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今回はこういうお題でいきます。この話のカテゴリは難しいですね。
妖怪談義と怖い日本史が混ざったような感じですが、
いちおう妖怪のほうに入れておきます。みなさんは鞍馬山に
行かれたことがあるでしょうか。自分はついこの間、仕事で
訪問しましたが、お土産として天狗の面が売られてるんですよね。

鞍馬山の名前は、馬の鞍に似た形だからということだと思いますが、
夜に真っ暗になるところから「暗部山 くらぶやま」と呼ばれ、
それが「くらま」に転じたという説があります。鞍馬山には
鞍馬寺があって、あそこは、魔王が本尊になっている
日本のお寺の中でもたいへんめずらしいところです。

金星人サナート・クマラはニュー・エイジ思想でも有名


「くらま」という名前の由来として、もう一つ、太古の昔に
サナート・クマラと呼ばれる大魔王が天空から降り立ったため、
「クマラ」が「くらま」になったとする説もあるんです。
サナート・クマラは、サンスクリット語で「永遠の若者」。

ヒンドゥー教の神の一人で、1850年前に金星から飛来した
などとも言われます。このサナート・クマラが永遠の命を持って
今でも生きており、鞍馬山に伝わる伝説の天狗、鞍馬山僧正坊と
同一視されています。で、これについて、ロマンあふれる
話があるんですね。自分のような妖怪研究者にとっては、

鞍馬寺にある金星からの隕石とされる石


「天狗=隕石」というのは基本知識の一つです。現在考えられている
天狗の姿は、山伏の格好をした鼻の長い大男ですが、もともと
天狗という言葉は中国から来たもので、文字どおり
「天を走る狗(いぬ)」なんです。中国の古書『山海経』には、
犬とも猫ともつかない動物が天狗として出てきます。

大気圏に落ちてきた隕石は、空気との摩擦を起こして燃え、
ときには爆発を起こします。中国では、この現象を天を走る狗に
見立てたわけですが、日本に入ってきてかなり違うものに
なってしまいました。これにはいろいろな理由がありますが、
今回はくわしくふれません。

『山海経』に出てくる「天狗」 日本のものとはまったく違います
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鞍馬寺の本殿正面には石が祀られていて、これは金星から落ちてきた
隕石だと説明されています。本当かどうかはわかりませんが、
古代に鞍馬山に隕石が落ち、それがもとになってサナート・クマラの
伝承につながったのだとしたら、ロマンのある話ですね。
このサナート・クマラが、まず一人目の天狗。

次に鞍馬山の天狗が歴史上に現れるのは、みなさんご存知だと
思いますが、源義経、幼名 牛若丸との関連です。
義経は、源義朝の九男として生まれますが、父が平治の乱で
敗死したことにより鞍馬寺に預けられます。後に兄の
頼朝と合流して、平家を滅ぼす立役者となります。

日本での一般的な天狗のイメージ
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この義経が、鞍馬山時代、鞍馬山僧正坊とその眷属である
烏天狗から剣術や兵法を習ったという伝承が残っています。
山を降りた義経が、京の五条橋の上で悪僧弁慶と戦ったという
話もあるものの、武蔵坊弁慶は存在そのものが怪しい人物です。

そのときの様子が「京の五条の橋の上、 大の男の弁慶は
長い薙刀ふりあげて、 牛若めがけて斬りかかる」という有名な
童謡になっていますが、今の子どもはこの歌を知らないんですよね。
義経に剣術を教えたのは、天狗 鞍馬山僧正坊ですが、

源義経
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実際は天狗ではなく、鬼一法眼(きいちほうげん)という
京都の民間陰陽師という説もあります。ただし、弁慶同様、
鬼一法眼が実在した証拠はほとんどありません。
鬼一法眼があみ出した剣術は、京八流の祖となったと言われ、

後に戦国時代になって、大野将監という人物が集大成して
鞍馬流剣術をうち立てます。鞍馬流は明治になって、一部が
警視庁に採用されますが、太平洋戦争時に鞍馬流の秘伝書、
古文書などは焼失してしまったようです。

天狗に剣術を習う義経(牛若丸)
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さて、3人目はもうおわかりだと思います。幕末の世に忽然と
現れた剣士で、桂小五郎ら勤王の志士を助け、新撰組などの
佐幕勢力と戦います。ただし、実在の人物ではなく、小説家
大佛次郎がつくり出した架空のヒーローです。

自ら倉田典膳と名のりますが、どうも本名ではないようです。
その正体は不明で、水戸天狗党の生き残りとも、京都の貴族に
仕える公家侍であるとも言われます。映画ではつねに覆面を
していますが、原作小説にはそういう描写はありません。
戦前から昭和30年ころまで、鞍馬天狗を主人公にする映画が

天狗のような姿で描かれる鬼一法眼
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たくさん作られたんですが、今はまったく流行らなくなってしまい
ました。これは何でなんでしょうね。鞍馬天狗を演じた俳優、
嵐寛寿郎のイメージが強すぎるのか、それとも幕末の知識が
広まって、架空の人物はもうお役御免なのか。もしかしたら
新撰組の人気が出て、悪役として描きにくいのかもしれません。

さてさて、ということで、今回は鞍馬山の天狗のお話でした。
自分は現在大阪に住んでいて、京都には仕事でもプライベートでも
ちょくちょく行きますが、平安京の昔から幕末まで、いろんな
歴史が詰まっていて、興味がつきません。では、このへんで。

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