「ナノ医療」って何? | 怖い話します(選集)

怖い話します(選集)

ここはまとめサイトではなく、話はすべて自分が書いたものです。
場所は都内某所にある怪談ルーム、そこに来た人たちが語った内容 す。

※ このブログでコメント等にはお返事できません。
お手間ですが、「怖い話します(本館)」のほうへおいでください。

ミクロのサイズになった医療チームが、要人の手術をするため体内に
送り込まれる作戦を描いたSF映画『ミクロの決死圏』。
東京大学特任准教授の安楽泰孝氏はここで描かれた世界を
現実のものにしようと研究を進めています。

安楽氏が体内に送り込むのは米粒の10万分の1サイズの「ナノマシン」です。
体内でこのナノマシンが24時間365日検査を続け、
病気になりそうな部分を見つけるとマシンの中から
必要な薬だけを放出して治療まで行う。こんな未来を思い描いています。

(日本科学未来館)

『ミクロの決死圏』
ssss (4)

今回はこういうお題でいきます。上掲の記事は、
「日本科学未来館」のホームページから引用させていただきました。
さて、本題に入る前に、みなさんは1966年のアメリカ映画、
『ミクロの決死圏』はご記憶されているでしょうか。

これ、SFなんですが、スパイ映画、医療映画の要素もあわせ持った、
今考えるとかなり斬新なアイデアのストーリーなんですよね。
物質をミクロ化する技術が開発された近未来が舞台ですが、
ミクロ化は1時間が限界で、それを過ぎると元に戻ってしまいます。

アメリカは、この1時間制限を解決する技術を開発した科学者を
東側から亡命させようとします。東西冷戦が激しかった時代には、
この手のストーリーの映画は多かったですね。しかし、その科学者は、
敵側の襲撃を受けて脳内出血を起こし、意識不明となってしまいます。



そこでアメリカ側は、医療チームを乗せた潜水艇をミクロ化し、
科学者の体内に注入。脳の内部から血栓を溶かす作戦を実行します。
タイムリミットは1時間、それ以内に治療を終えないと、
科学者は死に、はっきり描かれてはいなかったんですが、
おそらく医療チームも死んでしまう・・・こんなお話でした。

さて、この映画の公開から55年がたちますが、物質をミクロ化させる
光線はいまだに開発されてはいません。ですが、そのかわり
ナノテクノロジーは大きく進展しました。「ナノ(nano 記号 n)」が
10のマイナス9乗を表す接頭語なのはご存知だと思います。

1 ナノメートル は 0.000 000 001 メートル
1 ナノ秒 は 0.000 000 001 秒 となりますが、ナノテクノロジーと言った場合
長さの単位を意味することが多いですね。このナノ単位の大きさで働く機械を、
ナノマシン、あるいはナノロボットと言ったりします。
本日のお題は、ナノマシンを用いた未来の医療についてのものです。

ナノマシンは、細菌や細胞よりもひとまわり小さい、ウイルスサイズの機械で、
大きさは10nm~100nm。この大きさだと、人間の血液やリンパ液に入って、
体内を循環するのは簡単です。体内でこのナノマシンが24時間365日
検査を続け、病気になりそうな部分を見つけると、
マシンの中から必要な薬だけを放出して治療まで行います。

ナノマシンのイメージ 実際はこんなメカニカルなものではありません
ssss (3)

こういう未来を思い描いて研究を進めているのが、東京大学医学系研究科
特任教授の片岡一則氏で、上記引用の安楽教授の恩師にあたります。
ちなみに、片岡教授は医学部出身の医師ではなく工学部出身。
ここまでをお読みになって、そんなことまだまだ先の話だろうと
思われるかもしれませんが、かなり実現に近づいてきてるんです。

さて、話変わって、本庶佑教授のノーベル賞受賞で、
「免疫療法」が、手術、放射線、抗癌剤に次ぐ第4の癌治療法と
言われるようになってきました。ただ、免疫療法はかなり昔から、
世界の癌研究所および大手製薬会社で研究されてきたものの、
はかばかしい成果が出せてなかったんですね。

なぜ、癌を自己免疫で治療するのが難しいのか。これは癌細胞が、
もともとある自分の細胞が遺伝子変異によって癌化したものだからです。
ですから、免疫細胞は本来の細胞とよく似ている癌細胞を見逃してしまう。
また癌細胞のほうでも、さまざまな手を使って免疫細胞をごまかそうとします。

本庶博士の開発したオブジーボは、癌細胞が、攻撃してくる免疫細胞に
ブレーキをかけようとするのをストップさせる薬です。
ただ、すべての癌に対して効果があるわけではなく、
例えば肺癌では、効果が見られるのは投与した患者の2~3割で、
しかも、完全に治癒するわけではありません。

ですが、免疫細胞のかわりにナノマシンが体内をつねに循環している場合、
ナノマシンは免疫細胞と違って、自分の体の中では異質なものですから、
癌細胞にごまかされたり、手なづけられたりすることはありません。
癌細胞から攻撃は受けますが、それを逆手にとって、
ナノマシンが破壊される際、内部にある抗癌剤を放出して癌細胞を殺します。

抗癌剤を内包したナノマシン
ssss (2)

現在、この治療法は臨床試験に入っており、対象は乳癌と膵臓癌です。
もし順調に治験が進めば、数年後には実用化される可能性があります。
特に膵臓癌の場合、癌が重要な血管をまき込んでることが多く、
手術でとりのぞくことができるのは、症例全体の2割以下とも言われます。

また、膵臓の構造から、手術したとしても微細な癌細胞が周囲に残ってしまい、
そこから再発・転移してしまうケースがとても多いんです。
ですから、癌細胞よりも小さいナノマシンによる治療には期待が持てます。
また、抗癌剤を使用しないナノ医療のアイデアも、次々に出てきていますね。

膵臓と周囲の血管
ssss (1)

さてさて、ここまで読まれて、いいことずくめの夢の医療だと思われるでしょうが、
じつは、ナノマシンには「グレイ・グー(grey goo)」という現象が懸念されています。
グレイ・グーとは、暴走による無限増殖のことで、炭素やケイ素を素材として
自己複製するナノマシンの場合、自己複製時のプログラム・エラーなどにより、
暴走して、周囲の炭素やケイ素からなる物質を素材化しての増殖が

止まらなくなる可能性が指摘されているんです。もしこれが起きると、
わずか数時間のうちに、地球全体がナノマシンの塊であるグレイ・グーに
変化してしまうなんてことも、絶対にないとは言いきれません。
SFのような恐ろしい未来です。どんなテクノロジーにも、
こういう負の面はあるんですよね。では、今回はこのへんで。
 
グレイ・グー化した地球

ssss (5)