※ ここからの話はコテコテの大阪弁を共通語に直したものです。

あ、ども。じゃあ、さっそく話をさせてもらうから。俺な、
今は地元のスーパーへ食材を配達する仕事してんだ。もちろん、
正社員じゃなくバイト。俺、中卒だから、正社員にはなかなか
なれないんだよ。ああ、地元ってのは大阪近郊の〇〇市だ。
高校は行ったが、1年もたずに退学になっちまった。
俺、中学のときからヤンキーだったんだよ。わかるだろ、
不良ってことだ。といってもな、大阪も昔に比べればひどく
大人しくなった。暴走族もまだ あるにはあるが、警察が厳しいし、
せいぜいつるんで走るくらいだよ。族どうしの抗争なんて
やらねえ。ケガしてもつまんねえしな。でな、ヤンキーってのは
なかなか地元を離れたがらねえんだ。何でだと思う?

じつはな、ヤンキーってのは中学時代が人生の絶頂期でな。
けど、いったん地元を離れるとただの低学歴のバカってことに
なるだろ。だから仲間の多くは地元にいる。そうすれば当時の
人間関係がそのままだし、中には間違って成功しちまうやつもいる。
まあ少ねえけど、そういうやつに雇ってもらうこともできるし。
ああスマン、なかなか本題に入っていかねえが、これも関係が
ある話なんだよ。その中学時代のヤンキー仲間に室田って
やつがいてな。こいつは工業高校へ行ったが、やっぱ2年で
ドロップアウトした。けど、室田は就職の心配はなかったんだ。
家が、そこそこ大きい建築会社だったんだよ。そこで、
職人の見習いみたいなことをずっとやってたんだ。

もちろん超絶的に頭は悪いんだが、こいつモテたんだよな。
それに家から給料という名の小遣いをもらってて、金もあった。
まあ、俺らの仲間内じゃ、中ボスって感じでな。
車好きで、中古のクラウンを改造して乗り回してたが、助手席に
座る女がいっつも違ってた。で、とうとう、そのうちの一人に
子どもができちまって、19歳で結婚する直前に死んじまったんだ。
港に近いラブホテルの一室で血を流して倒れてるのが見つかった
んだが、包丁で脇腹を刺されての出血多量。犯人はすぐ
判明したよ。室田とつき合ってた女の中の一人だった。
もう裁判も終わって、その女は刑務所にいるよ。殺人じゃなく
傷害致死になったから、そんなに長い年数じゃねえだろ。

警察もヤンキーの末路ってことで、あんまりやる気なかったし。
まあ、ここまでならよくある話なんだが、室田の父親がな、
一人息子なんで、かなりがっくりきててな。できの悪い子ども
ほどかわいいってやつだろ。それでな、そのラブホテル、もともと
経営がやばかったんだが、殺人事件で客がまったく入らなくなり、
そこで室田の親父の会社が買い取ったんだよ。更地にして
資材置き場にした。まあな、そこまではよかったんだが、
室田の親父、新興宗教に入っててな。神道系だった。で、
資材置き場の隅に神社みたいなのを建てたんだよ。なあ、
今から思えばありえない話なんだが、室田の親父は大真面目で、
新興宗教の偉い人が何人も来て、大々的な儀式をやった。

で、このときは俺ら地元のヤンキーは招待されなかったが、
噂が広まってな、みなでいちお お参りに行っとこうかって
話になり、総勢十数人で行ってみた。赤い鳥居があって、
その数m奥に小さな建物があったが、神主なんかはいなくて、
社殿の戸は開いてて、ロウソクが灯されてた。たぶん、
資材置き場に来る社員が世話してたんだろう。鈴と賽銭箱が
あった。誰かが「室田さんの神社なんだから、小銭はダメだぞ」
と言い、みな、しぶしぶ財布から1000円札を出して
投げ込んでた。まあそういうことで、俺らはそこを
室田神社って呼んでた。けど、室田に世話になったやつは
多くはなかったから、足しげく行くやつはいなかったんだよ。   

