騒ぎになったって。
「え、給水塔? なんで?」 「ああ、何でだっけか?」でも、そんな
大事件、まったく記憶にないとかありえないですよね。一瞬、あの
夢がそのときのことかとも考えたんですが、その死体はホームレスで、
見つけたのも工場の隅の機械の陰。それ、11月のことだって
言ってましたから、夢はその前から見ていたわけだし。ホームレスは
40代で持病があり、そこで力つきての病死だったって・・・

それでね、その後、さらに不思議なことがあったんです。幹事の中に
気の利いたやつがいて、何冊か卒業アルバムを持ってきてて、
僕のテーブルに回ってきたんですが、一人ずつ写ってる写真が
まったく自分とは思えなかったんです。「なんだこりゃ」と
思いました。たしかにその頃、そういう髪型はしてたんですが、
眉が太く、ギョロ目で、僕だとは思えませんでした。驚いて、
近くのやつに「俺、こんな顔してたか」って聞きました。そしたら
そいつは、「スマン、よく覚えてない」って。もちろんそのとき
持ってきてたアルバムは全部同じ物。でも、中学校を卒業してからも
写真撮りましたけど、全部僕の今の顔なんですよ。・・・じゃあ、
その前は、小学校の頃はどうだったか、後で確かめなければ

ならないと思いました。その日は、気持ちが悪くなって途中で
帰ったんです。会場の近くにビジネスホテルを予約してたので、
そこで風呂に入って寝ました。そして、何年ぶりかであの夢を
見たんですが・・・内容が違ってました。僕が誰かの後を
ついてくんじゃなく、先になって給水塔を昇ってました。
え、と思いましたが、後ろから追いかけられる形でどうにも
なりません。上に出ると、足元がぶかぶかして今にも
穴が空きそうでした。これも、昔の夢とは違います。
後ろのやつが「フタを開けろ」と言い、さからうことができず、
ハンドルを回していくと・・・中に人が横たわってるように
見えたんですが、顔まではわかりませんでした。

このまま後ろから突き落とされるのか。でも、そこで夢は
終わったんです。翌日は、美術館の見学はせず、すぐに
帰りました。で、自分の部屋にはアルバムなんて置いて
なかったので、母に連絡したら、小中とも取ってあるとのことで。
それで、送ってもらったのを見て愕然としたんです。まず、小6の
卒業アルバムは、個人写真の顔は今の自分とよく似てました。
記憶にあるとおりでしたよ。ですけど中学校のは・・・
同窓会で見たのと同じ、いや、よく見ると頭の右後ろに小さく
給水塔らしきものが・・・ 同窓会のときは気づかなかったんですが、
こんなことありえないですよね。この写真は室内で撮ったはずなのに、
こんなものが何で? とにかく、わけがわからないんです。