あ、僕、山田っていって今年14歳です。はい、中学校の2年生です。

・・・最初はちょっとしたイタズラのつもりだったんです。そんなに金が

ほしいわけじゃなかった。そりゃ金があるにこしたことはないけど、

あんな山の中の人の来ない神社だし、そもそも最初からそんなに金が

入ってるとは期待してなかったんですよ。え? 意味がわからない。

あったことを順を追って話せ?・・・わかりました。話が下手でスミマセン。

あれは1か月くらい前のことです。僕らの町の裏の山の中腹に、小さい

神社があるんです。なんの神様なんだかわかりません。僕らの町には

神社が2つあるんです。一つは山の中のその神社と、もう一つは町中に

ある別の神社。それで明治の頃に、その2つの神社のどっちが町の

氏神になるか決めようって話になって、その山の中の神社は石段も

 

長いし、年寄りがお参りするのは大変だってのが主な理由で、町中の

神社のほうが町の氏神神社って決まったんです。それ以来、山の神社

のほうはさびれる一方で、ほとんどお参りする人もいない。いや、

何の神様なんだかわかりませんけど、遠い昔、平安時代の頃に東北の

英雄だった人を祀ったものだって話もあるみたいですけど。

で、そこの神社、神主さんは山ふもとの農家の人で、

いつもは神社にはいないんです。だからお守りとかも

売る人がいません。おみくじはあるけど、箱にお金を百円入れて、

自分で勝手に取る形なんです。さすがに賽銭箱は頑丈で

無理そうだったから、そのおみくじのお金を盗まないかって話に

なったんです。僕と友達の木原ってやつと2人でです。

 

どっちが先に言い出したかははっきり覚えてないけど、木原のほう

だったような気がします。あいつは不良とかじゃないけど、そういう

ルールを破るようなことは平気でしたから。でね、最初にその話が

出たときに、神様のお金を取ると罰が当たるんじゃないかとちらっと

思ったんです。あのとき、やっぱりやめるって言えばよかったです。

それで、計画ったってたいしてなかったんです。俺と木原で自転車で

山のふもとまでいって、そっからは歩いて石段を登る。神社に着いて

人がいなかったらおみくじの箱・・・鎖で柱につながれてるんですけど、

それを大きいペンチで切って箱だけどっかに持っていき、石かなんかで

たたき割る。それだけです。出てきたお金は2人で山分けってことに

しました。ね、これなら失敗するわけはないでしょ。

 

人がいたらやめればいいだけだから。それで、やるのは土曜日の午後

ってことにしたんです。当日は雨模様で、空が暗くて雲が多かったけど、

雨は降ってなかったんです。予定通り自転車で登り口まで行き、そこで

参拝者の姿は見かけませんでした。ふうふう言いながら石段を登ると、

神社に出ましたが、やはり人影はなかったです。まあ、平日の午後なんて

こんなもんだし、チャンスだと思ったんです。僕らはお参りもせずに

おみくじの料金箱に駆け寄りました。抱え上げると、料金箱はおみくじの

箱と神社の柱の金具とに錆びた鎖でつながってたんです。鎖はいかにも

細くて、引っ張れば切れそうだったけど、念を入れてペンチでパチンと。

そのとき、なにもしてないのに、おみくじの箱の取り出し口から

折りたたんだ棒状の細長い紙のおみくじが飛び出したんです。それ、後で

 

見ると「大凶」になってたんですが、そのときは箱を動かしたから

出てきたんだと思ったんです。無意識にポケットに入れました。僕らは

大急ぎで社殿の横に回り、大きい石で料金箱を叩き壊したんです。

どっちかが先にやったってわけじゃなかたっと思います。僕が足で

箱を押さえて、木原が石を振り下ろしたんです。するとそのとき、

山全体がゴウッと鳴り、「死 ん で ゆ く」という声が響いたんですよ。

えっ?と思う間もなく、大粒の雨が叩きつけるように降ってきたんです。

「おい、今声聞こえたよな」 「たしか死んでゆくって」幻聴だと

思うにはあまりにもはっきりした声でした。大人の男の声だったと

思います。それで、雨の中草の上に出てきたのは、100円玉が

ぱらぱら。あと、昔のお金みたいなのも中に混じってたんです。

 

