温かい気持ちになったあとに、思わず涙があふれてしまう。
――風格のある原宿の洋館はGHQの接収住宅でもあった。
そこに小さな女の子はなぜ出没するのか?
戦時中、「踏めよ 殖やせよ」と大活躍し焼夷弾をあびながらも生き延びたミシンの数奇な運命とは?
少しぼけた仙太郎おじいちゃんが繰り返す、「リョーユー」という言葉の真意は孫娘に届くのか?
おさるのジョージの作者たちは難民キャンプで何をしていたのか?
やわらかいユーモアと時代の底をよみとるセンスで、7つの幽霊を現代に蘇生させる連作集。
こんな幽霊話なら歓迎だなと思うような不思議でノスタルジックで良い作品集です。
第一話 原宿の家
Wが学生時代に不動産のアンケート調査のバイトをすることになり、原宿にある洋館で出会った、女の子、初老の女、そしてノリコの話。
第二話 ミシンの履歴
戦前から戦争の激しい激動の時代を目撃し生き抜き、今はアンティークショップに置かれているミシンの話。
第三話 きららの紙飛行機
母親にネグレクトされているきららが出会ったケンタの話。
第四話 亡霊たち
主人公の千夏と曽祖父と曽祖父が決して忘れられない人々の話
第五話 キャンプ
マツモト夫人が暮らす不思議なキャンプ。
第六話 廃墟
カオルーンで知り合った女性と日本で再会して廃墟を見に行く。
第七話 ゴーストライター
所属していた編集プロダクションの編集長とアーケードの奥の小料理屋へ行く話。
特に好きだったのは『原宿の家』『きららの紙飛行機』『廃墟』です。
原宿の家と文教地区にある廃墟はなんとなく雰囲気が似ている。
かつてはそこで過ごした人々がいて、その感情がそのまま残っているような感じ。廃墟マニアっているけれど廃墟にはそんな風に人を惹きつける何かがあるのかもしれない。廃墟はいつか取り壊されてしまうけれど、その気配は人の心に濃厚に影を落とす。
この二つの話は『小さいおうち』とも重なる何かがあると思う。
『きららの紙飛行機』は現代に親からネグレクトされているきららと、自分でコントロールできないけれど時々幽霊として地上に現れるケンタの物語です。ケンタは戦後の浮浪児で苦労をしてきたからきららの悲しみとシンクロする。子供が辛い思いをすることが私には何よりも辛く感じる。この話は泣いてしまった。
戦争で親を亡くして浮浪児として暮らすという苦労は想像もつかないけれど、実際に今から75年前くらいにそういう境遇となった人たちもたくさんいたわけだ。それからの長い時間日本は前を向いて進んできたはずなのに、現代にも事実上保護者を失っている子供達がいる。なんとかしなくちゃいけないと思うけれど、何をしたらいいのかわからないもどかしさ。
子供を傷つけるのは理由にかかわらず大きな罪だと思っている。どんな理由があっても私は許すつもりはない。