店長の婚約者 第一回 | 士は己を知る者の為に死す

士は己を知る者の為に死す

男は自分を理解してくれる人の為なら命を懸けて尽くす

主従関係は、征服支配よりも理解

開店前のスナック


「おはようございま~す」
「あぁ、おはよう。龍二、こちら俺の婚約者。あけみちゃん」
「こんばんわ。龍二です」
「こんばんわ」


スナックの開店時間はあってないようなもの。パチンコ屋みたいに客が並んでいるわけでもないし、デパートみたいに開店のセレモニーがあるあるわけでもない。工場のように始業のチャイムが鳴るわけでもないし、自衛隊のように稼業開始のラッパが鳴るわけでもない。

最初の客が来た時が開店時間だ。


フルーツの仕込みはマネージャーの仕事だし、掃除は昼間におばちゃんが済ませている。

客が入るまですることもないので、ステージでなんとなくギターを弾いて時間を潰す。

やがて、最初の客が入り、そして二組目の客が入る。

「いいよ、忙しいでしょ?」とあけみちゃん
「悪かね。おい、龍二、御前ちょっと相手をしてやってくれ」
「はい」

特に、馴染みの客がついているわけでもなく。客が歌うときは、エレクトーンの奏者が伴奏する。とても中途半端な立場の俺。

店長の婚約者と、他愛も無い世間話をする。俺よりもふたつ年上らしい。来週からスナックで働くらしい。


俺が働いている店は、男ばかり。客層は中年の裕福なおば様や組関係の怖いおじ様達。たまに若い娘も来るが、絶対数は少ない。そして、遅い時間になると夜の蝶達。


そう言えばロンドンのおば様は強烈だった。

♪楽しいロンドン 愉快なロンドン ロンド~ン ロンドン♪

わっかるかなぁ?わっかんねぇだろなぁ? ♪シャバダ~ ぃえ~い

あれじゃあピンサロじゃなくてババサロ(-_-)


おっと、大幅に横道にそれてしまった。


で、それから一週間くらい経ったある日
「お~い、龍二、電話!」
「は~い。もしもし?」
「あ、龍二君?あたし、あ・け・み。今日、お店終わったら、飲みに来ない?」
「え?あ、あぁ、いいけど?どうしたの?」
「別に、知り合いが来て盛り上がってるからどうかなと思って」
「わかった、じゃあ、終わったら行くよ。店長には言わんでいいと?」
「いいよ、呼ばなくて。じゃあ、きっと来てね」
「う・・・うん」


あけみちゃんが働いているスナック
「わんばんこっ!」
「やぁ、来たな~」
「あれ?あけみちゃん、できあがってる?」
「何ば言いよっと?酔っ払っちゃおらんばい」
「ほら~、出来上がってるじゃんかぁ」
「そげんこた、どうでもよかろうもん。はい、飲みなっせ」
「あ・・・あぁ、いただきます」
よく見ると、あけみちゃんと友達しかいない。
「ここは、あけみちゃんの店ね?」
「違うばい」
「ばってん、他に誰もおらんやんね」
「あぁ、マスターは帰ったとよ。客が私の友達だけになったき、後は適当に楽しんでって」
「そんなに自由でよかとね?」
「よかと、よかと!」
「男ん子は細かかことは気にせんで、飲みんしゃい」
「・・・」


やがて、ひとり潰れ、ふたり潰れ、テンションが下がってきた
「さぁ、そろそろ仕舞にしようかね?」
「そやね。なら!」
と言って、あけみちゃんの友達たちは帰って行った。僕は、あけみちゃんとテーブルの片付けをする。洗い物を済ませ、ゴミ袋を持って
「なら帰ろか?」
「あいよ」
ゴミ袋を電柱の横に置いて
「ならね」と僕
「帰るん?」
「帰るばい」
「どげんして帰ると?」
「歩いて、帰る」
「本気ね?」
「もう、タクシーもおらんし、こん時間になったら、いつも歩きばい」
「うちに泊まりぃ」
「そりゃ、やばかろうもん」
「かまわんばい。お母さんもおるし」
「は?はぁ」


二人は、ふらふらとあけみちゃんの家まで歩くのであった。途中、あけみちゃんが腕を組んできた。
「当たっちょるばい」
「何がぁ?」
「何がって、腕に」
「いやらしかぁ~」
「・・・」


つづく