今夜もしつこくクリスマスの話をします。実証主義的にみると、
旧約聖書はもちろん、新約聖書の記述もたいへんあつかいが難しいです。
これはどこまでが実際の史実であるのか、他の資料で保証されない
部分があまりに多いうえ、細部が書かれていない場合もあるからです。

例えば、今の西暦はキリスト生誕が紀元であるとされますが、
実際には、キリストが生まれた年は紀元前8年から紀元6年ごろまで
諸説ありますし、誕生日についても聖書に記載はありません。ですから、
12月25日を生誕の日とすることに根拠はないんです。ただ、わからないと
困るので、この日にすることに決まっているというだけなんですね。

幼子イエスと父ヨセフ ラ・トゥール
キャプチャddddf

さて、下の画像はプレゼピオ(伊 Presepio)と言います。
プレゼントと語感が似ていますが、関係があります。キリスト生誕の場面を
表したジオラマのようなもので、日本では一般的ではありませんが、
フランス、イタリアなどのカトリックの多い国では普通に見られ、

とくにイタリアでは、クリスマスツリーよりもこちらのほうが主流
かもしれません。教会では実物大の場合もある大きなもの、
各家庭でも代々受け継がれたミニチュアを飾ります。
アメリカはプロテスタント中心で、ある家庭は少ないですが、
英語では最初が大文字の Nativityと言うようですね。

プレゼピオ


人形の人物は、基本的には聖家族(母マリア、父ヨセフ、幼子イエス)
ですが、これに東方の3博士や羊飼い、羊の群れやその他の動物たちが
加わることもありあます。東方の3博士というのは、新約聖書
『マタイによる福音書』に出てくる人物で、おそらくペルシア、
ゾロアスター教の占星術師(あるいは天文学者)のことと考えられます。

彼らは自分から見れば占星術の大先輩にあたるわけですね。
突如天空に出現した救世主の星に導かれ、ユダヤ人の新たな王の
誕生を祝うため、当時は寒村でしかなかったイエス生誕の地、
現パレスチナのベツレヘムにやってきたのです。

じつは、このあたりのこともよくわかっておらず、聖書マタイ伝には、
博士たちの人数も書かれていません。ただ、彼らはイエスを見つけて伏し拝み、
乳香、没薬、黄金の3つの贈り物を授けたことから、人数は3人とされ、

 

メルキオール(黄金)、バルタザール(乳香)、カスパール(没薬)

などと仮の名前がつけられているんです。

これが、クリスマスプレゼントの起源というわけです。

ヘロデ王
キャプチャ

3博士を導いたのが救世主の星、ベツレヘムの星とも言われますが、
これについてもはっきりしてはいません。天文学者の間では、

この2000年の間にさまざまな意見が出され、あの、ケプラーの法則の

ケプラーは、木星と土星の接近説を出していますし、

SF作家の大御所で科学啓蒙書も書いているアイザック・アシモフも、
ベツレヘムの星として考えられる9つの説、というのを提示しています。
ま、よくわからないんですが、もしあったとしたら彗星か超新星爆発など、
そのときにだけ見ることができた星という主張が多数派のようです。

さてさて、題名の「幼児虐殺」を行ったとされるヘロデ王は、
ローマ帝国初期にユダヤ地区を統治したユダヤ人の王です。前述の
東方の3博士は、星に導かれイエスを探す旅の途中でヘロデ王のもとに
立ち寄り、救世主誕生の事情を話しますが、王の反応から事態を察し、
イエスを見つけたことは知らせずに帰っていきます。



救世主により、自分の地位がおびやかされることを怖れたヘロデ王は、
ベツレヘムの2歳以下の男児をすべて殺すように命じ、
命令は実行されてしまいます。聖書の中でもかなり残虐な
場面なんですが、史実と認めるのは難しいようです。
ヘロデ王の生涯はかなり詳しくわかっていますが、幼児虐殺については、

歴史家の著作はもちろん、マタイ伝以外の他の福音書にもその記述は
ないんです。ですから、マタイ?によるドラマチックな創作と
見るむきもあります。ヘロデ王はかなり強権的な政治をとり行い、
ユダヤ教の高位の司祭や、自分の息子2人も処刑していますので、

そういったことが、この幼児虐殺のエピソードに反映しているのかもしれません。
また、もし幼児虐殺が史実であったとしても、当時のベツレヘムは
小さな村で、人口は1000人未満程度であったと考えられ、
2歳以下の男児はせいぜい数十人だったでしょう。

幼児虐殺
キャプチャfffffg

これがキリスト教の物語では人数がふくれ上がり、数万人とも
されています。なお、このとき殺されたとされる子どもたちは、
キリスト教 最初の殉教者として、「聖嬰児」などとも呼ばれています。
ちなみに、天使がヨセフの夢に現れて逃げるように言ったため、

イエスの家族はエジプトに逃れて難を避けることになります。
父ヨセフは貧しい大工でしたので、この逃避行の資金には、
3博士がプレゼントしたという黄金が役立っているのかもしれません。
このように、聖書の記述には、詳細がわからず後世につけ加えられた
部分が多いため、物語として見ていくしかないんですね。

中央が救世主の星、クリスマスツリーの星もそうです