背中のアテロームの化膿が収まった頃、入院して手術を受けることになった。
目的は、鶏眼の切除
実は、一年ほど前から魚の目に悩まされていた。
一般的には「魚の目」で通っているが、医学用語では「鶏眼」と呼ぶ。元々の医学用語、つまりドイツ語の病名をそのまま翻訳したら「鶏眼」だったのかもしれない
左右両方の足の裏は、魚の目だらけで歩行にも支障をきたしていた。最初は、たった1個の魚の目だったが、そこを庇って歩くと他の場所に負担がかかり、そこに新たに魚の目ができる。更にそこを庇って歩いていると・・・
で、結局両足の裏一面に魚の目ができてしまった。
当初は、スピール膏で治療していたのだが、一向に治る気配がなく、次に液体窒素(-195.8℃)で魚の目を焼くをしたが、これも効果無し
終には、外科手術によって切除することになった。
手術が決まった時に、担当医にアテロームの話をしたら、ついでに切除することになった。
さて、手術当日、足の毛を全部剃るように言われた。女子じゃあるまいし、今まで足の毛を剃ったことなどない。まぁ、髭を剃るのと同じ要領だから、苦労はしなかったが、毛のない足に違和感を感じる。しかし、いずれ生えてくることだし・・・まぁ、いいか
足の裏の手術であるから、当然局部麻酔。で、足の裏の何か所かに麻酔の注射を打つのだが、これがものすごく痛い
どれぐらい痛いかと言えば、五寸釘をねじ込まれているような痛さだ。
婦長の説明によると、意外にも愛の裏には神経が集中していて痛いのだそうな
まぁ、それも何とか耐えて、右足にできた鶏眼の切除手術は無事に終わった。左足の手術は、また後日である。なぜならば、両足いっぺんに手術すると、歩けないから。
で、背中のアテロームを切除する手術が始まった。鶏眼の手術と同じように局部麻酔をし、垢と皮脂を溜め込む袋を切り取る。切り取ったアテロームを見せてもらったが、海老茶色のおしろい花の実のようだった。
さて、縫合という段階になって事件は起きた。
「縫いますよ~」
チク!
ん?
「先生、麻酔が切れてます」
「え?痛いかね?」
「はい。痛いし、縫い針を刺す感触もあります」
「それは、困りましたねぇ。でも、縫うのは数針ですから、麻酔の注射を打つのと、同じくらいです。このまま縫っちゃいましょう」
え?またかよ~![]()
自衛隊病院でも、自衛隊さん扱いされるのか・・・
しかし、お医者さんの階級は、俺よりもかなり上。上官には逆らえない
「わかりました。お願いします (;_;) 」
二度あることは三度ある・・・
後日談
さて、件の魚の目はどうなったかと言うと、一ヶ月もしないうちに再発。三か月もしたら元通り。
何のために手術したのか。
そんなある日、上官の一人が
「そう言えば、うちのおばあちゃんは、やいと(お灸)で魚の目を治しよったばい」
「まさかぁ、そげなんで治るとですか?」
「おぉ、治るたい。間違いなか!」
「そぎゃんですか。なら、今度試してみまっしょ!」
とは、言ったものの、近代医学で治せなかったものが、やいとで治るとは思えなかった
ある日のこと、久々に外出許可をもらった俺は、大学の同級生の実家でのんびりした後、留守番になった営内班の仲間に土産を買うべく、酒屋へと向かった。すると、その酒屋の隣には薬局があった。
先日の上官の言葉が頭をよぎる
「まさかぁ」
「そんなぁ」
「でも、それで治れば儲けものだし」
「いやいや、無駄な出費になるかもしれない」
「まずは、もぐさの値段を訊いてみよう」
「こんばんわ」
「いらっしゃい」
「もぐさはありますか?」
「ありますよ・・・え~っとぉ、これですね」
「いくらですか?」
「三百円です」
やすっ!
「ください!それ、ください!」
「はいはい。お灸をすえるんですか?」
「いいえ、魚の目を治すんです」
「あぁ、魚の目ね。直径1ミリ、鼻糞くらいの大きさで使って下さいね。それ以上大きくすると火傷をしますよ」
「え?そんなに小さいのでいいんですか?」
「それぐらいじゃないと熱くて、素人には無理です」
「わかりました」
ってことで、もぐさを買って帰えった。が、線香を買い忘れてしまった俺。魚の目の上にもぐさを乗せて、ライターで点火しようとすると、ガスがもぐさを吹き飛ばしてしまう
かと言って、駐屯地のPX(売店)に線香なんて売ってない
上官に頼んで、家の仏壇から線香を持ってきてもらった
やっとである
袋の中のもぐさを千切り、小さく丸める。正露丸くらいの大きさになった。見た目は、薬局のおっちゃんが言った通り鼻糞なのだが・・・
「用法容量は守らないとね」
半分に千切った。が、まだ若干大きい。
「ちょっとぐらいは、いいんでない?」
魚の目の上に乗せ、線香をあてると・・・線香にもぐさがひっついた
「ん~、困った」
「馬鹿じゃのう、唾を付けるんじゃ唾を」と、ばあちゃんの話をしてくれた上官が言う
「なるほど」
指の先に唾をつけ、それを魚の目に塗る。そこへもぐさを置くと見事に固定された。少々足を傾けても落ちない。これなら大丈夫。
では、気を取り直して
「点火!」
ジュワジュワジュワ
「あっちぃぃぃぃぃ・・・・・・」![]()
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「ふぅ、死ぬかと思った」
「大袈裟じゃのう。やいとの玉が大き過ぎるったい。もっと小さくせにゃ」
「そうなんですか?」
「熱いっちゃろうもん?」
「そばってんですね。あんまり小さいと効かんちゃなかろうかって思うとですよ」
「心配なか。小さくてもちゃんと効くっちゃ」
「気を取り直して、点火!」
ジュワ~![]()
「んぐ・・・っかぁ!」![]()
「どげんね」
「これでも、十分熱かです。でも、これなら耐えられるとです」
「じゃろうが」
そんなこんなで、やいとの大きさも把握し、課業終了後にやいとをすえる毎日
薬効成分が滲み込んだ痕だろうか。やいとを据えたところが茶色く染みになっている。そう、足の裏はお洒落な水玉模様だ
一週間もすると、痛みが消えた。まだ、魚の目の形跡はあるのだが、いくら踏んでもいたくない。
そして一ヶ月後、魚の目は嘘のように消えていた。茶色の水玉模様だけを残して