ここで話せばいいんですか。はい、じゃあ話していきます。僕、高校2年生で、
高井って言います。でもこれ、全部が僕の妄想でかもしれない話なんです。
唯一の証拠と言えるものも、もうなくなっちゃったし。始めはサッカーの
試合なんです。あ、すいません、順序よく話せなくて。僕、サッカー部に
入ってて、先月、サッカーの試合があったんです。新チームになって
初めての試合でした。で、僕は運よくレギュラーに選ばれてまして。
だけど、その試合で倒れちゃったんです。むこうの選手に足を引っかけられて、
転んで強く頭を打ったんですね。でね、そんときは相手の学校に出向いての
試合だったんですが、気がついたらその学校の保健室にいたんです。
うちの部の監督や、部のメンバーもいました。だから、僕が倒れたことで
試合は中止になったんだろうと思ったんです。
 
体を起こすと、「大丈夫か?」って声をかけられました。くらくらしたし
少し後頭部が痛かったけど、血も出てないし たいしたことはなかったんです。
「起きるな。寝てろ!」って言われました。母親に連絡がとられてて
迎えにきてくれました。で、頭のことだからって病院に連れてかれたんです。
病院ではCTを撮りましたが特に異常はなく、そのまま家に帰ったんです。
「あちゃー」と思いましたよ。みんなの前で気を失うなんて恥ずかしいし、
それに、せっかくレギュラーになったのに外されちゃうかも、
って思ったんです。そのころには、頭の痛みはほとんどなくなってたから、
自分の部屋で漫画本を読んだりしてました。そのうち父親が仕事から
帰ってきて夕食になったんですが、「たいしたことがなくてよかった。
今日は早く寝ろ」って言われたんです。
 
それでね、9時前には寝たんですが、夢を見たんです。僕、夢を見るのって
珍しいんですよ。いつもは練習疲れで、布団に入るとバタンキューって
感じで朝まで夢も見ないし、起きることはないんです。断片的な夢でしたね。
スライドみたいにパッ、パッと画面が切り替わるような感じの。
最初に出てきたのは、山の中のお堂みたいなものでした。
高さが1m半くらいで僕の背丈よりも低い、古びた木でできたお堂。
ええ、小さなやつです。それと、まわりの景色も見覚えがあったんです。
ああ、ここ行ったことがあるなと思いました。高い山じゃなく丘
みたいな感じで、小さい頃から遊んでた、自宅の裏にある山じゃないか
って思ったんです。高さは50mもないと思いますよ。子どもの足でも
10分もかからず登れましたから。そこで見た景色とよく似てたんです。
 
そこで画面がチェンジするような感じで、犬の像が出てきたんです。
茶色の雑種と思える中型犬で何だかおびえた様子でした。
そのときタロって名前が浮かんだんです。あれ、この犬、飼ってた
ことがある。そう思いましたが、そんなはずはないんです。
僕、子どもの頃から1度も犬なんて飼ったことがなかったはず・・・
その次に出てきたのが小学校低学年くらいの男の子、でね、
その子の名前もわかったんです。あ、武だなって。
ええ、漢字でどう書くかもわかったんですよ。僕の弟だ
と思いましたが、これもそんなはずはないんです。
今までずっと一人っ子だったし。次が最後の画面で、
夢の中なのにすごくまぶしいんです。頭上に大きな緑色の
 
光が見えたんです。光はついたり消えたりして、何がなんだか
わからなくなってそこで目が覚めまして、時計を見ると午前の2時過ぎでした。
変な夢を見たなあ、僕に弟はいないし、犬なんて飼ったこともない。
最後の緑色の光はなんだろう。これも頭を打ったせいなんだろうか。
不思議だったし、なんとなくさそわれるように窓に近ずいてカーテンを開け、
裏山のほうを見たんです。僕の部屋からは、ちょうどそっちの方角が
見えたんです。でも、真っ暗で、特に変わった様子はなかったんです。
翌日学校に行って部活に参加すると、仲間から大丈夫かって言われました。
「ああ、平気、平気」って答えましたよ。実際、この頃には痛いとこは
なくなってましたし。でも顧問の先生には、「今日は大事を取って見学しろ」
って言われたんです。ああ、不味いなあ。やっぱりレギュラー外され
 
