誰からも愛された弟には、誰も知らない秘密があった。突然姿を消した弟、希望。行方を追う兄の誠実は、関係者の語る姿を通し弟の持つ複数の顔を知る。本当の希望はどこにいるのか。記憶を辿るうち、誠実もまた目をそらしてきた感情と向き合うこととなる――。痛みを抱えたまま大人になった兄弟が、それぞれの「希望」を探す優しいエールに満ちた物語。文庫化にあたり、書下ろし短篇「光」を収録。
 

 

寺地さんの作品を読むのは初めてだと思います。

優しい感じの作風なのかなとなんとなく思っていたのでこの作品は割と衝撃的でした。

 

突然姿を消した弟の希望を兄の誠実が探すというストーリー。

希望がどんな人間だったのか色々な人の目を通した人物像が描かれています。

 

誰も知らない秘密があったというよりは誰も知らない本当の顔があったという方が近いかなと思います。

 

母親の思う希望、昔の彼女の思う希望、同僚の目を通した希望などなど。

優しくてあたりの柔らかい希望だけれど、つかみどころのない人間でもある。

誠実はそれを知るたびに混乱しつつも希望を探し出したい気持ちも強くなっていくようでした。

多分それは誠実が自分をさがす道程でもあったんだろう。

 

現実を直視したくない誠実と中身が空っぽの希望。

1ページ1ページがきつかった。

 

誰かのせいにしても解決しないけれどやはり親って大切なんです。

だから誠実と希望は本当に気の毒だと思う。

子供に一番大切なのは自分が愛されているという安心感だと思っている。

それ以外はそれぞれの家庭によって違うかもしれないけれど、愛だけは絶対に必要だ。

 

それにしても登場人物でまともに良い人は一人もいないです。

なかなかに陰鬱な気分になる。

でも考えてみたらそれが当たり前なんですよね。

うわ、良い人…なんて現実には多分ほとんどいない。

みんな悩みを抱えながら生きているわけだし、自分に不満だったり損をしたくなくてうまく立ち回ろうとしたりの繰り返し。

 

希望の事を考えようとするとそれが鏡のようになって自分の姿が見えてきて、周りの人々も少しだけ変わっていく。

特に誠実はそうだったんじゃないかなと思う。

 

単行本のラストもとてもよかったし、文庫化にあたって書かれた最終章にとても救われました。

ほんの少しずつでも希望が自分を自分らしさで満たしていってくれればいいなと素直に思いました。

 

他の寺地作品がこんなにも心に痛いものなのかどうかは知らないのですが、良い作品に巡り会えたなと感謝します。