私は腐野花(くさりの・はな)。着慣れない安いスーツを身に纏ってもどこか優雅で惨めで、落ちぶれた貴族のようなこの男の名は淳悟(じゅんご)。私の男、そして私の養父だ。突然、孤児となった十歳の私を、二十五歳の淳悟が引き取り、海のみえる小さな街で私たちは親子となった。物語は、アルバムを逆からめくるように、花の結婚から二人の過去へと遡ってゆく。空虚を抱え、愛に飢えた親子が冒した禁忌、許されない愛と性の日々を、圧倒的な筆力で描く直木賞受賞作。
旬のものを旬のままに取り入れないのが私の悪いところと言えるかもしれない。
賞を取ったり、話題になったりするとつい敬遠してしまう。もちろん賞には大きな意味があるとわかっている。
ただ飛びつきたくない天邪鬼体質と賞を取った事によって巷の評価が嵩増しされているのが好きじゃないだけです。
なので忘れられた頃にこっそりと読むことになる。
それにしてもこの作品は感想を述べづらい。
この題材はどうしてもどうしても人として嫌悪感を感じてしまっても仕方ない類のものであると思うのでよく直木賞を取ったなと驚いてしまった。つい選評をサイトへ読みに行ってしまったくらいです。
桜庭さんが書いているからエンタメとして面白く一気に読んでしまったけれど、これを他の方が書いていたらどうだったかなとつまらない事を想像してしまった。
ストーリーは震災で孤児となった花を親戚である淳悟が引き取って育てた約15年間を25歳の花の結婚から遡っていく形式です。
まずもって独身の25歳の男が小さな女の子を引き取るのもおかしいけれどフィクションですので良しとしましょう。
花が悪魔のような少女なのか、それとも淳悟の虐待なのか…どちらも真実なんだろうと思う。この二人がどこか世界の果てで誰とも関わらずに生きていくのならばもうこれでもいいのかなと桜庭さんが上手いからつい思わされてしまうわけなんだけれど、実際ストーリーの中でも周りの人間が被害者になってしまっている。許されない無理を通せば道理は引っ込むにしても破綻が待っているのではと思う。
そんな二人の関係が北の町のうら寂しさにマッチしているし、東京の汚いアパートにもマッチしている。
二人の事が色んな人の目線で描かれていたのでどんどん読めてしまった。花の結婚相手の美郎は単なるお坊ちゃんかと思ったらきちんとしたキャラクターがあって美郎視点の章もよかった。
ミステリー要素もあり本当に面白いし、ページターナーなんですよ。
それでもやっぱり自分の中に嫌悪感が湧いてくる。これは不遜な事なんだろうか。
よくわからないけれど、桜庭さんはどんな気持ちでこの話を書いたのだろうかと思う。
なんとなくだけど、「こんなん書いちゃいました…なんちゃって、テヘペロ」みたいな感じなんじゃないかなあと想像する。
映画も観てみましたが、結構きつい。
二階堂ふみは好演していたのは間違いないけれど、この題材を映像にされちゃうとやっぱりきつい。
映像で描ける類のものではないなと感じた。
淳悟って痩せて背が高くて年齢より若く見えるらしいけれど、こういう外見じゃなかったら物語として成立するだろうか、無理だろう。