ちゃうのかな、そう思いました。家に帰って夕食を済ませると、
体が疲れてないせいかなかなか眠れなかったんです。
それで、昨夜見た夢のことを考えました。
なんで弟がいたなんて思ったんだろう。それに夢で見た犬も
子どもの姿も鮮明で、表情までわかったんです。どっちも上を見上げていて、
すごくおびえた顔をしてました・・・翌朝、母親に「僕、弟なんて
いないよね?」と聞いたりしたんですが、「あんた何言ってんの、
いるわけないじゃない」こんな感じでした。まあそうですよね。
家には子ども部屋は僕のしかないし、弟がいた痕跡なんていっさい
なかったんです。その日からは部活の練習には普通に参加しました。
あと夢を見たのはあの夜だけなんですけど、気になって
 
しかたなかったんです。それでね、その週の日曜の午後、
裏山に登ってみたんです。子どもの頃以来でした。草は短く刈られて
ましたが、風景はなんとなく見覚えがありました。
前に登ったのはいつだったかな。
中高では部活で忙しかったからほとんど来てないし。
すぐに頂上に出ました。ほんとに低い山なんです。それでね、
頂上は少し平らになってるんですが、あの夢で見たお堂が
実際にあったんですよ。でも、不思議だとは思いませんでした。
子どもの頃に見てるからあんなにはっきり夢に出てきたんだろう
と思ったんですが、じゃあ犬と弟は・・・でね、おかしなことに
気がついたんです。そのお堂、扉がないんですよ。四面が全部木の
 
一枚板。だから中に何が入れられてるかもわからない。
ふつうはお堂ってお地蔵さまや石なんかがあるもんじゃないですか。
変だなあ、地震計かなんかだろうか?それにしてもやっぱり扉がない
のはおかしい。そう思って、下のほうを少し蹴ってみたんですが、
びくともしない。それで、両手で抱えるようにして揺さぶってみたんです。
しばらくゆすってると、どこかでカチッという音がしたように思いました。
で、その後ビーッという音がして、お堂の上のほうからビームみたいなのが
出てずっと空高く雲の中まで上っていったんですよ。緑色の細いビームでした。
1、2秒で消えましたね。でも、そのときも不思議な感じはしなくて、
これ前にもやったことがあるって思ったんです。そうだ、犬も弟も確かにいた。
庭には犬小屋があったし、あの頃は部屋が弟と一緒で2段ベッドで寝てたはず
 
・・・そこまで思い出したとき、急に雲の中から円盤みたいなのが出てきたんです。
びっくりしましたよ。円盤はクラゲみたいな形で白っぽい色、
下側には複雑な機械みたいなのがついてました。円盤はそのまま頭上に
とどまってましたが、下のほうからさっきのと同じようなビームを出したんです。
で、ビームはお堂にあたって、そしたらお堂が急に緑色の炎に
包まれたようになって・・・消えたんですよ。
  お堂は跡形もなかったんですが、草の上に四角くお堂が建ってた跡は
残ってました。ヤバい、僕も消されてしまうのか。そう思たんですが、
円盤はスッと上昇してたちまち小さくなり、雲の中に消えたんです。
僕は怖くなって、走って山を下り、家まで逃げ帰ったんですよ。
で、玄関でハアハア息を弾ませてると、母が出てきました。
 
母は僕をじっと見つめると「そう、山へ行ってきたのね」って言ったんです。
僕が「あの山の上のお堂は何なの?」と聞くと、それには答えず
しばらく目をつむってましたが、「・・・お前まで消えなくてよかった。
もう行っちゃだめよ」こうぽつりと言って奥に引っ込んでいったんですよ。
 
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