アメリカの移動カーニバル
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今回はこういうお題でいきますが、できるだけブログの趣旨に沿った、
オカルトな内容にしたいと思います。さて、みなさんはプロレスは

お好きでしょうか。自分はけっこう好きです。

ただ、自分は小学校から大学まで柔道をやっていたので、
見始めた少年時代から、プロレスが、いわゆる「本気でたたかう競技」
ではないことはわかっていました。

まず、本気の競技だと、ああいうゆっくりした間にはなりません。
たえず動き回っていなくてはならず、選手同士が互いに技を出し合う

という形にはならないんです。総合格闘技はそうですよね。
また、ブレーンバスターやボデイスラムという技がありますが、
かけられるほうが踏ん張れば、簡単には人間の体は持ち上がりまん。

プロレスはすべて、細かい約束事から成り立っています。
例えば、ヘッドロックという頭を締めつける基本技がありますが、
あれは必ず左手でやることになっています。youtubeで、どれでもいいので
プロレスの試合を見てもらえばわかりますが、ほぼ100%左腕です。

カーニバル・レスラー
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これは、そのほうが、かけられた相手がバックドロップなどで返しやすい
ということもありますし、初顔同士のプロレスラーの対戦でも、
約束事があればスムーズに試合を運ぶことができるからで、

ケガの防止にもなります。数ヶ月に1試合のボクシングとは違って、

プロレスは毎日のように興行があるので、
相手にケガをさせないことが大切です。

さて、自分はなにもここでプロレスを貶めるつもりはないですし、
秘密を暴くのが目的というわけではありません。アメリカ文化の一つとして、
プロレスを大いに尊敬しているつもりです。上でボクシングの話を少し

書きましたが、アメリカにおけるボクシングとプロレスはルーツが違います。

ボクシングはもともとヨーロッパで始まったもので、
それが開拓者とともにアメリカにも伝わりました。ボクシングの創成期には、
マフィアがからんだ八百長もありましたが、基本的にはガチの試合です。
これに対し、プロレスには善玉(ベビーフェイス)と悪役(ヒール)がいて、
試合の勝敗も最初から決められています。

フレンチ・エンジェル(怪奇レスラー)
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なぜそうなのかというと、アメリカのプロレスのルーツが「移動カーニバル」
からきているからなんですね。移動カーニバル(traveling carnival)は、
国土の広いアメリカをサーキットして回る興行で、みなさんも、アメリカ映画で
子どもが射的なんかをやってるシーンをご覧になったことがあると思います。

特に、テレビのまだなかった時代には、移動カーバルが町にやってくるのは、
娯楽の少ないアメリカの田舎町の住人には、たいへんな楽しみだったんです。
ちなみに、アメリカは南北にも広く、北部は冬とても寒いので、
移動カーニバルは基本的に、夏の暑い時期に北部、
冬場は南部のほうを回ることになっていました。

この移動カーニバルがアメリカ文化に与えた影響って、ひじょうに大きいんです。
SF作家のレイ・ブラッドベリには、長編『何かが道をやってくる』、
短編集『黒いカーニバル』がありますが、どちらも、
子ども時代のカーニバル体験への郷愁から書かれた作品です。
トルーマン・カポーティの『遠い声 遠い部屋』なんかもそうですね。

カーニバルは楽しいだけではなく、不気味な出し物もありました。
怪しげな占い師がソロテントの店を出していたり、
エレファントマンのようなフリークス(畸形)のショーもありました。
アメリカのホラー映画では、ピエロが出てくるものが多いですが、
それも子どもの頃のカーニバル体験からの連想です。

フリークショーの4本足の少女
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さて、19世紀にアメリカで大人気だった降霊術も、カーニバルのように
各地を巡業して回りました。このときにアメリカでは、幽霊は勝手に
さまよい歩くのではなく、霊媒師が呼び出すものだという

認識が広まったんですね。ただこれは、日本製のホラー映画の

影響もあって少しずつ変化してきています。

また、アメリカの各地で、現在でも霊媒師(ミーディアム)が活動しているのも、
その心霊主義の時代の影響が残っているからなんです。
なかなかプロレスの話にならないですね。みなさんはイタリアの映画監督、
フェデリコ・フェリーニの『道』という作品はご存じでしょうか。
あれには、ザンパノという力技のカーニバル芸人が出てきますよね。

フェリーニ『道』のザンパノ


初期のプロレスラーも、そういうところから生まれてきたんです。
カーニバルのテントの一つに簡単なリングを作り、賞金を賭けて、
その町の腕自慢の素人の挑戦を受ける。これにはかなりの実力が必要です。
また、入場料を取ってカーニバルレスラー同士の対戦を見せる。

このときに、観客の憎悪を買う悪役レスラーが最初からいたんですね。
悪役レスラーは体が大きく、ひげもじゃの怖い風貌をしている。
それに対し、善玉レスラーは体は小さいですが、若々しくスマートで、
はじめは苦戦するものの、最終的には悪役レスラーを倒して

観客の喝采を受けます。

この形が発展したのが、アメリカンプロレスなんです。
ですから、始まった当初から勝敗の決めごとがあったわけです。
勝ち負けはその地のプロモーターが決め、それに逆らうことはできません。
もし決めごとを破ってガチを仕掛けたりしたレスラーがいれば、
アメリカ全土にお触れが出て、そのレスラーは干されることになります。

ハーリー・レイス(レスラー)
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ヨーロッパ出身で、日本で「プロレスの神様」と呼ばれたカール・ゴッチも、
干されたことのある一人です。NWA世界ヘビー級王座を通算8回獲得し、
「ミスター・プロレス」の称号を持つハーリー・レイスは、本人は

明言してませんが、15歳でカーニバルレスラーとして

デビューしているんです。では、今回はこのへんで。

レイ・ブラッドベリ『何かが道をやってくる』
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