今回はこういうお題でいきます。悪魔学の一環です。さて、ルシファーというのはラテン語で明けの明星、つまり金星を表す言葉でしたが、輝けるものという意味も持っています。かつては神のお側近くに仕える大天使の一人でしたが、傲慢な性格で神を超える力を持つと過信し、雲のはるか上に自分の玉座を定めて神にとって代わろうとしました。
ルシファーは自分に賛同する天使たちを集めて、大天使ミカエルの率いる神の軍団との戦いますが最終的に敗北し、ルシファーと天使の３分の１は天から投げ落とされてしまいます。
ここでルシファーには堕天使という名がつきました。キリスト教で定められた七つの大罪のうち傲慢を受け持つとされています。落ちた先は地獄とも南極とも言われます。そこでルシファーの美しかった容姿は変貌して醜い龍になったとされます。
その後、ルシファーはサタンと同一視されていきます。サタンとは神の敵対者という意味です。後世、ダルマティアの神学者聖ヒエロニムスらが、堕天する前をルシファー、堕天後をサタンと呼び分ける説を発表すると、
他の神学者たちもこれを支持し、定着していったんですね。今ではキリスト教の多くの宗派でルシファー＝サタンと信じられています。サタンが犯したといわれる悪事はいろいろあるんですが、大きいところでは、楽園にいるイブをそそのかして知恵の木の実を食べさせ楽園を追われる原因を作ったこと、
イスラエルの王ダビデをそそのかして罪を犯させたこと、善良なヨブから家族と財産を奪い拷問で苦しめたことなどがあげられます。サタンには多くの手下がおり、自ら悪事を行うことは少なく、手下に命じてやらせることが大半のようです。
天使だったころのルシファー
では何のためにサタンは人々を苦しめるのか？これは人間をそそのかすことで悪事に走らせ、地獄に落として魂を奪うためと考えらえています。ではなぜ魂を奪うのか？神との最終戦争であるハルマゲドンにおいて、自分の軍勢として神の軍団と戦わせるためですね。
欧米の映画では、悪魔に魂を奪われる恐怖を描いたものがいくつかあります。『エンゼル・ハート』や『コンスタンチン』などですが、このあたりのことが十分に理解されていない日本では、どれだけその恐怖感が伝わるかは疑問です。
さて、ここまでのところでいろいろ疑問が出てきますね。ルシファーはどうして神にわびを入れて、もとの大天使の地位を取り戻さなかったんでしょう。心がゆがんでしまっていたから、といってしまえばそれまでですが、多くの宗教では神には敵対する者がいます。
寒冷地獄でサタンとなったルシファー
例えばゾロアスター教で、善と光の神アフラ・マズダに対して、悪と闇の神アンリ・マンユなど。これはキリスト教で、神は全知全能であるとしてしまったため、神はすべてをしきることができるのに、どうして世界から戦争や悪事、貧困や疫病などがなくならないのか、どうして世界は不完全なのかという疑問が出てきます。
これに対して、悪魔が神のじゃまをしているからという答えを返すことができるんですね。このような善悪二元論というのは、宗教を広めるうえでの必要性から出てきたという面も大きいのだと思います。また、キリスト教徒は悪魔に取り込まれないために、つねに戒律を守り、善なる判断と行動をすることが求められることになります。
サタンが登場する作品は、ダンテの『神曲』、ミルトンの『失楽園』など。映画は数えきれないほどたくさんあります。その他『デビルマン』や『キン肉マン』などの漫画作品にも登場しますね。あと本物のサタンではないものの、悪魔のような強大な力を持った悪辣な者にもサタンという呼び名が使われることがあります。
『デビルマン』のサタン
キリスト教の悪魔は、他の宗教で神とされていたものを取り入れたものが多いんです。例えば、映画『エクソシスト』に出てきたパズズとか。これは古代アッカドで信仰されていた風の神です。ベルゼブブなんかもそうですね。
ところがサタンはもともとキリスト教の天使だった者です。それが堕落することによって、悪魔の王となってさまざまな災いをもたらしている。キリスト教の成り立ちを考えるうえで、やはり必要だったのではないでしょうか。
さてさて、ということでルシファーについて見てきました。みなさんは悪魔の存在を信じておられるでしょうか。ふとした心の隙に悪の側に堕ちるようささやきかけてくるもの。その誘惑に負けないよう、自分も心をひきしめていかなければならないと思います。では、今回はこのへんで。
『コンスタンティン』のサタン
