
今回はこういうお題でいきます。日本人にとって豆腐は身近な
食材です。まず、たいへん安価であること。それと、冷奴などの
ように特に調理の必要がなく、そのまま食べられることです。
鍋物や味噌汁などにも、ただ入れるだけでいいんですね。
その一方、おいしく食べるのはけっこう難しいとも言われ、
湯豆腐の場合、煮すぎて固くなってはいけない。湯に入れて
くらりとひと煮立ちした時点で食べるのがよいなどとされます。
豆腐の製法は、一般的には大豆をしぼった豆乳に
凝固剤を入れて固めるだけです。
豆腐よう 自分はこれ苦手です

日本の豆腐の歴史はそれほど古くはなく、奈良時代に遣唐使が
中国から持ち帰ったと考えられており、空海によるという
説もあります。一般庶民に広まったのは、江戸時代に入ってから
ですが、江戸の献立番付を見ると、さまざまな豆腐料理が出ています。
やはり安価で調理が簡単な点が大きいでしょう。
あまりに豆腐の食材としての利用が大きいので、江戸幕府は
豆腐の値段を統制していて、豆腐製造業者は幕府の
値段引き下げ令に応じなくてはなりませんでした。また、
豆腐は高タンパク食品であり、獣肉食が一般的ではなかった
江戸庶民には重要なタンパク質源だったんです。
あと、仏教僧の精進料理にも使われ、保存が利くように固めた
高野豆腐などが有名です。そういえば、泉鏡花に『高野聖』という
幻想怪異譚がありますね。豆腐は江戸情緒を残す粋な食べ物で、
いつだったか、お笑い番組の「笑点」で、座布団10枚取ったら
好きな料理を食べられるというときに、楽太郎が10枚ゲットして
高野豆腐

豆腐料理を希望し、司会だった師匠の圓楽に「粋だねえ、
噺家はそうでなくちゃいけない。ステーキとか言い出したら
破門してやろうかと思ってた」などとほめられていました。
さて、では、豆腐にはどんなオカルトがあるでしょうか。
まず最初に出てくるのは、妖怪の「豆富小僧」でしょう。
2011年には、京極夏彦氏の原作が3Dアニメ映画化されています。
外観は、大きな竹の笠をかぶった背の低い子どもの姿で
描かれ、中には一つ目になっているものもあります。
下駄を履き、両手に盆に載せた豆腐を捧げ持っています。
妖怪 豆富小僧 着物の柄に注目

うーん、地方の伝承には豆腐小僧の話はなく、江戸の安永年間に突然、
黄表紙などの洒落本に登場し始めたので、創作妖怪と考えられます。
戯作者の間で仲間ウケし、みながキャラクターとして使い回す
ようになったんでしょうね。豆腐小僧は特に人間に害を与える
ことはなく、見た目も怖くありません。
一説には、父親が見越入道という背の高い妖怪で、他の妖怪たちの
間で使い走りをしていたようです。さて、この豆腐小僧ですが、
「痘瘡除け」ということと関係があります。昔の日本では、
痘瘡(天然痘)は恐ろしい病気で、治療法はないに等しく、
天皇をはじめ、大勢の命を奪っています。
痘瘡神をにらみつける源為朝

痘瘡は「痘瘡神」という悪い神がまき散らすと信じられ、この痘瘡神は
赤い色を嫌うという風説が流れました。そこで子どもには
赤い着物を着せたりしていたんです。また、春駒、だるま、ミミズク、
でんでん太鼓、赤魚なども痘瘡神が嫌がるとされ、豆腐小僧の
着物にはそれらの柄が描かれています。
あと、豆腐小僧が持っているのは、紅葉豆腐といって、カエデの
葉の型押しをしたものですが、これも痘瘡除けと考えられます。
痘瘡神は、餓鬼のような姿だったり、少女だったりと、いろんな形で
描かれていますが、新羅から渡ってきたと考えられていました。
実際、古代日本には痘瘡はなく、大陸から来たものです。
痘瘡とその治療 対処療法しかできませんでした

あれ、なんか豆腐小僧の話で終わってしまいそうですね。
豆腐小僧は長く忘れられていましたが、前述の京極夏彦氏らによって
キャラクターが復活しました。豆腐小僧の持っている豆腐を食べると
体中にカビが生えてしまうというのは近年の創作です。
さて、これは怖い話ではありませんが、劇画の『包丁人味平』に
豆腐を材料にして完全なステーキの味、食感を再現するという
話があり、ライバルのレシピを盗み見た主人公の味平は、
食べると腹痛、下痢を起こす豆腐ステーキを作ってしまいました。
あらかじめ偽のレシピが用意されていたんですね。
近年、菜食主義の人も増えてきましたが、人間は必須アミノ酸を
摂取しなくてはならず、大豆を繊維状に加工したソイ・ミートを
あちこちで見かけるようになりました。中には、
本物の肉にしか見えないものもあります。
ソイ・ミートの生姜焼き 見た目は豚肉そのもの

ですから、江戸時代の庶民にとって栄養学上、豆腐の果たした
役割はたいへんんに大きかったんですね。現代でも、豆腐食は
高血圧・動脈硬化・心臓病など、成人病予防に効果があると言われ、
これは自分もためしたことがありますが、ご飯の代わりに
豆腐を食べるとダイエットになります。
さてさて、ということで、あんまりオカルトな内容にはなりませんでした。
最後に、有名なのでご存知かと思いますが、久保田万太郎に
「湯豆腐や いのちのはての うすあかり」という名句があります。
万太郎が亡くなる半年前に詠まれたものですが、「湯豆腐」以外に
漢字を使ってないので、白い豆腐の姿が頭にすっと浮かんできますね。