それから1ヶ月くらい過ぎて、俺、夢を見たんだよ。
俺が自分の部屋で寝てる夢で、布団の上に黒いものが浮いてた。
それ、顔を見たら室田だったんだよ。ただ、室田の顔は下半分
黒いヒゲだらけになってた。頭には烏帽子みたいなのをかぶり、
手にはやはり黒い靴べらのようなのを持ってたな。あと黒い着物。
室田はなんだかおごそかな表情をして、靴べらで俺を叩く
真似をし、「なぜ、私の神社にお参りに来んのだ。この
罰当たり者が。早く来い。あ、あとな、私はもう金はいらん。
そうだな、エロDVDとかそういうのを持ってこい」
こんなことを言って消えたんだよ。そこで目が覚め、呆然と
していた。いや、まったく怖くはなかったな。

むしろおかしかった。「室田のやつ、自分のことを私なんて       
言いやがって、しかも共通語なんか使って、どうなってんだ。
エロなのは死んでも変わっちゃいないみたいだったが」
そんなふうに思ったんだ。でな、その日の夕方に室田神社に
行ってみたら、俺の他にも何人かお参りに来てるやつらがいた。
で、そいつらと話したところ、やっぱ俺と同じに前夜夢に
室田が出てきたって言うんだ。その時間以外にも来たやつが
いたみたいで、賽銭箱の前にはエロ関係のものが山と積み上げられて
たんだよ。「室田のやつ、神様になったのか。しかしありゃ、
神様じゃなく悪霊だよな」そんな話をしながら帰った。
それから、これは噂で聞いたんだが、近くに住んでるやつの

話だと、室田神社の真ん前で、よく猫が集会を開いてるって
ことだった。そこの町内のノラ猫が10匹以上も集まって、
鳥居の前にいる。集会と言っても、話し合いをしている様子はまるで
なく、ただ寝そべってるだけ。さらにそのうち、やはり室田神社の
前で動物が死んでるのが見つかるようになった。猫だけじゃなく
ノラ犬や、狸までいたそうだ。でも、別に傷なんかはなく、
自然死っていうか、病死や老衰で死んだ動物。なんか気味悪いだろ。
それで俺らは室田神社には行かなくなったが、そうすると
また前と同じ夢を見るんだ。神様のかっこうをした室田が出てきて
靴べらで叩くっていう。まあでも、大きな実害はないし、
神様に知り合いがいるのも悪くないって思ってた。

でな、ほら俺、最初にスーパーの仕事してるって言ったろ。
そこに地元の大きな神社の神主さんが訪ねてきて、俺に会いたいって
ことで、別室で話をしたんだよ。室田神社のこと、それから
夢のことも根掘り葉掘り聞かれたが、べつに隠すようなことでも
ないんで、正直に全部話したんだよ。そしたら神主さんは、
「ありがとうございました」って帰ろうとしたんで、
「どういうことですか?」とこっちから聞き返した。神主さんは
ためらってたが「どうも室田さんは、自分が神様になったと
勘違いしてるようで、しかもあの神社、動物霊などのたちのよくない
低級霊が集まってきているみたいです、何か悪いことが起きそうで、
あなたも近づかないほうがよろしいですよ」こんなふうに言われたんだ。

でな、室田神社は一度台風の日に壊れたんだが、父親がすぐ修繕した。
室田神社のまわりでは、夜になるといろんな動物がうろつき回り、
犬と猫が追いかけっこしてるなんて話も聞こえてきた。
ああ、3年過ぎたあたりで、室田が夢に出てくることはなくなったよ。
それから6年して、もう俺は室田神社には近づかなかったが、
室田を刺した犯人の女な、初犯だったし模範囚ということで、
刑務所から出てきたんだよ。で、室田神社の話を聞いて、お参りに
行ったらしい。いっしょに行ったやつから聞いたんだが、その女が
鳥居をくぐると、屋根にたくさんいたカラスがバッと飛び立ち、
おーんという大きな音が響いたってことだった。それでその夜、全焼し
ちゃったんだよ。その女は、地元を出てどこへ行ったかわからないよ。

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