呪いを拾う話 | 怖い話します(選集)

怖い話します(選集)

ここはまとめサイトではなく、話はすべて自分が書いたものです。
場所は都内某所にある怪談ルーム、そこに来た人たちが語った内容 す。

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お手間ですが、「怖い話します(本館)」のほうへおいでください。

bigbossmanです。2週間ほど前、大阪のとあるホテルのバーで
Kさんといっしょに酒を飲みました。当ブログをお読みの方なら
ご存知だと思いますが、Kさんは霊能者で、これまでに数々の
心霊事件を解決されています。ですが、それはあくまで
ボランティアで、謝礼のたぐいを受け取ったことはありません。
本業は実業家。貸しビルや飲食店を、関西を中心に広く経営されてて、
年収は数億だと噂されています。Kさんとある事件で初めてお会い
したのも そこのバーで、飲食代をおごると言ってくださったんですが、
自分がワリカンを主張し、それ以来ずっとそうしてます。
ま、今となっては少し後悔もしてるんですが。
「ねえ、Kさん、何か最近解決された事件はありますか」

「なんだ、またブログネタ探しか。最近、仕事が忙しくってな。
 それと、石垣島に家を買ったんだよ」 「うわ、豪勢ですね。
 別荘ですか」 「いや、本格的な移住を考えてる。そのために
 事業も少しずつ整理してるんだ」 「へええ、そりゃまたなぜ?」
「まあ、いろいろ考えることがあってな」 「ふうん」
「でほら、向こうはシャーマニズム系の宗教が盛んだろ」 「ああ、
 琉球神道ってやつですね。ユタ、ノロ、サスなんて能力者が
 いますね。自分にはよく違いがわからないですが」
「そうだろうな。かなり複雑だが、大ざっぱに言うと、ノロは
 司祭者、つまり本土の神主にあたるかな。拝所にいて、宗教的な
 行事の司祭を務める。それに対し、ユタは民間の拝み屋のようなもんだ」

「ははあ」 「沖縄に移住するのは、彼女たちの力の源を調査するのも
 目的の一つなんだ」 「で、怖い話は」 「ああ、調査に協力して
 くれたユタの一人から、興味深い話を聞いたよ」
「あ、お聞かせ下さい、お願いします」 「うん、そのユタの人は
 50代で独身だが、甥が東京の大学に行ってるということだった。
 アパートで一人暮らししてるらしい」 「で」 「その甥子さんとは
 長い間会ってなかったんだが、1ヶ月ばかり前に急に連絡がきた」
「はい」 「奇妙な夢を見ると言うんだな」 「どんな」
「どこともわからない暗い路地に人が大勢集まってる。その人たちは
 全員が黒いシルエットになっているが、どうやら全員が背中を向けて
 いることはわかる。で、その甥子さんは、集まっている人たちの

 さらに背後にいる。ただそれだけの、動きも何もない夢を続けて
 見るようになったという話だ」 「うーん、でも、それだけじゃ何とも
 わからないですよね」 「ところが、甥子さんはそれと同じ
 画像を少し前にダウンロードしてるんだ」 「ははあ」
「どうやら外国のサイトにあったものらしい。cursed image という
 題がついてた」 「呪われた画像ってことですね」 「そうだ。
 ネットで たまたま入ったイギリスの都市伝説のサイトだったらしい」
「そういうの研究してる人なんですか」 「うん、民俗学専攻」
「それで」 「そのサイト、アドレスを聞いて俺も入ってみたんだが、
 もう画像は消されていたな」 「はい」 「甥子さんは興味を惹かれて
 その画像を保存した。右クリック禁止だったらしいが、それは何とでも

 なるし」 「はい」 「でほら、イギリスのサイトって言ったろ。
 けど、興味を持ったのは、その画像がどうも日本のようだったから。
 暗い画面だが電信柱があるのがわかった」 「ふーん、その画像、
 見られるんですか」 「ああ、俺のスマホに入ってるが、見れば
 呪われるぞ」 「う」 「話に戻るが、その画像を保存してから、
 その場面に自分がいる夢をくり返し見るようになった」
「興味深いです。それで」 「相談されたユタの人が 判断(ハンジ)を
 してみたら、ひじょうに悪い卦が出たんだな。早晩、その甥子さんの
 身によくないことが起きる」 「どうしたんですか」
「一度、沖縄に戻るように言ったが、学校の関係でそれはできないと。
 そこで画像をメールで送らせた。俺が持ってるのはそのコピーだよ」

