すんません。俺、中卒でドカタやってるんで、あんまり話うまくないんです。
だから、もしかしたら途中で意味わかんないとことかあるかもしれないです。
まずですね、始まりは、仕事終わってから、仲間5人と部屋で酒飲んでたんですよ。
そこでね、怖い話になって。地元の心霊スポットって言われる場所の話です。
そこは、港に近い墓地公園なんですけど、小高い山になってて、
いくつもの区画があって、同じ形の墓がたくさん立ってるんです。
俺、地元なんだけど、生まれたときからすでにあると思いますよ。
でね、その山の真ん中へんに大きな塔のある広場があって、
そこにカップルで行くと、必ず別れるって言い伝えがあったんです。
それと、夜になると、その塔のまわりを白い服を着た女が歩き回ってるって。
あ、俺も1回肝試しに行ったことがあります。でも、何にも起きなかったです。

そこの話をしてたら、仲間の一人がこんなことをしゃべり始めました。
その墓地公園に肝試しに行ったグループがあって、特に怖いことはなかったけど、
帰ろうとして駐車場に停めてある車に乗ったら、助手席に座った女が、
か細い悲鳴を上げた。「どうした?」って運転してるやつが聞いたら、
「手が私の足をつかんでる・・・」って。のぞき込むと、
たしかに車の床から白い手が2本生えてて、
見たやつは「ワーツ」と叫んで車から飛び出した。
後部座席にいたやつらも、シート越しにのぞいて手を見ると、
我先に車から飛び出して、みなで街灯のあるところまで逃げた。んで、

その助手席の女の子だけが車に取り残されて、泣きわめく声が聞こえてくる。
でね、運転してたやつは女の子の彼氏だったんで、意を決して車に戻り、

外からのぞき込んだら、女の子はぐったり気を失ってて、
手はもう見えなくなってた。で、女の子を病院に運んだんだけど、
気がつくとわけわかんないことを口走って、いつまでも正気に戻らない。
それで、その子は精神病院に入院して、いまだにそこにいる・・・って。
でもね、これってすごく嘘くさいっていうか、

ネットとかでよく聞く話じゃないですか。だから俺、こう言ったんですよ。

「そういうのって、全部が嘘とは言わないけど、
精神病院に入院してるとか、後日談みたいなのはどこまで本当かわからないよな。
噂に尾ひれがついてるだけじゃないのか」って。そしたら、

この話をしたやつが怒り出して、「世話になってる先輩から聞いたんだから
間違いない。じゃあ次に会うまでに、女の子の名前と入院してる病院の
名前を聞き出してくるから」ムキになった口調で言ったんです。

俺はそいつを怒らせるつもりじゃなかったけど、

「ああそうか、じゃ楽しみにしてる」って言っちゃったんですよね・・・

そんときは、こんな大事になるなんて
考えもしなかったですよ。でね、翌週、そいつがバイクで事故ったんです。
後ろから追突されて倒れて。でも、頭部を強く打っただけで命に別状はなくて、
大学病院に入院したんです。さっそく見舞いに行きました。そしたら、
脳震盪でしばらく頭を動かせないってベッドに固定されてたけど、
わりに元気だったんですよ。そいつの話だと、急にスピードを上げてきた外車に
跳ね飛ばされ、外車はそのまま逃げてったって。ええ、ひき逃げってことです。
「くっそ、ツイてねえよな。それにしてもあの外車許せねえ。
わざとみたいにぶつかってきやがって」そいつは寝たままの状態でこう言い、
それから俺に向けて、「ああ、そう言えば、こないだ話した墓地公園のやつな、

先輩でバイク屋やってるKさんから聞いてきたぞ」
俺は「そんなのもういいから」って言たんですが、そいつは「病院は○○市の
松野精神科病院ってとこらしい。それから女の子の名前は・・・

あれ、何だっけ、名前が思い出せねえ。ちょっと待ってくれよ・・・

うーん、フルネーム聞いたんだよな。「何だっけな、あ、頭痛え」

こんな感じだったんで、「もういいから、休めよ」俺が言うと、

「スマン、まだ頭が本調子じゃない。お前、Kさんのバイク屋知ってるだろ。
そこで直接聞いてきてくれよ」こんな調子で、「ああ、わかったそうする」
とは答えたものの、もう怪談のことなんてどうでもよかったんです。
でも、それからさらにたいへんなことが起きて。新聞にデカデカと載ったんで、
知ってると思いますけど、バイク屋のKさん殺されちゃったんです。
それも奥さんと5歳になる息子さんも一緒にです。

