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今回はこういうお題でいきます。人類学のお話です。
ここで本題に入る前に、少しだけウンチクを。自分は大学で
考古学を専攻しましたが、そのすぐ隣の学問分野の一つが
人類学です。考古学は主に昔のモノ(建築、耕地なども含む)
を研究対象にするのに対し、人類学は人、あるいは

それ以前の原人なども研究の対象になります。人類学は
文化人類学、形質人類学などいくつかに分かれます。
で、現在、もっとも荒波にさらされていると言えるのが、
この人類学なんですね。どういうことか、

その理由はおわかりだろうと思います。古い人骨などの
DNA分析が容易にできるようになったためで、昔から
定説とされていたことが、正反対に近い形で
ひっくり返される事例が増えてきたんです。なかなか大変ですね。



さて、ここで話を変えて、現在の人類の特徴として、
火を使う、道具を使うなどのことがありますが、
猿との大きな違いは、直立二足歩行することです。
では、これ、いつから、どういう理由でそうなったのか。

まあ、いつからのほうはだいたいわかってるんですが、
理由のほうはたいへん難しい。それと、この疑問は、
人類はなぜ樹上生活をやめて、木から降りたのかと
言いかえることもできます。

で、これについて、現在はさまざまな仮説があるんですね。
例えば、移動効率、両手を自由にして食料を運ぶことが
できること、長距離を見通すこと、性淘汰、体温調節、
水中を歩くためなどがありますが、どれも決定的とは
言えず、また明白な証拠もない。

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じつはすでに、樹上のときから直立していたとする説も
あるくらいなんです。あとまあ、もしこれが明らかに
なったとしても、ノーベル賞の対象にはならないでしょうね。
これ、昔は違っていました。人類は手指や道具を使うことで
脳の容量が大きくなり、ついに頭が重すぎて、

木から降りたというのが定説に近いほど支持されていたんです。   
それがどこで変わったかというとルーシーの発見からです。
ルーシーとは、1972年にアフリカ、エチオピアの
ハダール村近辺で発見された、アウストラロピテクスの化石。

ルーシーの骨格
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なぜ、この名前になったかというと、当時の調査隊が、
ザ・ビートルズの曲「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・
ダイアモンズ」をくり返し聞いていたためとされます。
ご存知のように、タイトルの名詞の頭文字をつなげると
「LSD」になるとも言われています。

さて、ルーシーは318万年前とされるアウストラロピテクスの
おそらく女性のまとまった化石で、身長は約110cm、
体重は30kg程度。25~30歳くらいと考えられるが、
見つかった骨には動物の噛み跡などはなく、死因は不明。

復元されたルーシー


で、ルーシーの脳容量は小さく、チンパンジーなどの
猿に近いものでしたが、骨盤は人類に近く、二足歩行を
していたと考えられました。つまり、頭が重くなったから、
二足歩行を始めたという説が完全に否定されてしまったんです。

これは困りました。さらに現在では、二足歩行をすることで、
人は体重に比して巨大な脳容積を得ることができ、
全動物中最も高い知能を得ることができたというように、
まったく逆に考えられるようになったんです。

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ただ、直立二足歩行にも欠点はあります。重力がもろに背骨に  
かかるため、ヘルニアなどになりやすい。腰痛が持病という
人は大勢いますよね。この他、重い頭部が高い位置にあるので
バランスが悪く、転倒すると危険。喉、心臓、腹部、股間等の
急所が多い胴部前面をつねにさらして行動せざるを得ないなど。

あと、直立歩行することで骨盤の形が変わって産道がせまくなり、
大きな頭の赤ちゃんが産めなくなってしまいました。そこで、
人間の赤ちゃんは小さいうちに産まれ、立つまで1年もかかります。
そこで両親は手をかけて養育しなくてはならず、これも
脳容量を大きくした一因かもしれないんですね。

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一口にアウストラロピテクスと言っても、さまざまな
種類があります。ルーシーは、最も初期に近い
アウストラロピテクス・アファレンシスで、現在の人類の直接の
祖先ではないという意見が大勢を占めています。

さてさて、ここまでの話、みなさんはどう考えられたでしょうか。
進化の大きな謎である「直立二足歩行」について、その
秘密を解き明かしてみたいと思われませんでしたか。
では、今回はこのへんで。