うちの昭和7年生まれのばあさんの、
さらにばあさんが子どもの頃の事だから、
明治か江戸時代??かもしれない話。
それがわが家に伝わってきたのを書いてみる。
そのばあさんが12歳ぐらいのときに神隠しにあった。
当時は里子に出されたり人買いに売られたりなんてこともあったそうだが、
そういう親が事情を知っていて、いなくなったのではなく本物の神隠し。
夕方、赤子の弟の子守をしながら裏をぶらついていたと思ったら、
いつのまにかいなくなって、
赤ん坊だけがおんぶ紐といっしょに草の上で泣いていた。
集落の若い者大勢が出て探したが見つからない。そのうち夜になって、
街灯もない頃だから明日の夜明けからまた探そうということになった。
そうしたら当時のじいさん(俺から見れもはや遠い先祖)が、
女の子の神隠しは、神おろしの憑坐(よりまし)
にしようとしてさらっていった場合が多い。
憑坐の手順には普段使ってる櫛が必要で、
さらっていった者か術をかけられた本人が取りにくることがある。
だから櫛を隠しておけば、
目的が果たせなくなって子供が返されることもあると言って、
箱に入れて自分が寝ている納戸に持っていった。
それからじいさんは「本当はネズミがいいんだが時間がない」と言いながら、
大きなガマを捕まえてきて、鎌の先で腹を割き、
内蔵を櫛にまんべんなく塗りつけた。
同時にアワかなにかの実をぱらぱらふりかけた。
その晩、じいさんが櫛の箱を枕元に置いて寝ていると、
なにかがやってきた気配がある。
じいさんは起きていたんだが、体が動かないし、叫ぼうとしても声も出ない。
そのときに笹みたいな匂いが強くしたそうだ。
何かかなり大きな妖物がきている圧迫感がある。
妖物は枕のすぐ上にある櫛箱に手をかけたようだが、
ビーンと弾く音がして、さらにパシッと叩きつけられたような固い音がする。
そして「けがれ・・・」という咳が言葉になったような声がして、気配が消えた。
しばらくじっとしていたら体が動くようになったんで、明かりをともしてみると、
櫛が箱から出て床に落ちており、櫛の歯がばらばらに折れていたそうだ。
で、ばあさんは、昼前に集落の氏神の森から歩いて出てくるところを見つかった。
本人にさらわれていた間の話を聞いてみても、まったく要領を得ない。
木の葉がゴーッと鳴って目の前が白くなり、立っていられなくなってうずくまると、
背中の赤子がまだしゃべれないはずなのに、
「か・し・こ・み」と一語ずつはっきりと声に出した。
さっと太い腕でかつがれた感じがして、
そのあとは貝の裏側のように虹色にきらきら光る場所でずっと寝ていた。
まぶしくて目を覚ますと、
鎮守の森の入り口のあたりにいたんで家に戻ろうとしたと言う。
まあこれだけなんだけど。
*沖縄県では、神隠しを物隠しとも呼び、いったん物隠しに逢った者は
自分の櫛を持って帰ろうと戻って来る。そして再び出て行ってしまうとされる。
その為、物隠しに逢った家族は早速当人の櫛を隠して取られないようにする。
それでも、締め切っている部屋の中から知らない内に取られてしまうこともある。
研究者によると、櫛と神の関係をよく示している伝承としている。(Wikiより)