今回はこういうお題でいきます。ブードゥー教という名前はよく聞きますよね。映画などにも頻繁に登場しますが、ではどんなものなのかというと、説明できる人は多くありません。呪いの人形やゾンビなどは有名ですが、その他にどんなまじないがあるのか言えるという方はおられますでしょうか。
 
辞書をひくと「中米の国ハイチにおける民間信仰」などと出てきますが、これだけでは正確ではありません。ブードゥー(Voodoo)というのは英語で、本来はヴォドゥン(Vodun)であり、これは西アフリカの言葉で精霊という意味です。もともとブードゥーとは、アフリカに伝わる、どこにでもあるような素朴な精霊信仰だったんです。
 
それがどうして遠く中米の国ハイチに伝わったかというと奴隷貿易のためです。ヴォドゥンはベナンなどの西アフリカで広く信じられており、ベナンの国教となっています。で、18世紀のころですかね、ペナンなどの黒人は奴隷として中南米につれてこられ、そこでも細々と信仰は続けられていたんです。
 
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その後、ハイチで1791年に奴隷の反乱があり、6年後世界で初めて黒人共和国ハイチが成立したんですね。このようなアフリカから中南米に渡ってきた宗教は、他にマクンバやカンドンブレなどがあります。で、大きな特徴としては、このアフリカから中南米に流れてくる過程でキリスト教と習合したことです。
 
ですから、現在のブードゥー教には、聖母マリア信仰や聖人信仰、キリスト教的な終末論などが混ざっています。で、このキリスト教的な要素が引き金となって、他の中南米の国やルイジアナなどアメリカの南部の諸州でも信じられています。ブードゥーはジャズとも関係があって、スタンダードナンバーである『聖者の行進』などもブードゥー色の強いものです。
 
では、ブードゥー教とは具体的にどんなものか。これは一口では言えません。というのは、ブードゥー教には教義やキリスト教の聖書にあたるような教典はないからです。また、布教活動などもしていません。儀式では、巫女的な女性が太鼓のリズムやダンスによってトランス状態になり、精霊が憑依してお告げを述べるなどをします。
 
ブードゥー教の祭壇
 
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また動物の生贄もさかんで、鶏の首を切って生き血をあびるなどのことが有名です。上記したように、ブードゥー教では呪いの人形がよく知られていますね。他人を呪うだけではなく、悪いことが起きそうなときに持ち主の身代わりになってくれるという効果があるとされ、キーホルダーなどのお土産としても人気です。
 
この人形は、口を縫いつけるのが基本です。実際に口を縫いつけられた殺人事件も過去にはありました。そして呪いの言葉を唱えながら人形を叩いたり、針を刺したりします。その効果のほうは、残念ながら試したことはないのでよくわかりません。ただ、少なくとも心理的な効果はあると思われます。
 
それからブードゥー教というとゾンビの話が有名ですね。映画のゾンビはジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・リビングデッド』で有名になり、さまざまな派生作品が生まれましたが、もとはブードゥー教由来です。ブードゥー教のルーツであるヴォドゥンを信仰するアフリカ人は霊魂の存在を信じていて、「目に見えないもの」として捉えています。
 
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「ゾンビ」はそれとは違い、元はコンゴで信仰されている神「ンザンビ(Nzambi)」に由来すしています。「不思議な力を持つもの」はンザンビと呼ばれており、その対象は人や動物、物などにも及ぶ。これがコンゴ出身の奴隷たちによって西インド諸島のハイチに伝わる過程で「ゾンビ」へ変わっていきました。ですから、ゾンビはブードゥー教に特有ということでもないんです。
 
ゾンビを作るには「ゾンビパウダー」が必要とされます。一般的に、「ゾンビ・パウダーにはテトロドトキシンが含まれている」と言われています。この毒素を対象者の傷口から浸透させることにより、仮死状態を作り出し、パウダー全量に対する毒素の濃度がちょうど良ければ薬と施術により蘇生し、
 
濃度が高ければ死にます。仮死状態にある脳は酸欠によりダメージを負うため、自発的意思のない人間=ゾンビを作り出すことが出来るわけですね。ゾンビと化した人間は、言いなりに動く奴隷として農園などで使役されました。 ですがこの説、どこまで本当なのか、疑問を持つ意見もありますね。
 
ブードゥー教の旗
 
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つまり、もともとのゾンビは死者ではなかったんです。自意識を失って操り人形のようになった生きた人間。ですから映画のゾンビはブードゥー教由来といっても、純然たる創作物です。で、上のほうでブードゥー教はアメリカ南部でも盛んと書きましたが、奴隷農場などで信じられていた名残です。
 
アメリカの北部はこれと違って、ミディアムと呼ばれる、18世紀の心霊主義(スピリチュアリズム)由来の霊媒師、霊能者が多いですね。あまりブードゥー教の話はききません。あと、ブードゥー教に取り入れられているキリスト教はかなり変形してしまっていて、正統なものではありません。
 
さてさて、ということでブードゥー教について見てきました。細かいことはまだまだありますが、こんなところでいいでしょうか。ブードゥ教をあつかった映画や小説はたくさんありますので、また書く機会もあるでしょう。ブードゥー教製品はお土産としても大人気です。では、今回はこのへんで。
 
ブードゥーショップ
 
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