色々あって会社を辞め、在宅で仕事をしていた頃のこと。
仕事の連絡は、ほとんどが電子メール。外出することもなく、日曜日や祭日でも「収入が途切れたら」と言う強迫観念から、仕事をしていたら、人と会話をすることがなくなった。
目覚ましもかけず、自然に目が覚めるまで寝て、気が済むまで仕事をする毎日。ストレスと言えば締め切りだけ。と、言っても小説家のように編集が見張ったり、缶詰にされることもなく。締め切りまでに入稿してしまえば、電話もメールもない。
時々、食料を仕入れに出かけるが、レジのおばちゃんと会話するでもなく。一言も発することなく帰宅する。
ともすれば、一週間、誰とも会話しないこともしばしば。
そんな生活を続けていたある日ふと気がついた。
それは、珍しくファミレスで食事をしていた時のこと。何だか心臓がドキドキする。理由はわからないが、不安でいっぱいになる。本当は、食事の後スーパーで買い物をするつもりだったのだけれど、家に帰りたい気持ちを抑えきれず、そのまま帰宅した。
玄関のドアを閉めると、ホッとする。動悸も治まり、気持ちが落ち着く。
「何だったんだろう?」
まぁ、治まったからいいかと、いつもの生活に戻ったのだが、やはり外出すると、動悸がして不安な気持ちになる。家に戻って玄関のドアを閉めると落ち着く。
「もしや・・・これが外出恐怖症?俺って引きこもり?」
冷静に考えてみれば、外部との接点は電子メールだけ。生身の人間を会話することもない。
「そうかぁ、やっぱり引きこもりなんだ。出たくないんじゃなくて出られない。どうしたものか?」
先ずは、ネオン街でリハビリしてみることにした。夜の外出は、昼間の外出に比べると不安が少ない。馴染みと言うほど通ってはいないが、唯一知り合いがいるスナックに出かけた。店のオネーチャンと他愛も無い話をすると、気持ちが凄く安らいだ。
「そうかぁ、やっぱり生身の人間と会話しないとだめなんだぁ。小野田さんはどんな気持ちだったんだろう。南方のジャングルで独りぽっち。辛かっただろうなぁ」
これで大丈夫と、安堵したのも束の間。数日すると外出恐怖症が再発。これの繰り返し。しかし、そうそうネオン街で散財していては、家計がもたない。
で、しばし、考えた。
「そうだ、防波堤に行こう」
おりしも、季節は初夏。そろそろ夜釣りの季節。防波堤に行けば、釣り人がいる。それなら、ただで会話ができる。
それからは、夜な夜な近所の防波堤に出かけては、釣り人に話しかける。運良く、その防波堤に足繁く通う人当たりのいい釣り人がいて、よくその人と話し込んだ。いや、釣りの邪魔をした。
おかげで、みるみる回復し、日中の外出も平気になったのだが・・・さすがに、冬の夜に釣りをする人はいない。
出社恐怖症になって、サラリーマンを辞めた僕だが、もう、何年か経ってるし、だめなら、またそこで考えよう。と、意を決してサラリーマンに戻ってみた。
生活の時間帯が逆転していたので、最初は辛かった。何度か遅刻もした。しかし、今はなんとかやっている。
いつまでもつかわからないけど・・・