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物語の面白さを考えるブログ

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「レッド・フックの恐怖」を読みました。

 

結末についての解釈を開陳するので、ネタバレ全開であることをご諒承ください。

 

舞台はニューヨークのレッド・フック地区。そこは不法移民がひしめく貧民街であった。

主人公・マロウン刑事は、レッド・フック地区で、太古から続く邪教・悪魔崇拝がおこなわれていることを感じていた。同地では幼児誘拐事件が頻発しており、その黒幕として富豪の隠遁者・ロバート・サイダムに目をつけていた。サイダムは魔術や古い伝承の研究者でもあった。

サイダムが名門の令嬢と結婚し、客船で新婚旅行に出かけた夜、船室でサイダムが何者かに殺される事件がおこった。それを予見していたように現れた貨物船の船員によって、サイダムの死体は持ち去られてしまう。貨物船の船員は、サイダムの自筆の手紙を持参しており、それには自身が死亡した場合、死体を船員に引き渡すよう記されていた。

同じ夜。サイダムの所有する複数の館に、警官たちによる一斉捜索の手が入った。マロウン刑事もその中のひとりだった。彼は教会の地下にある納骨堂の秘密の扉の奥に、無数のトンネルが走っているのを発見し、不法移民を海上から上陸させるために使われているものだと確信する。

マロウン刑事はそこで恐ろしい儀式を目撃し、精神を病むこととなった。

地下トンネルには悪魔や魔物がうごめいていた。そして、貨物船の船員によって水路から運び込まれたサイダムの死体が生き返り、悪魔リリスの花婿となる儀式が開催されたのである。しかし、サイダムは逃げ出し、死者復活のキーアイテムであるらしい黄金の玉座を破壊し、粘塊のような死体となって消えたのであった。

 

魔物がうごめく儀式のシーンを描き出す筆致はさすがで、これだけでも読む価値ありと思わせるおどろおどろしさが横溢しています。

ストーリーの表面をなぞるなら、悪魔崇拝に傾倒したサイダムが、悪魔の力によって死後の復活をなしとげ、人知を超越した力を手に入れようとしたものの、実際にそうなってみたら、思っていたのと違う、となって、企みをご破算にしてしまった話、と読めます。

悪魔の一員に列することは、人間の魂には耐えられないおぞましさであり、彼はその境遇から自らを救い出すために再度の死を選んだのでしょう。

しかし。

巻末の作品解題を参照すると、見方が変わってきます。

本作が執筆された時期は、ラヴクラフトの結婚生活が破綻したころであり、執筆場所は、レッド・フック地区にある、一人暮らしのために借りたアパートでした。

ラヴクラフトはレッド・フック地区の不浄さを心底嫌っていたといいます。

そこを舞台に、悪魔との婚礼が破綻する小説を書いたということは――。

ラヴクラフト先生、結婚生活で、よほど嫌な思いをしたのじゃないですかね。

結婚は地獄。

サイダム氏、結婚によって、二度、死んでいますし。

自らが想像し創造した「宇宙的恐怖」よりも、はるかに恐ろしい現実があると、ラヴクラフトは本作を通して訴えているような気がします。

 

なんてね。