
「ノーベル賞受賞者はたった5つの分野に集中」米研究者が偏りを指摘。
アメリカ、スタンフォード大学の研究チームは、過去に、ノーベル賞を
受賞した研究内容を分析したところ、研究テーマに大きな偏りが
あったとする調査報告を発表しました。(テレビ東京)
今回はこういうお題でいきます。いちおう科学ニュースからですが、
社会的な話題と言ったほうが適切かもしれません。さて、
2020年の自然科学分野の発表が終わり、今年は日本人の
受賞者はありませんでした。残念でしたね。
ニュースの続きを見てみましょう。研究チームは、1995年から
2017年の間に発表された6300万本の論文と、同じ時期に
ノーベル賞を受賞した科学者が発表した論文を分析。
その結果、114の科学分野のうち、素粒子物理学、細胞生物学、
原子物理学、神経科学、分子科学という5つの分野で、
受賞したノーベル賞の半分以上を占めていることが判明したんです。
研究チームは、「この不平等さによって排他的な文化が生み出され、
研究分野を理由に、一部の科学者が2流とみなされてしまう
危険性がある」と指摘しています。なるほどねえ、意味は
よくわかります。ただこれ、問題は別のところにある気がしますね。
ノーベル賞授賞式

それについては おいおい書いていきます。ノーベル賞は、
ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベルが
遺言により創設した世界的な賞で、現在、物理学賞・化学賞は、
スウェーデン王立科学アカデミー、生理学・医学賞は、
スウェーデン・カロリンスカ研究所が選考を行っています。
さて、ノーベルは科学者というよりも、火薬技師、発明家としての
側面が強い人で、また有能な実業家でもありました。その発明品の
ダイナマイトは、不安定で危険なニトログリセリンと珪藻土を
混合させ、安全に使用できるようにしたものです。

そういったノーベルの生前の業績から、賞は実証的、実用的な
研究に与えられる傾向が強いんですね。たんなる理論ではダメで、
実験による証明が必要。また、青色ダイオード、リチウムイオン
電池など、工業製品として応用が効く研究も多いですよね。
ノーベルが賞を創設した理由は大きく二つ。これは過去記事に
詳しく書いてますが、一つは生涯独身で子孫がいなかったこと。
莫大な財産を遺す人がいない。もう一つは、ノーベルの兄が
死んだとき、あるマスコミがノーベル本人と間違え、
「死の商人死す」と書いたのを見て大ショックを受けた。
関連記事 『ノーベルとニトロ』
社会的な貢献の必要性に思い至ったわけです。では、
ノーベル賞の受賞分野はほんとうに偏っているのか。自分は
そう思ってます。ここのところ、物理学賞は宇宙論、量子力学での
受賞が多くなっていますが、最先端の研究分野で、取り組んでる
物理学者も多いですから、いたしかたない気もします。
若い頃のノーベル

じゃあ、例えば物理学分野でノーベル賞を取りにくい研究は
何があるかというと、地震学とか気象学なんかでしょう。どちらも
地球物理学に含まれます。以前は天気予報は当たらないものの
代表のように言われたりしましたが、最近は雨の予報が出れば
まず雨が降りますよね。
これは気象衛星によるデータ取得と、解析ソフトの分析による
ところが大きいんですが、気象解析ソフトの製作チームが
ノーベル賞を受賞することはありません。医学・生理学賞にしても、
地味な生物学的研究での受賞は難しい。
で、自分の考えは、偏りはしかたないということです。
その理由の一つめは、ノーベル賞はスウェーデンが国家ぐるみで
関わっているとはいえ、もともと私的な賞だということで、
独自の選考基準があるのは当然だと思います。

もう一つは、真に公平な選考なんて どのみち不可能だということ。
もし国連が世界的な科学賞を創設し、どれだけ公平を心がけて
選考したとしても、必ず「偏っている」という評価は出ると
思います。だって、完全に公平な選考なんて
神様でもなければ無理ですよね。
さて、では何が問題なのかというと、世界にはたくさんの自然科学の
賞があるのに、ノーベル賞だけが特別 名高く、権威があるとされる
ことでしょう。引用ニュースの研究チームも、おそらく言外に
そのことを匂わしているんだろうと思います。
下村脩氏

例えば、A氏とB氏という研究者がいたとします。分野は違いますが、
どちらも素晴らしい業績。ところが、A氏はノーベル賞を受賞し、
B氏は賞の偏りのためにできなかった。同じ科学者の間では
B氏が2流とは思われないでしょうが、一般の人の評価はどうか。
また、ノーベル賞受賞者となれば国家や大学がほうっておきません。
名前のついた研究所が建てられ、大学の終身名誉教授になる。
ノーベル賞の受賞により付加される価値がきわめて高いんです。
こんな話があります。2008年の化学賞は、緑色蛍光タンパク質に
関する研究により、日本の下村脩氏 他2名に与えられましたが、
この分野で基礎となる研究をしたダグラス・プラッシャーは
受賞できませんでした。これは大きな論議を呼んでいます。
プラッシャーは研究をあきらめ、シャトルバスの運転士に
なったんです。分野の偏りの話とは少し違いますが、
このような例は多数見られるんですね。
日本国際賞

さてさて、ということで、自分が言いたいのは、科学賞はノーベル賞
ばかりに注目が集まり、その他の賞は名前も知られていないこと。
これが大きな歪みを生じさせていると思います。
ノーベル賞受賞者のみがもてはやされ、他の賞との間に、
あまりにも大きな待遇の格差がある。
日本だけではなく、アメリカでも事情は同じです。ですから、
引用ニュースのような話が出てきた。例えば、松下幸之助氏が基金を
提供した「日本国際賞」なんかは、たいへんよい選考をしていると
思いますが、受賞者の知名度は低いですよねえ。これは例によって
マスゴミにも大きな責任があります。では、今回はこのへんで。

※ 追伸 今年(2021年)はなんと地球物理学(気象学)の受賞
上記の批判が効いているのかも。