易と2人の人物 | 怖い話します(選集)

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今回はこういうお題でいきます。この題名を見て、どんな内容か
推測できる方はおそらく少ないと思います。一昨日、
「量子力学の父」と呼ばれるニールス・ボーアについて書きましたが、
それと関連があります。じゃあ物理学の記事かというと、
そういうわけでもないんですよね。

何から書いていきましょうか。みなさんは『易経』という書物は
ご存知でしょうか。儒教で尊ばれる「四書五経」のうちの一つです。
ちなみに、四書とは「論語」「大学」「中庸」「孟子」。
五経は、「易経」「書経」「詩経」「礼記」「春秋」です。

典型的な易者
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儒教では、五経のほうが四書よりも価値が高いとされ、
その五経のトップにくるのが『易経』。ごくごく簡単に言うと、
占いに関する書物です。自分は占星術師なので、いちおう『易経』は
読みました。ただこれ、たいへん膨大な分量があり、しかも内容が難しい。
現代の日本人で、まともに理解している人は多くないと思います。

さて、『易経』は中国の古代に「伏羲 ふっき」という伝説上の王によって
書かれたと伝えられますが、伏羲はほとんど神に近い人物で、
実在そのものが怪しいです。中国古代の王朝、商(殷)や周では、
占いの結果によって生贄の人数が決められ、国政が左右されていました。
そのころから、少しずつまとめられていったものと考えられます。

易に使われる筮竹 もともとは蓍(シ)という植物の茎
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今はあまり見ることが少なくなりましたが、昭和の時代には通りに
易者がいて、筮竹を鳴らして占いをしていました。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦」などとも言いますよね。
現在でも、恋占い、相性占いとか、さまざまな占いが流行していますが、

古代中国では、占いは個人のためのものではなく、共同体の運命を
決める決断をする場合などに行われていたんです。あと、『易経』は
孔子が説いた儒教の思想とは、ほぼ関係ありません。儒教で聖人とされる
周公が一部を書き、また孔子もその一部を書いたとされていますが、
おそらく後世のつけたりなんでしょうね。

易は二進法で進行します
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『易経』についてくわしく解説するときりがないので、このへんで
やめておきますが、中心となるのは陰陽思想です。陰と陽、
2つの元素の対立と統合により、この世界の森羅万象の変化が起き、
それを読み解くための方法論が書かれているのが『易経』と
理解してもらえばいいかと思います。

さて、この『易経』が西欧社会に紹介され、多くの知識人を
とりこにしました。そのうちの一人が、前述したニールス・ボーアです。
ボーアは量子力学をつきつめていくうち、「相補性」という考えを
持ちます。例えば、ハイゼンベルグの不確定性原理では、
電子の持つ「位置」と「速度」について、この相補性が働いています。

粒子と反粒子
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また、現在考えられている「真空」は、何もない空間ではなく、
電子と陽電子がぎっしり詰まっており、それがときおり対生成し、
すぐに対消滅する。また、あらゆる粒子には、対になる反粒子がある。
そういうことが明らかになるにつれて、ボーアは量子力学と
古代の東洋哲学の類似性に気づいていくんですね。

みなさんが今見ているパソコンやスマホの画面も、ミクロのレベルでは、
量子が生成・消滅をくり返しているだけであり、それを人間の
視覚がとらえて電気信号に変換し、脳内で像をつくっている。
たしかに、量子の世界は『易経』が説く陰陽思想に近いと言えるでしょう。

対生成と対消滅
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そこで彼は晩年、『易経』の研究に没頭することになります。
ボーアはノーベル物理学賞をはじめ、たくさんの賞を得ていますが、   
デンマーク最高の栄誉であるエレファント勲章を受けたとき、
貴族として自分の紋章にデザインしたのが、
陰陽思想を表現した「太極図」だったんです。

さて、もう一人、『易経』の影響を受けた人物をご紹介しましょう。
アメリカのSF作家、フィリップ・K・ディックです。彼の代表作の一つ、
1963年のヒューゴー賞 長編小説部門を受賞した歴史改変小説
『高い城の男』では、『易経』が一つのテーマとなっています。読まれた
方はわかると思いますが、ディックの『易経』への理解は深いです。

ボーア自らデザインした太極図入りの紋章
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いちおう筋をご紹介すると、第2次世界大戦で日本、ドイツを中心とする
枢軸国が勝利した世界が舞台となっています。アメリカ合衆国は、
ドイツと日本によって3つの国に分断され、占領統治されており、
その世界では、どういうわけか『易経』が大流行している。
小説の登場人物は、易を行って自分の行動を決めるんです。

日本人が統治する太平洋岸は比較的穏やかですが、ドイツが支配する
領域では、苛烈な人種差別が行われています。その世界でひそかに
読まれているのが、正体不明の「高い城の男」が書いた
「イナゴ身重く横たわる」という小説。第2次世界大戦が連合国側の
勝利に終わった世界を描いていて、発禁本となっています。

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その後の筋立ては省略しますが、自分の理解では、連合国が勝利した
世界と枢軸国が勝利した世界は陰と陽の関係にあり、どちらも存在するが、
『易経』の決定により、連合国側の勝利が真の世界である、という結末に
なって終わります。ディックがどこまで意識して書いたかわかりませんが、
古代の東洋思想によりアメリカ側の勝利が確定するのが面白いですよね。

さてさて、ややまとまりのない内容になってしまいましたが、『易経』
および陰陽思想が西欧社会に与えた影響がおわかりいただければ
いいかと思います。過去記事で、老荘思想の「道 タオ」や
原初仏教の「空」などにもふれていますが、東洋思想は奥深いんです。
では、今回はこのへんで。
 

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