三角関係と言っても、恋愛の話ではありません。
人間関係の話です。恋愛も包含していますが、もっと広い範囲の話になります。
複数人が絡む人間関係って難しいですよね。
そういうときは、「三角関係」を最小単位として考えると、把握しやすくなります。
一対一の〝対人関係〟を最小単位と考えることもできますが、突き詰めると、相手を好きか嫌いかというところに集約されるので、この場合、話はシンプルと言えます。
複雑になるのは、三人以上が絡む場合です。
三人目が絡むと、シンプルだった好き・嫌いの感情が影響を受けて揺らぐので、話がシンプルでなくなります。
ですから、「三人組」を基本形として、そこに働く心理的力学を理解することが、人間関係の複雑さを紐解く鍵となります。
三人の登場人物を、A、B、C とします。
Aさんの視点から見た人間関係を図で示しながら、以下、説明を行います。
図1
矢印は、相手に向けた感情を表しています。
BさんとCさんの間には、双方向の矢印が書かれています。本来は図2 のような矢印が存在するはずですが、話を簡略化するために双方向の矢印を用いました。
図2
また、図は、あくまでAさんから見た人間関係なので、BさんとCさんとの間に書かれた矢印は、Aさんが推察した感情であることを憶えておいてください。
BさんとCさんが、互いにどのような感情を抱いているか、実際のところは本人にしかわかりません。Aさんが直接的にそれを知ることはできないのです。
図3 では、感情の矢印に、その性質を表す符号をつけました。
肯定的な感情をプラス(+)、否定的な感情をマイナス(-)で表しています。
図3
中央の、赤字で記された符合は、三角形全体のエネルギーの性質を表しています。
算出方法は、三辺の符合の掛け算です。
演算規則は数学といっしょで、
(+)×(+)=(+)
(+)×(-)=(-)
(-)×(-)=(+)
となります。
三角形のエネルギーが(+)である場合、その三角形は安定しており、変化しにくいです。
三角形のエネルギーが(-)である場合、その三角形は不安定であり、安定を求めて、(+)の三角形に変化しようとする傾向があります。
この傾向は極めて重要なので、記憶してください。今回の話の肝です。
図3 は、三人とも互いに肯定的な感情を抱いており、良好な人間関係を築いている状態です。
仲良し三人組ですね。
関係は安定しており、基本的に変化しません。
次に、不安定な三角形を示します。
図4
Aさんは、Bさんが好きで、Cさんのことは嫌い。
BさんとCさんは仲が良い(と、Aさんには見える)。
このようなとき、Aさんは、BさんがCさんのような嫌な奴と仲良くすることが、面白くありません。モヤモヤして、ストレスを溜めます。
ストレスが高じ、抑えきれなくなると、感情が変化します。
不安定な三角形が、安定に向けて、いよいよ動き出します。
図5.1
Aさんは、Bさんのことが嫌いになってしまいました。
あんな奴(Cさん)と仲良くするなら、勝手にしろ! 人の気も知らないで! といった気持ちでしょうか。「敵の味方は敵」といった心理です。
Aさんが、BさんとCさんから距離をとったことで、三角形のエネルギーは(+)になり安定しました。
図5.1 は、Aさんから見た人間関係ですが、このとき、Bさんの視点では、どのように見えているのでしょうか。
つい最近まで、AさんはBさんに対して肯定的な態度をとっていたので、BさんはAさんに対して肯定的な感情を持っているものとします。
図5.1.1 に示しました。
図5.1.1
AさんとCさんが仲が良くないことを、Bさんは認識しています。
これだけでもモヤッとするのに、最近、Aさんの自分に対する態度がよそよそしい。
こうなるとBさんのストレスは増し、葛藤が始まります。
三角形は不安定になります。
Aさん視点の三角形が安定したと思ったら、Bさん視点の三角形が不安定になる。――人間関係が難しいわけです。
さて――
この図式は恋愛ドラマの三角関係と同様のものでもあります。
Bさんは、AさんとCさん、両方に心惹かれるものを感じており、AさんとCさんは、互いを恋敵として認識している。――安定するわけがありません。
Bさんがどちらか一方を選んで、ようやく安定します。
AさんとCさんが仲直りして「ハーレム」が完成しても安定しますが、現実味は薄いでしょう。
いったん図4 に戻ります。
図4(再掲)
図5.1 のルートでは、AさんがBさんを嫌いになって三角形が安定しましたが、安定させる方法がもう一つあります。
Bさんに対する執着が強い場合、Aさんは何とかして、BさんとCさんとの仲を裂こうとするでしょう。
それが成功した場合を図5.2 に示しました。
図5.2
Aさんは、Cさんの悪い噂を、Bさんに吹き込みまくったのかもしれません。
Cさんに対するBさんの感情は反転し、三角形は安定しました。
図5.2 は、いくつかのことを我々に教えてくれます。
Cさんという共通の「敵」が存在することにより、AさんとBさんとの結びつきは強固になります。
その場にいない人の陰口で場が盛り上がる理由は、図5.2 のような三角形が出現するからだと言えば、腑に落ちるのではないでしょうか。
また、最初からBさんとCさんが不仲である状況があり、AさんがBさんとお近づきになりたいと思っていた場合、自分もCさんへの悪感情を持っていることをアピールすることで、Bさんの歓心を買いやすくなります。
もともとあった、BさんのCさんに対する敵意を利用すれば、Aさんは自己の欲求を満たしやすくなります。
このような行動をとる人は、現実に存在します。
図5.1 と図5.2 からわかることは、三人いた場合、二対一の構図になると、関係が安定するということです。
三角形が不安定になる、もう一つのバターンを、図6 に示しました。
図6
全員、仲が悪い。
これで三角形を維持しようとすることに無理があるわけです。
各自がソロ活動をすれば、みんなが幸せになれる状況ですが、職場など、個人のわがままが許されない場では、嫌でも関係を続けなければなりません。
ストレスフルな状況ですが、不安定な三角形は安定に向かう傾向があることを思い出してください。二対一の構図になれば安定することを思い出してください。
何らかの要因で、三角形の均衡が崩壊に向かった場合、仲の悪かった二人が、ある日手を組んで、一人を追い落とす、なんて展開が訪れることもあり得ます。
「敵の敵は味方」という心理ですね。
「半沢直樹」的な逆転劇が可能となるのは、このような力学が三角形に働くからなのです。
私、「半沢直樹」、観たことないんですけどね(爆)。
ここまで、三人の人間の間に働く心理的な力学を見てきました。
では、関係する人物が、四人、五人と増えたら、どうなるでしょう。
Dさん、Eさんという新メンバーが登場したとしたら?
三角形ABDや、三角形ADEという新たなバターンが、元の三角形ABCに重なってくることになります。
基本は三角形です。
三角形に還元して人間関係を整理すると、把握しやすくなります。
前言の繰り返しになりますが、他人の感情は、あくまで、視点人物による「推察」であることを、くれぐれもお忘れなく。
所詮、他人の気持ちなど、話を聞いてみるまではわからないものです。
思い込みで決めつけて、それを基に行動すると、軽挙妄動となるかもしれません。
率直に話し合うのが一番――と言いたいところですが、過度に自我が肥大した人物は、「虚像としての自分」を過剰に防衛しようとするので、話し合いが成立しない可能性があります。
話し合う際は、相手の人品を見極める眼力が必要となります。
ああ、人間関係って悩ましい。
長々と話してきながら、何の解決策も示しておらず、申し訳ありません。
終わります。