「君の名は。」みたいな話 | 物語の面白さを考えるブログ

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車で信号待ちをしていたときの出来事です。

 

歩行者用信号が青になり、通行人たちが横断歩道を渡りはじめました。

 

その様子を運転席からぼんやり眺めていたところ、OLふうの一人の女性が視界に入った途端、ドキン! と心臓が跳躍しました。

 

すごい美人だったとか、好みのタイプで一目惚れしたとか、そういった感覚ではありませんでした。

心よりも、もっと深い部分で、

 

(この人、ずっと前から知っている)

 

否定を許さぬ確信が、電光のごとく閃いたのです。

 

視界を横切るその女性を、しかし、目で追うことはしませんでした。

女性を凝視して、あらぬ嫌疑をかけられることを恐れたからです。

視線というものは――特に強い想念をこめた場合は――案外、容易に相手に気付かれるものです。そのことを経験的に知っていたので、追いかけたい誘惑に耐えて、前方の虚空を見詰め続けたのでした。

 

彼女が道路を渡りきったであろう頃合いを見計らい、視線をそちらに向けました。

歩み去る彼女の背中を、奇妙な感慨とともに見送るはずでした。

目が合いました。

反対側の歩道にたどり着いた彼女は、立ち止まり、身体の向きを変えて、私を見詰めていたのです。

 

(ああ、向こうも同じことを感じたのだな)

 

瞬時に湧いた解答に、何の不思議もありませんでした。

 

青信号が点灯しました。

車を発進させるべく、私は前を向きました。

その後、彼女と劇的な再会をすることもなく、今に到っています。

 

――袖振り合うも多生の縁。

 

この言葉の意味を、実感として、私は知っているという、それだけの話。

 

 

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