昔、母の実家に帰省する途中で迷子になった。たぶん、四つか五つの頃だ
大分駅で、日豊本線から豊肥本線に乗り換える。次の汽車まで時間があったのだろう、母と姉、そして僕の三人はトキハデパートへ
いつの時代も女性の買い物は男にとって退屈なものだ。自分の好きな物を眺めているうちに、母と姉はどこかに行ってしまった。
「しまった!迷子になった」
しかし、龍二少年は泣くことを知らなかった
「さて、どうしたものか?我々は、汽車に乗って母の実家に帰る途中。ならば、母と姉は汽車に乗るために必ず駅にやってくる。決まりだ!駅に行って二人を待つことにしよう」
おいおい!普通、子供が迷子になったら親は捜すだろうが!
賢いつもりが、やはり幼児。親が捜すことなど思いつきもせず、すたすたと駅へ歩く。泣くこともなく、しっかりと歩いていたからだろうか、すれ違う大人に声をかけられることもなく駅に辿り着いた
駅前のロータリー、車道と歩道の境目に50センチほどの柵がある。背が低いのでそれによじ登り、きょろきょろと辺りを見回す。目印は自分と同じ柄のコート。姉と僕は、お揃いのコートを着ていた。冬だったのだろう
どれくらい待っただろうか、母が必死の形相でかけてきた。こっぴどく怒られた。
「女の買い物は退屈なんだよぅ。付き合わされる僕の身にもなってくれ」
という幼児の主張が、あっさりと却下されたのは言うまでも無い
母が言うには、デパート中を、それこそ従業員を総動員して捜したそうだ。いくら捜しても見つかるわけがない。僕はとっととデパートをあとにして駅に来ていたのだ。そこで、母ははたと思いついた。あの子ならやりかねない。そう思って駅に来たそうだ
父親が国鉄職員だったからだろうか?駅は安心できる場所だった
それから、またある日のこと
今度は遊園地で迷子になった。その遊園地は、麓から山の中腹までケーブルカーで上がると、そこが入り口だった。帰りもそのケーブルカーで麓まで下りる
「そうだ、きっと家族は家に帰るため、ケーブルカーの乗り場にやってくるはず!」
学習しない子供だった
僕はすたすたと、ケーブルカーの乗り場へと向かう。途中、若いお兄さんに呼び止められた
「ぼく!ぼく!」
「はい?」
「ぼくは迷子じゃないのか?」
「はい、迷子です」
「泣いてないから違うかと思ったけど、やっぱりそうか。ぼくは偉いね」
迷子の場内放送を聞いて、僕が迷子だとわかったらしい
今回も、無事生還を果たした。しかし、母の一言
「あんたは、なんで泣かないの!?泣けば、回りの人がすぐに迷子だとわかるのに!」
「そんなことを言われてもねぇ。迷子になって泣くなんてガキみたいでかっこ悪いじゃん!」
「あんたはガキなの!こ・ど・もなの!」
「ふ~ん、そんなもんかねぇ」
「もう!可愛げがないったらありゃしない」