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虫歯や高齢などにより失った歯は、義歯もしくはインプラントなど人工物で代替するのが従来の方法だが、将来、失われた永久歯に代わる“第3の歯”を作る医療への道を開く新薬開発が進んでいる。

世界初となる歯の再生治療薬の開発に取り組んでいるのは、京都市に拠点を置くトレジェムバイオファーマ(京都市)。早ければ2024年7月にも治療薬の安全性を確認する第1相の臨床試験に入る。さらに25年には生まれつき一部の歯が生えない「先天性無歯症」の人への治験を経て、2030年には実用化する目標だ。

現在、この再生治療薬が対象にしているのは、生まれつき歯が無かったり、本数の少ない希少疾患「先天性無歯症」の患者だ。その患者数は全人口の1%になると言われ、現在の一般的な治療としては義歯やインプラントなどが使われている。しかし、子供の場合はインプラントが使えず、多くが不自由な生活を余儀なくされている。将来的には、高齢者や虫歯などで歯を失った人も対象にする。


今回は科学ニュースから、こういうお題でいきます。歯が生えてくる薬ということですか。これは画期的ですね。現在のところは誰でもというわけではなく、先天的無歯症の患者に対する治験が始まったということです。先天性無歯症は人口の約1%ほどで、生まれつきの歯の欠損がある人のことです。
 
これには遺伝的な原因が大きく、これまでは義歯やインプラントで治療されてきましたが、この薬を飲むことによって歯が生えてくる・・・再生医療の一環ですね。今後将来的には、老齢や事故で歯を失った人にも適用されるようになるかもしれません。まだ動物実験の段階ですが、今後に治験が予定されているようです。

さて、ここでサメの歯の話にうつります。サメの歯は固く、尖っていてギザギザのある種類も多く、獲物を食いちぎるのに適しています。サメの歯の形や数は、サメの種類によって異なりますが、6~20列の歯が並んでいて、なかには3000本の歯を持つサメの種類もいます。
 
サメの歯
 
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サメはたくさんの歯列がありますが、餌をとるときは前から2列までの歯を使い、その後ろに並んでいる歯は、予備の歯になります。これらの歯は固いかわり、歯茎の部分との結合が弱くて抜けやすいんですね。これは歯が折れてしまって、中途半端な状態になるのを防ぐためです。
 
そして抜けてしまった歯をおぎなうため、傷つくと自然に抜け落ちていき、代りに後ろの歯が移動して前へと出てきます。サメの歯は抜けては生えてを何度も繰り返し、約2~3日ごとに歯を交換して常に鋭い状態を保っており、一生に2万本以上の歯を使うと考えられています。
 
これは、サメの歯が人間とは違い、歯を支えている歯槽骨や歯根膜がないことです。サメの進化の過程で、皮膚の一部であるウロコが発達してできたためだと考えられています。人間の場合は乳歯と永久歯の2種類だけですが、サメのように永久に歯が生え変わるとしたらどうでしょうか。
 
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歯を生やす「歯生え薬」の実用化に取り組んでいるのは、京都大発のベンチャー「トレジェムバイオファーマ」(京都市)などのチームで、令和6年7月ごろから健康な成人で薬の安全性を確かめる臨床試験(治験)を始め、12年ごろの実用化を目指しています。
 
チームは「世界初の試み」としています。人間には、歯の成長を抑制する遺伝子にタンパク質「USAG-1」があり乳歯、永久歯につぐ第3の歯が生えてくるのを抑えています。チームはこのタンパク質に働きかけることのできる抗体薬を開発しました。
 
人間には乳歯、永久歯とは別に、新たな歯になり得る「芽」のようなものがありますが、通常は生えずになくなってしまいます。薬はこの芽に働きかけ、成長を促すんですね。ただし、完全な歯になるのは難しく、治療でクラウンなどをかぶせて使用することになるようです。
 
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なるほどねえ、これはスゴイなあ。最近はインプラント手術も一般的になってきましたが、まだまだ高額です。多くの歯を治すと、車一台が買えるような金額になってしまいます。そのうえ、いちおう手術ですから、万が一ということもあるでしょう。それが薬を飲むだけですむとしたら、たいへんな朗報です。

トレジャーバイオファームは、京都大学大学院 医学研究科口腔外科学分野の髙橋克准教授(現 公益財団法人田附興風会医学研究所所北野病院)による研究成果を利用して、歯の再生治療薬の研究開発から上市までを目的としたベンチャー企業です。
 
高橋氏らは、USAG-1遺伝子が欠損したマウスでは、通常は退化して消失する「歯の芽」が退化せずに成長し、新たな歯を形成することを発見しました。この結果から、USAG-1タンパクを薬で不活性化することによって、歯の欠損を治療できる可能性があるとしています。
 
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それを立証するため、「マウス抗USAG-1抗体」を作製し、その抗体を歯の数が少ない遺伝子欠損マウスに1回投与して歯の数が回復したことを、2021年に学術論文で発表しました。

さてさて、これが本当だとしたらすごいですね。実は歯というものは人間にとってはすごく大切で、単に食物が嚙めなくなるだけではなく、歯周病を原因とした細菌感染が起きたり、歯がないことが誤嚥の原因になったりするんです。それに自分の歯と入れ歯では老後の人生の楽しみがまるで違いますよね。
 
ただし、計画したようにうまくいくとはかぎりません。やっぱり動物実験と人間に対する適用では大きな違いがあるからです。再生医療では癌化の危険もあるでしょうが、ぜひ成功してほしいと思いますね。では、今回はこのへんで。