『平氏 ―公家の盛衰、武家の興亡』を読みました。
歴史学者・倉本一宏氏による、『蘇我氏』『藤原氏』と続く「氏」シリーズ第四弾。
ん? 第三弾は?
実は『平氏』の前に『公家源氏 ―王権を支えた名族』があるのですが、存在に気付かず、すっ飛ばしてしまいました。
天皇の血を引く皇族が増えすぎた結果、税金で養えなくなったので、姓をもらい皇族をやめて自立する者が出てきました。
これを臣籍降下と言います。
源氏も平氏も、臣籍降下の結果、生まれた氏族です。
平将門は「新皇」を称した際、桓武天皇五代の孫であるといって血筋の正統性をとなえましたが、何てことはない、元をたどれば天皇に行き着く人は、案外たくさんいるのでした。
本書では、そんな平氏のみなさんを網羅的に紹介しています。
桓武天皇に由来しない平氏もいますが、それは至極マイナーな存在であり、平氏の主流といえば、やはり桓武系です。
桓武平氏は、大別すると、高望王と高棟王の系統に分けられます。
高望王――平高望の子孫は、京から東国に降り、軍事的な技能を強みとし、武家となりました。
平氏=武士という一般的なイメージを作ったのは、こちらの系統です。
一方の高棟王――平高棟の子孫は、京に残り、中級官僚として命脈を保ちました。公家平氏です。
藤原氏が繁栄の極みに達した陰で、摂関家に仕えたりして、したたかに生き残ったのでした。
そして平氏誕生から三百年を経て、武家平氏と公家平氏がひとつになり、権力の頂点に立ちました。
平清盛政権の誕生がそれです。
清盛一門を平氏一般と区別して「平家」と呼びます。
「平家」と言った場合、平氏全体のことではなく、清盛一門を指しているのですね。なるほど。勉強になりました。
したがって、「平家物語」は清盛一門についての物語であるし、源平合戦は、源氏 VS. 平家であり、源氏と平氏全体の抗争ではないのです。
ついでに言えば、平家を滅ぼした源氏とは、すべての源氏の集合体のことではなく、リーダーに源氏を戴いているだけで、実態は武家平氏であったのです。
源平合戦というネーミングだけ見れば、源氏と平氏の対立というイメージを持ってしまいますが、その中身はと言うと、各一族が、それぞれの立場と都合によって源氏側と平家側について戦ったのでした。
歴史を把握する場合、細部を省略して大まかな流れを見る手法は有効だと思いますが、あまり簡略しすぎると歴史の面白みといったものを感じられなくなるのではと思いました。
「源平合戦」というレッテルの陰には、さまざまな個人・一族の思惑が蠢いていた――。
そこに思い到り、想像を働かせるのが、歴史理解の醍醐味なのでしょう。
私は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を視聴していませんでしたが、十三人の有力御家人のうち、五人が武家平氏の出身なのだそうな。
それが北条氏によって次々と粛清されてゆき、武家平氏は歴史の第一線から姿を消しました。
一方の公家平氏は、明治期まで貴族として存続しました。
ということは、現代にも、その子孫の方は生きておられるということですね。
桓武天皇の時代からずっと血筋が続いていると思うと、何かもう、すごい、としか言えなくなります。