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これもねえ、かなり難しいお題です。自分がわからないというより、あまりにもたくさんの考え方があって、すべてを紹介することはできないという面が大きいんです。まあいってみましょうか。さて、人間原理の宇宙論(以下 人間原理と略します)を理解するためには、まずマルチバースについて理解することが必要です。
 
なぜかというと、人間原理はこの世界がマルチバースであることを前提として成り立っている議論だからです。マルチバース(multiverse)は「たくさんの宇宙」という意味です。宇宙のことはユニバース(universe)といいますよね。このuniとは「一つの」ということです。
 
マルチバースは多元宇宙(論)と訳されます。ここで問題になるのが、多元宇宙になる原因の説がいくつもあることです。まずはインフレーション仮説の多数の泡によるもの。次が量子論における多世界解釈によるもの。超ひも理論によるもの。まだありますが、これくらいにしておきます。で、これらを個々に説明していくのが煩雑なんですね。
 
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さあ、頑張っていきましょう。インフレーション仮説はご存じでしょうか。この宇宙はあるとき突然にビッグバンで始まったが、その初期の段階で急速に膨張したとするものです。このとき、インフレーションの過程で複数の泡が出来てしまい、それがそのまま膨張して、最初にあった親宇宙から子宇宙、さらに孫宇宙がびょっと飛び出していった。
 
で、これらの宇宙はそれぞれ独立しており、宇宙法則や宇宙定数が違っています。宇宙定数とはその宇宙の中では数値が変わらない値のことで、光速度とか万有引力定数とかです。うーん、なにに例えたらいいのか。たとえば、いくつかの部屋に分かれている風船を急に膨らますと、きのこのようにいくつもの宇宙ができてしまいます。
 
インフレーション・マルチバース
 
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これらの宇宙ではそれぞれ宇宙定数が違ってもかまいません。次は多世界解釈。これはミクロのレベルで可能性があるだけ宇宙が枝分かれするという考え方です。たとえばあなたがA子さんとB子さん、どちらと結婚しようか迷ったとき、A子さんと結婚した世界、B子さんと結婚した世界に宇宙は枝分かれする。
 
多世界解釈
 
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そういう選択は素量子レベルで無数にあるので、無数の宇宙ができていくわけです。超ひも理論によるものは難しいですが、われわれの宇宙は、もっと大きなブレーンというものの中に閉じ込められていて、そのブレーンの中には他にべつの宇宙があってもよいとするような考え方です。
 
で、この3つとも、上記したように、他の宇宙はわれわれの宇宙とは物理定数や法則が違っていて、基本的に行き来することはできないと考えられています。まあ3つとも、現段階では確証はなく、仮説なんですけども。ここまでいいでしょうか。ともかく3つの説とも、われわれの宇宙とは違った別の宇宙がたくさんあるとしています。
 
ふう、このことを大前提として、やっと人間原理の解説ができます。人間原理を一言でいうと、「宇宙が人間に適しているのは、そうでなければ人間は宇宙を観測し得ないから」というものです。ここで、あれ!と思われた方もいるんではないでしょうか。これは宇宙論というより、かなり哲学に近い考え方ですよね。
 
超ひも理論
 
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「われわれ人間がいるのは、宇宙の在り方が人間が存在するのにふさわしいから」そう言っているようなもんです。たしかに、この宇宙の物理定数が今とほんの少し違っているだけで、人間は存在することができないでしょうし、おそらく分子や原子も存在できない世界が多いんでしょう。
 
また、逆に考えれば、たくさんある宇宙は、いろいろな条件が人間が誕生するのにふさわしくなく、したがってその中では人間も生まれないし、その宇宙について考えることもできないと言っているようなものなんです。そんなの当たり前だ!と思われる方も多いんじゃないでしょうか。
 
たしかに、人間がいるから宇宙があるとわかるのだ、というのはあまりに当然の考え方ですが、これが人間原理の宇宙論なんです。この考え方を提唱したのは理論物理学者のロバート・H・ディッケという人で、彼の考え方は今では弱い人間原理の宇宙論と呼ばれています。
 
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これに対し、強い人間原理というのもありますが、煩雑になるので、ここでは説明しません。で、この人間原理、じつは危険な考え方なんですね。というのは、インテリジェント・デザイン論と結びつきやすいんです。インテリジェント・デザインとは、このように人間が発生するのにつごうがいい宇宙にわれわれがいるのは、
 
誰かの意図によって宇宙がつくられたからだ、とする考え方で、この論を主張する人たちはぼかしていますが、誰かとは神を想定しているんです。つまり、インテリジェント・デザイン論は、進化論と対比される考え方で、その主張をしている人の多くは聖書原理主義者なんです。
 
さてさて、ということで、人間原理の宇宙論についてざっと説明してきました。上記したように、これは哲学的な考え方であり、数式が出てこないので自分は苦手です。みなさんはどう思われたでしょうか?では、今回はこのへんで。