tonukoro.jpg

 

今から書くのは『諸国里人談』という江戸時代中期の寛保年間に

出版された、日本各地の奇談・怪談などをまとめた書物から

とったものですが、この本は荒唐無稽な内容のものが多く、

この話もどこまで信じられるかはわかりません。

 

この本には大きな地震の前兆として、怪魚が浜に打ち上げられた

話が多数載っているんですが、東海大学では、地震の前兆といわれる

リュウグウノツカイなど8種類の深海魚の出現と、地震の発生状況を

分析した結果、両者の関連性は薄く、伝承は迷信であると結論づけて

います。おそらくそうでしょうね。台風との関連がありそうです。

 

それと、この話には天狗が出てきます。これは中国から伝わったもので、

もともとは天を走る狗(イヌ)。つまり流星のことだったんですが、

それが日本で、山岳修験者や記紀の猿田彦神のイメージが混じって、

今の鼻の高い姿に変わったものと思われます。

 

jjjdjdjdjdjd.jpg

さて、今回の本題に入ります。江戸中期のことです。

神田鍋町(現東京都千代田区)にある奉公していた丁稚の14,5歳の

少年が、一か月間も天狗にさらわれるという事件の顛末が

記載されています。

 

この少年の名前は不明ですが、旧暦の1月15日に「銭湯に行く」

といって出かけたもののすぐに帰ってきたということです。

当時の江戸は砂ぼこりが激しく、職人でも毎日のように

風呂に入っていたようです。そんな国は世界でも珍しいんですね。

 

店の者はみな怪しみました。というのは、銭湯に出かけたときの

恰好とは違って、股引に草鞋という旅姿だったからです。そして

店の主人に「お土産です」といって、野老(ところ)という

山芋の一種を手渡したんです。

 

kkikio.jpg

 

主人が怪しんで「ドっから持ってきたんだ?」と聞くと、

天狗のところにいて、「主人のために土産として山芋を掘ってもよい」

といわれ、持ってきたというわけだったんです。

 

不思議なことはこれだけではなく、少年が語ったとこによれば、

天狗にさらわれたのは前年の12月13日のことで、

それえから約1か月間、天狗の客のために給仕をさせられていた

ということだったんです

 

そうすると、さっきまでいて「銭湯に行く」といった少年は

誰だったのか?この一か月身代わりを続けていたのは何者

だったのか?なんとも不思議な話ですが、謎はまったく解決

しないまま、この話は終わっています。

 

これは天狗ではなく猿田彦神

 

mmki.jpg 

 

うーんわけがわかりません。江戸時代のこの手の本というのは、

全国を廻って聞き書きしたものが多かったので、話を語った

ものが嘘をついていたんでしょうか。

 

自分がこの話を読んで考えたのは、アニメの「パーマン」に

出てくる身代わりロボットに似ているなあということです。

自分は子どものとき、あれがほしくてしかたがありませんでした。

 

さて、天狗が子どもをさらうことは昔から知られていて、

「天狗隠し」などと呼ばれていました。

ふらっと山に遊びにいった子どもがいつの間にかいなくなる。

もし天狗がさらったとして、何のためなんでしょう?

 

一般的には修行をさせて自分の跡継ぎにするためと、いわれることが

多いですね。ですからある程度才能がある子どもがさらわれることが

多いんですが、この場合は給仕のためということで、どうなっているか

よくわかりません。

 

kkiouytre.jpg

 

また、天狗倒しや天狗つぶてというのもよく聞きますね。天狗倒しは

だれもいないはずの山の中で、木を伐り倒すようなドーンという音が

聞こえることで、天狗つぶては、どこともしれない高いところから

石つぶてが飛んでくるものです。

 

天狗が使う術は「左道」といわれることが多いんです。

左道というのは、仏教や神道の修行で身につけた法力ではなく

民間信仰による力のことです。

 

現在でも霊能者と自称する方はたくさんいますが、その力の

源が何なのか、説明できる人があんまりいないんですよね。

ただ、「できる」「見える」といってしまえば、いったもの勝ち

みたいになってしまいます。ですから、自分は怪談ではあんまり

霊能者は出したくないんですね。

 

中国『山海経』の天狗

 

kskskそい

 

さてさて、ということで、天狗隠しの一エピソードを見てきました。

最初に書いたように、これが本当のことかはわかりませんが、

現代の怪談にも通じる不可思議さがあると思います。

では、今回はこのへんで。