小豆洗いとレインマン | 怖い話します(選集)

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今回はこういうお題でいきます。もちろん妖怪談義です。
さて、「小豆洗い」ですが、夜に川の近くに行くと、姿は
見えないんですが、ショキショキという小豆を研ぐ音がする。
しかしあたりに人がいるはずはない。そういう妖怪です。

アニメの『ゲゲゲの鬼太郎』では、粗末な野良着を着た
爺さんの妖怪で、特徴のある髪型をしていました。
仲間に、小豆はかり、小豆婆がいて、現代では、家庭で
あまり調理されることがなくなった小豆の復権のために
立ち上がるという筋立てでした。

小豆の栄養価は高く、タンパク質も豊富なんですが、
赤飯や餡は出来合いのものを買う家が多くなり、家庭で
小豆を炊くのは珍しくなりましたし、小豆が中身の
お手玉を作る家も少ないでしょうからね。

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これだけだと全然怖くないと思われるかもしれませんが、
伝承の中には「小豆洗おか、人とって喰おか ショキショキ」
という歌を歌い、その音に気をとられてしまうと、
知らずしらず川べりに連れ込まれて落とされてしまう、
といった話もあります。

この妖怪の特徴としては、誰も姿を見たものがいないということで、
音だけの怪異なんですね。ですから、何らかの自然の音の誤認と
考えられることが多いようです。例えば、イタチ、狸、狐といった
定番の動物から、ガマガエルが背中をこすり合わせる音だとか、

小豆のお手玉
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チャタテムシという虫ではないかと言われたりしています。
まあ、その可能性は高いように思います。ですが、それを結論に
してしまうと さすがにツマラナイので、ちょっと意表をつくものと
こじつけた記事になります。ここからが腕の見せどころ。

さて、もう一つのお題になっている『レインマン』は、1988年の
アメリカ映画で、ダスティン・ホフマン、トム・クルーズ主演。
第61回アカデミー賞を受賞しています。名画と言われる作品なので、
みなさん、ストーリーはご存知だと思いますが、いちおう簡単に
説明すると、長い間 没交渉になっていた金持ちの父親が死に、

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長男(ダスティン・ホフマン)に、ほぼすべての遺産を譲るという
遺言が残された。弟(トム・クルーズ)は、兄から遺産を
かすめとるべく、サヴァン症候群のために施設にいた兄を、
強引にロサンゼルスに連れ出すのだが・・・といった内容。

サヴァン症候群とは、「知的障害や自閉症などの発達障害等のある
人が、その障害とは対照的に、特定の分野で優れた能力を示すこと」
となっています。特定の分野とは、記憶力、音楽、絵画などですが、
この映画の場合、兄は、分厚い本でも1回読んだだけで完全に覚えて
しまうという並外れた暗記力と、4桁の掛け算を瞬時にこなすなど、

サヴァン症候群の人物の絵
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数字に強いという特性を持っていました。ただし、お金の観念がなく、
本も丸暗記なため、物語の内容などは理解していません。
感動的な人間ドラマとして、今でも評価が高いですし、
何人ものサヴァン症候群の患者と面会したという、
ダスティン・ホフマンの演技が素晴らしかったですね。

さて、ではこの映画と小豆洗いが、どう関係があるのかというと、
下の画像をご覧ください。これは鳥山石燕の妖怪画ではなく、
幕末の1841年に刊行された『絵本百物語』で、
著者は桃山人、絵師は竹原春泉斎です。
まずは詞書を読んでみましょう。ふむふむ。

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「山寺の小僧、谷川に行てあづきを洗ひ居たりしを、同宿の坊主、
意趣ありて谷川へつき落しけるが、岩にうたれて死したり、
それよりして、彼の小僧の霊魂、おりおり出て小豆をあらひ、
泣つ笑ひつなす事になんありし」殺人事件の話なんです。

殺されたのは、越後国の高田(現 新潟県上越市)の法華宗の
寺にいた日顕(にちげん)という小僧で、体に障害を持っていたが、
物の数を数えるのが得意、小豆の数を一合でも一升でも、
間違いなく言いあてることができた。寺の和尚は小僧を可愛がり、
いずれ住職を継がせようと考えていたが、

それに嫉妬した円海という同房の僧が、この小僧を谷川に
投げ込んで殺した。以来、小僧の霊が夜な夜な雨戸に小豆を投げつけ、
夕暮れ時には、近くの川で小豆を洗って数を数えるようになった・・・
結局、罪は発覚し、殺人者の円海は死罪になったようです。

『レインマン』のモデルとされるキム・ピーク氏
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この日顕の小豆の数を正確にあてる能力は、まさに
サヴァン症候群そのものではないでしょうか。『レインマン』の
ダスティン・ホフマンも、100個以上の物の数を
瞬間的に把握する能力を持っていました。

さてさて、なんとか話がつながったようです。妖怪小豆洗いは、
無残に殺された才能ある人物の無念の霊と読み解きます。
そう考えると、やはりなかなか怖い妖怪なんですね。
では、今回はこのへんで。

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