人にはそれぞれ輝くシーンがある
「ねえ。『喜び』って言葉から、どんな風景をイメージする?」風呂上がりの妻から唐突な質問を受けた慎一は、眼を閉じてみると、ふいにひとつの景色が見えてきた。海から眺める東京に似た大都市。同じく想像したらしい妻は、自分は空にいるという。(「ティファニー2021」)一流ブランドには物語があり、人生の一瞬を輝かせる。著者が20年をかけてその一瞬を切り取ってきた珠玉の作品集。
吉田修一さんの作品は割と好きなんですが、これはピンと来なかったです、残念。
この作品は今まで作者が広告や雑誌の企画で書かれた小説やエッセイなどをまとめたものです。
広告や雑誌の企画ということはこれはプロジェクトという事で書かれるには書かれる目的のある文章という事です。
吉田さんの作品は人間の内面に迫るものが多い印象だったので、それに比べるとこの作品は軽く感じる。目的が違うので軽いのは当たり前で、あとは好き嫌いの問題だと思います。
私がどうしても気になって仕方なかった作品があるのですが、主人公がゲイカップルでティファニーへお揃いのアクセサリーを見繕いに行った話です。
ゲイカップルがティファニーで買い物をすることは私の中でも何の問題もありません。
しかしこういうセリフがあるんですよ。
「ちなみにおねえさんは、悩みに悩んで、本当に欲しかったものがもう見つかったんですか?」
ティファニーで買い物をするのにおねえさんって…。
絶対にありえない。
自分のパートナーがこんな発言をしたら別れるレベルの事だなと思ってしまった。
私自身も私のパートナーもスタッフをおねえさんと呼んだことは流石にない。
これって吉田さんの感覚なのかなあってちょっとびっくりしました。
全体的には普段より軽く、おしゃれな作品集なのにもうこのおねえさんが頭から離れないままで読み終わってしまった。
ティファニーがこれでいいって言ってるんだからいいんだろうけれど。
ちなみに一番好きだったのは、『祖母のダイニング』というタイトルのエッセイです。
吉田さんの亡くなられたおばあさまの話です。
まあ、もし初めて吉田作品を読むというのならばこの作品はお勧めしませんが。