いや、俺も新聞に載ってることしかわからないけど、
鋭い刃物で刺されたってなってました。俺らの田舎だと大事件ですよ。

Kさんって、中学校のときに、学校をシメてた人で、

地元の不良の間じゃ有名人だったんです。
俺らは大興奮して、あちこちで犯人の噂とかしてました。
でね、翌週にまた入院してるやつのとこに見舞いに行ったら、
受付で「退院しました」って言われて。あれ、って思いました。
その前の日まで、そいつからメールとか来てたんですよ。そのときには、
退院するって話も出てなかったです。それで、そいつのスマホにかけてみました。
そしたらずっと呼び出しになって、その後オフクロさんが出て、
「どうしてますか」って聞いたら、「転院したんです」って一言。
「え、どこにですか?」 「・・・松野病院」これで電話

切れちゃったんです。その後はいくらかけても通じなくてね。

まあここまでなら、何か事情があるんだろうって思うけど、

さらに驚いたことに、そいつの家ごとなくなっちゃったんです。

いや、言葉のとおりですよ。
そいつは母子家庭で、ボロい一軒家に住んでたんだけど、
あっという間に解体されて、空き地になっちゃったんです。
でね、訪ねてったときに近所の人に聞いたけど、誰も引越し先を知らなくて・・・
ただほら、松野病院に入院するって話を聞いてたので、
○○市に行ったんだろうと思います。ええ、気になるんで行ってみようと

思ったんです。それで翌日、仕事の昼休みに、コンビニ弁当食いながら、
ドカタに行ってる先の班長さんに聞いてみたんです。
「すんません、○○市の松野病院って知ってますか?」って。
そしたら、班長さんが飯を吹き出して、それから怖い顔を俺に向けて、

「ちょっとこい!」って、現場の陰になってるところに連れて行かれて。
いや、あんまり雰囲気悪くて、殴られたりヤキ入れられるんじゃないかと

思いました。班長さんは「お前な、○○市の松野病院ってどこで

聞いたんだ?」 「いや、友だちから」 「その友だちはどうなってる」 

「それが事故に遭って、それから急に引っ越しちゃって。
たぶんその松野病院に入院してるんだと思います」こう答えると、
班長さんはますます暗い顔になって、「そうか、やっぱりな。それで、
もしかしたら、松野病院に入院してるって女の子の話も聞いてるか?」
「あ、墓地公園の話ですよね。班長さんこそ知ってるんですか?」
「お前なあ・・・ 女の子の名前を聞いたかどうか聞いてるんだよ」
「いや、それが事故ったやつが記憶喪失みたいになってて、

聞いてないです」そしたら、班長さんは全身から力が抜けたようになって、

「そうか・・・よかったな。お前、タブーって知ってるか?」 「タブー?? 

いや、わかんないです」 「この市じゃあ、心霊スポットの肝試しで、
女の子が精神病院に入ったって話は絶対にしちゃいけないんだよ。
死ぬか、その松野病院に入ることになる」 「マジっすか?」
「マジもマジだよ。俺が知ってるだけで、

片手くらいの人間が不幸な目に遭ってる」
「5人ってことですか」 「そうだ」 「・・・・なんでまた」
「いいから忘れろ。その女の子の名前を聞いてなければ、まだ大丈夫だから」
「・・・誰か、話が広まるのを防いでる人間がいるってことですか? 
ヤクザか何か?」 「わからん、わからんけど、これ以上この話するな。
いいか、間違っても松野病院に出かけてったりしちゃいかんぞ」
「わかりました。行かないです。すべて忘れます」

こうは言ったんですけど、やっぱり気になるじゃないですか。
それに、今はネット時代で、昔みたいに秘密を隠しておくなんて無理でしょ。
だから、松野病院について検索してみたんです。
○○市には、そういう名前の病院はなかったですよ。ただ、山の麓に、
「松野」という名前がつく老人介護施設みたいなのはありました。
それくらいしかわかんなかったです。でね、そうしてるうち、塾に行ってた妹が
帰ってきたんですが、俺に「玄関先でこれ、

お兄ちゃんにって知らない人に渡された」って、

20cmくらいの箱をよこしたんです。「え、どんな人だった?」
「白衣着た背の高い人」 部屋に戻ってぐるぐる巻きの黒いビニールをとると、

箱の外に「松野病院」って書いてまして、開けると・・・ドライアイスがたくさん
入ってて、その中に、よくわかんないですけど、大きな内臓みたいなのが・・・

 

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