>手術、抗がん剤、放射線、免疫治療薬に続く「第五のがん治療」
と言われる「光免疫療法」が世界に先駆け、日本で実用化される。
楽天の子会社、楽天メディカルジャパンは9月25日、
厚生労働省の承認を取得。29日に都内で記者会見した

楽天の三木谷浩史会長兼社長は、「(今回、承認を取得した
頭頸部がん以外のがんにも)対象を広げていきたい」と語った。
(文春オンライン)


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今回は科学ニュースからこの話題でいきたいと思います。
当ブログでは、以前にも、この療法についての記事を上げています。
まず、「光免疫療法」とは何か? アメリカ国立がん研究所(NCI)と
米国国立衛生研究所(NIH)の主任研究員である小林久隆氏の
研究グループが2011年に発表した新しいがんの治療法で、

固形がんの細胞の表面にある特有の抗原のみに特異的に
結合する抗体を、患者に投与します。今回、第1弾として承認を得た
「アキャルックス」という薬剤は、モノクロルーナ抗体の一種で、
頭頸部がんのがん細胞の表面上に高いレベルで発現するタンパク質
「ヒト上皮細胞成長因子受容体(EGFR)」と選択的に結合します。

EGFRに結合したアキャルックスに光を照射すると、化学変化を起し、
光エネルギーを吸収して発熱することで、がん細胞の表面に傷がつき、
そこから水が入り、膨張したのちに破裂して壊死してしまいます。
つまり、正常細胞を損傷することなく癌細胞だけをねらいうちできる。

小林久隆氏
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最初の治験は、頭頸部がんに対して行われましたが、その理由として、
頭頸部がんは、口の中、舌、歯茎、頰、咽頭部、鼻など、
食道より上に発生するがんであるため、内視鏡などを使わなくても
身体の外から光をあてることができるからですね。

ただし、今回のアキャルックスは、EGFRを発現しているがん細胞にしか
結合できないんです。EGFRを発現するのは、がん全体の約2割で
しかありません。もちろん今後の課題として、別の抗原に結びつく
抗体を見つけて薬剤化することですが、それには膨大な
研究開発費がかかると考えられます。

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さて、こう書くと、光免疫療法はいいことずくめのようですが、
じつは批判も多いんですね。その最大のものは、光免疫療法が
全身治療なのか局所治療であるのかが あいまいなことです。
この意味はおわかりでしょうかね。

例えば肺がんになったとして、腫瘍が肺の中だけに限局している場合は、
その腫瘍を取ってしまえばいいわけで、局所療法で完治が望めます。
具体的には外科手術で切り取る。あるいは放射線で叩く。
これで治るのなら、がんの治療はそう難しいことではありません。

ところが、腫瘍が肺だけでなく他の部分に転移している場合は、
きわめて治癒が困難になります。すべての転移巣を切り取ることは
できませんし、そもそも転移しているということは、血流やリンパ液に
のって、がん細胞が全身をめぐっているわけですから。この場合、
抗がん剤治療を行っても完治は困難で、延命しか期待できません。

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さて、光免疫療法は「光」と「免疫」の部分に分けて考えなくては
なりません。光のほうは、上記したように、がん細胞に光を照射して
破壊する物理的・化学的な局所療法です。では、免疫のほうは
どういうものか。これは、破裂、壊死したがん細胞からは、
細胞内の物質が細胞外へ放出され、

近接する人体の免疫系はこれらを異物として感知し、がん細胞を
破壊する免疫細胞である細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)が
制御性T細胞という他の免疫細胞によって抑制されていたのが、
急速に制御性T細胞が除去され、キラーT細胞が全身の
転移巣をも攻撃する。つまり全身治療となるわけです。

これはがん患者にとっては夢のような朗報ですね。全身転移した場合、
治癒に結びつく療法がなかったのが、完治が期待できるようになるからです。
ただし、この効果は、現時点では実験用マウスで確認されているだけで、
実際に人体で そうできるかは、かなり難しいと思われます。

マウスの寿命は2年程度ですし、総細胞量は人間の数千分の1。
そもそもマウスに移植したがんと人間に自然発生したがんは違いがあります。
ぶっちゃけた話をすれば、実験用マウスは緑茶、ウコンエキス、
海藻のぬめり成分(フコイダン)などを注射しただけで、がんが
縮小したり消えたりします。ですが人間では効果は認められません。

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じつは、放射線やラジオ波などでも、この現象は確認されているんです。
抗原提示効果といって、放射線等で癌細胞が破壊されると、細胞内部の
抗原がばらまかれ、免疫細胞がそれを認識して攻撃できるようになり、
転移巣も治ってしまう。ですが、それが起きるのは5000~1万ケースで
1回程度のことなんですね。

この他にも、光免疫療法には技術的に難しい点があります。だいたい
おわかりだと思いますが、光があたらない深部に癌細胞があった場合
届かせることができないことです。ただまあ、これについては、
光ファイバーを患部に差し込んで照射するなどの工夫が、
これから出てくるのかもしれません。

もう一つ、光免疫療法が効きすぎてしまう場合。がん細胞は血管に
はりついたり、消化管に浸潤していることは珍しくありません。
そこに光をあてると、血管が破れて大出血を起こしたり、消化管に
穴が開いてしまいますよね。治験段階でも、この副作用によって
亡くなっている患者が出ているんです。



ですから、専用の機器が設置され、トレーニングを受けた医師がいる
病院でしか、現時点では治療は受けられないんです。あとまあ、
利点としては、放射線は線量による回数制限がありますが、光免疫療法の
場合、同じ箇所に再発しても、何度でもくり返し治療できるでしょう。

さてさて、ということで、光免疫療法のニュースを考えてみました。
もちろん、自分はこの療法をくさしているわけではなく、
ぜひとも成功してほしいと考えています。ですが、全身療法として
転移巣も攻撃できるようになるまでには、まだまだ長い時間がかかる
だろうとも思ってるんです。では、今回はこのへんで。