「で」 「画像を見たユタの人は絶句したそうだ。ひと目で、その
 十数人いる背中を向けた人たちが死人だってことがわかったから」
「で」 「画像の入ったガラケーごと祭壇に供え、甥子さんのために
 毎日祈りを捧げたが、事態は改善しなかった」 「というと」
「甥子さんからまた連絡がきて、毎日のようにその夢を見るのは
 変わらないし、夢の内容が変化していると言ったんだな」
「どんなふうに」 「それまで路地のようなとこに集まって背中を
 向けていた人たちが、夢を見るたびに一人ずつ向きを変え、
 甥子さんのほうを見るようになった。といっても、相変わらず
 黒いシルエットのままで目鼻立ちなどはわからない。ただ、
 背の高さや服装から、男女、それと子どももいるようだ」

「ちょっと待ってください。それ、夢の中の話ですよね。
 実際の画像にも変化があったんですか」 「いや、画像はそのまま」
「うーん、で」 「ユタの人は、とりあえず甥子さんに画像を
 削除するよう指示した。さらに、その画像が入ってたパソコンを、
 近くの神社に持ってって預かってもらうようにとも」
「はああ、そしたら」 「甥子さんが夢を見ることはなくなった。
 けど、その程度のことで障りが収まったとも思えない」
「ですよねえ、それで」 「で、今度は代わりにというかユタの人が
 その夢を見るようになった」 「同じ夢」 「いや、黒い影の
 人たちは全員が前を向いている。最初の画像に戻ったんだ。
 ユタの人は背後にいるわけだが、その人たちには近づけない。

 けど、黒い気が激しく伝わってくる。もっと死んだ仲間を増やしたい
 みたいな」 「で」 「ユタの人は毎日のように儀式をしたが、
 夢を見るのは止まらない。その影の人たちの気持ちもほどけない
 どころか、どんどん強まっていく気がする」 「で」
「甥子さんには電話して、身辺に注意するようにと念を押した
 その夜だな、夢の内容が変わってた」 「どんな」 
「場所は同じだが、黒い影たちは背中を向けたまま前方に詰め寄ってて、
 中にはかがみこんでいる者もいる。伝わってくるのは、期待、
 歓喜のような感情」 「で」 「ユタの人は固まって動けなかったが、
 口の中で呪言を唱えると足が前に出た。
 それに勇気を得て、やめろ、どけ、お前ら散れと念じながら、

 両肘でそいつらをかき分けて前に出た。すると」 「すると」
「路地の角の塀の前にミニバイクが転がってて、甥子さんが頭から
 血を流しながら倒れてたんだ」 「う」 「黒い影の一つが
 甥子さんのそばにしゃがんで頭に手をあててる。それを思い切り
 突き飛ばすと、氷に手を突っ込んだような感じがしてその影は
 消えた。ユタの人はずいぶん小柄なんだが、影の人の中で
 ムチャクチャに手足を振り回した・・・やがて、救急車のサイレンが
 聞こえた気がして、そこで目が覚めたんだ。夜中だったがすぐ、
 甥子さんに電話したものの不通。事情がわかったのは翌朝だな。
 その夢を見てた時間に、甥子さんは実際に事故にあってた。
 ミニバイクで何でもない曲がり角で転け、そのまま意識を失ってた

 ところを通行人に発見されて救急車が呼ばれた。頭を強く打って
 脳内出血だったが、幸いにして命は助かった。まだ入院中だそうだよ」
「うーん、すごい話ですねえ。結局、その画像は何だったわけです」
「わからんが、写ってる黒い影はおそらく全員が呪いの犠牲者だろう。
 死んだ場所はみな違うと思うが」 「怖いなあ。何がって、そんなのが
 ふつうにネットに転がってるんですね」 「まあな、昔は因縁と言って、
 そういうものに関わることは稀だったが、今はネットのせいで
 つながりやすくなってしまったとは言える」 「で、その画像」
「ほら」 「うわわ!! いきなり出さないでくださいよ。見ちゃった
 じゃないですか」 「安心しろ。そのユタの人と協力して何とか呪いは
 解いてある。これから東京の神社にあるやつを処分しに行くんだよ」

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