雨の中お金を拾い集めると、走って自転車まで戻りました。そして大型

スーパーの裏の庇の下で金を数えたら、全部で1800円ありました。

はい、分け前は僕ももらいましたよ。ちょうど半分の900円を。でも

そのお金、雨宿りにゲーセンに行って、その日のうちに使っちゃったんです。

そのうち雨も晴れたんで家に戻りました。いやあ、その時は罰を受けるとか

考えてもいなかったです。声が聞こえたのはたしかだけど、今どき罰だ

なんて・・・ふもとの道路でしゃべってた声が風に乗るとかして聞こえて

きたんだろうと考えました。それで思い出してポケットのおみくじを見ると

「大凶」になってたんで、ちょっと嫌な気にはなりました。あとはその日は

ふっうに飯食って、宿題やって漫画読んで寝たんです。でね、夜中に起きる

ことなんてまずないのに、その夜は暗い中で目が覚めちゃったんですよ。

 

夜中ったって真っ暗ってわけじゃなく、家電とかのスイッチの明かりとかで

けっこうまわりは見えました。でね、ベッドの横に何かが座ってることに気が

ついたんです。黒い影ですね。細部がまったく見えませんでした。その影は

重々しい声で、「おまえたちは死んでゆくのだが、あの額の金銭で2つも命を

もらうのはしのびない。お前ともう一人、命を取ってもよいのはどっちだ?」

って聞いてきたんです・・・ここで白状しますけど、おみくじのお金を取った

ことはずっと気になってたんです。それに「死んでゆく」って言葉も。けど、

弱虫みたいに思われるのが嫌で木原の前では強がってたんです。迷信を信じてる

やつって言われるのも嫌だったし。それで「木原にしてください」って強く

言いました。そしたらしばらく間があって、「・・・ふむ、そうか」と言い、

影はいつの間にか消えてったんですよ。翌日、登校のときに木原と会って、

 

一番に「お前んとこに昨日の夜、なんか来たか?」って聞いたんです。

もしかしたら木原にも僕と同じく黒い影が来てて、どっちが死ぬのがいいか

聞いてたんじゃないかと思ったんです。けど、木原は少し考えてから

「・・・いや、知らんなあ」って言ったんです。僕が何を聞いてるのかも

わからない感じだったんです。それを聞いて少し安心しました。

どういうことかわからないけど、あの影、神様だかなんだかしらないが、

僕のとこだけに来たのかもしれない。そう思ったんですよ。でも、その次の日、

木原が学校を休んだんです。そのさらに翌日も休みで、担任は「原因不明の

熱が出てて、○○市の大学病院に行ってる」って話をしたんです。ああ、

これはやっぱりあいつは死んでしまうのか・・・そう考えるしかないですよね。

僕が木原にしてくださいって言ったせいで。けど・・・それから2週間して

 

木原がやつれた顔で登校してきたんです。ひどい自家中毒で

一時は命もあぶなかったけど、なんとか治ったみたいだって言って。

それはよかったんですが、そのあとにすごく気になることを言ったんです。

「あ、そうだ。お前にこの前、夜中になんか来たか?って聞かれたが、なんも

来なかったけど、夢を見たんだよな。夢の中で変なのに、命を取るのは

俺かお前かみたいなことを聞かれたけど、どっちも死なねえよバカヤロウ!

って言い返したんだ。けど、現実じゃないからあんときは来なかったって

答えたけどな」・・・どう思いますか?僕は木原って答えたのに、あいつは

どっちも死なないって・・・もしかして僕もそう答えればよかったんでしょうか?

じつは2日ほど前から心臓のあたりが痛くなるときがあって、だんだん間隔が

せばまってきてる気がするんですよ。僕、どうすればいいですか。今から行って

あの神社で謝って1000円以上お賽銭を払えば・・・

 

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