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今回はこういうお題でいきます。科学ニュースのカテゴリですね。
この記事、おそらく読んで反発される方もいるんじゃないかと
思いますが、まあ、あくまでbigbossman個人の考えですので、
そこはご承知おきください。

さて、ネットには「免疫力アップで健康に」とか「免疫ががんを
やっつける」とか、そういう記事が多いですよね。免疫治療を
しているクリニックの広告も目立ちます。最近は youtubeなどの
動画サイトの広告にもかなり進出してきていて、
儲かってるんだろうなと思います。

では、免疫って何なんでしょう。ネット辞書を引くとこう出てきます。
「体内に病原菌や毒素その他の異物が侵入しても、それに抵抗して
打ちかつ能力。また、異物と反応する抗体を作って発病をおさえる
抵抗力を持つこと。転じて、物事がたび重なるにつれて
慣れてしまうこと」なるほどね。

これ自体はたいへん正しいですが、あたり前ですよね
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「転じて」以下の部分は、「最近、妻の小言に免疫がついた」
みたいな感じで使われるんでしょう。みなさんが風邪をひいたとき、
くしゃみや鼻水、発熱をしますが、これは風邪のウイルスが
症状を起こしているというより、自己免疫が風邪のウイルスと戦った
結果、起きるものです。体温が高いほうが免疫が有効に発揮されやすい。

こう書くと、免疫ってすごくいいもんだと思われますよね。たしかに
そうです。もし免疫がなくなると、そこらにありふれてる常在菌に
感染して、すぐに死んでしまいます。免疫不全におちいった場合、
無菌室で厳重に管理されなくてはなりません。

でも、免疫が諸刃の剣であることは、医学的には常識です。
今回のコロナ禍ではワクチンに注目が集まっていますが、外から
抗体を注射して自己免疫を働かせ、ウイルスを撃退するための
ものです。また、コロナが重症化する原因の
多くはサイトカインストームで、いわば自己免疫の暴走です。

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これはハチに刺されたときなどにも起きます。1度目に刺されて
体内に抗体ができ、2度めに刺されたときに免疫が暴走を始める。
アナフィラキシーの症状が出てから心停止までの時間は15分という
報告もあり、それだと助かるのは難しいですよね。

自己免疫性の疾患はたくさんあります。軽微なものとしては
花粉症。体内に入ってきた花粉を自己免疫が攻撃することで起こる
アレルギー反応の一つです。さらに、アトピー性皮膚炎や
関節リウマチなどもそうですね。膠原病の一つで、
炎症性自己免疫疾患です。辛く苦しい症状が特徴です。歌手の
八代亜紀さんも、これからくる間質性肺炎で亡くなりました。
 
正常細胞とがん細胞はここまで違いはないので、誤解をまねきやすい
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また、自己免疫性肝炎・すい炎などは、死にいたる可能性もあります。
で、これらについては、どうして発生するかの機序はほとんどわかって
ないんです。原因が不明なので、対処療法を行うしかない。全体として、
自己免疫性の疾患で亡くなる人は、かなりの数がいると思われます。

人間の持つ免疫機能は複雑系の最たるもので、仮に全体像が100
だとすれば、現状の科学、医学では3か4程度しかわかっていないと
自分は考えています。自然科学の中でも数学が適用できない分野の
歩みは遅々として、試行錯誤をくり返しながら少しずつ知見を
深めていくしかありません。医学は人体実験ができませんから。

さて、上でも少し書きましたが「免疫力を上げてがんを撃退する」
これって本当にできるんでしょうか。自分はきわめて懐疑的です。
がんは遺伝子の突然変異によって起こります。こう書くと、
まったく違った細胞ができるように思われがちですが、がん細胞は
正常細胞とほとんど変わりません。ほんの一部が違うだけ。

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細菌やウイルスなどの外部からの侵入者は、人間の細胞とは
まったく違うものです。ですから、リンパ球などが敵と認識して
攻撃できる。ところが、がん細胞はほとんど同じですので、
免疫細胞が認識できない。まあ、がんにかからないようにするため、
免疫力を高める生活をするというのなら、ありかもしれません。

ですが、いったんがんができてしまった場合、自己免疫で治癒に
持ち込むというのは不可能だと思います。だって、がんはゼロから
できるわけですが、免疫ががんを治すんだったら、そのときに
どうして消してしまえなかったんでしょうか。また、がんは
免疫細胞をごまかすさまざな手練手管を持っています。



オブジーボ、キートルーダなどの免疫チェックポイント阻害薬は、
このがん細胞が免疫をだます仕組みを破壊するものです。
自己免疫ががん細胞にたぶらかされて攻撃のブレーキを
踏んでしまっているのを解除する。ですから、効く人には
劇的に効くんですが、副作用で免疫暴走が起きたりもします。

医師の近藤誠氏は、がんの免疫治療に批判的で、「体内で毎日がん化が
5000例は起きていて、それを免疫細胞が殺しているというのは
根拠がない」と著書で書いています。自分は、近藤氏のがんもどき理論は
馬鹿げていると思いますが、この発言は評価しています。がん細胞で
できてすぐ死ぬものが多いのは事実ですが、

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おそらくその手のがん細胞は、遺伝子変異により初めから生きられない
ようにできている。あ、かなり長くなってきました。以上のような理由から、
自分は「免疫力を高める」という考え方には批判的です。もちろん、適切に
運動し、バランスのとれた食事、ストレスをなくし よい睡眠をとるのは
大切なことですが、有効に免疫力を高める方法は現状ではわかっていません。
たんにリンパ球の数が多ければいいというような、単純な話ではないんです。

さて、年齢を重ねるにつれて免疫力は落ちてきます。加齢によって低下する
機能は、獲得免疫系の方が著しいことがわかってきました。一説によると、
獲得免疫の能力は、20代頃がピークであり、40代ではすでに
その半分に低下するとされています。また、高齢者の体は、低レベルでは
ありますが、あちこちで炎症が起きている状態です。

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顔や手にしわ、シミができるのも炎症の結果と考えていいでしょう。
そのため、自己免疫では対処ができなくなる。まあしかたのないことです。
ほとんどの生物で、繁殖、子育て期には体がよく働くように機能しますが、
それが過ぎると、役目の終わった個体として死に向かうように
プログラミングされているという説もあるくらいです。

さてさて、ということで、この記事で自分が言いたいのは、免疫については
ほとんど何もわかってないこと。「免疫力アップでがんを治す」などの
ネット上の文言の多くには根拠がないこと、下手に免疫にちょっかいを出すと、
おそろしい自己免疫疾患を引き起こす可能性がある
ことです。コロナワクチンの
副反応の例を見ればおわかりでしょう。最近あまりに、怪しいインチキ業者が
「免疫力」という言葉を使っているのを危惧して本項を書きました。
では、今回はこのへんで。