高中真由子は、編集者の父と医師の母のもとで、何不自由なく育てられてきた。真由子が小学生のころ、隣家に二つ年下の百合の家族が引っ越してきて、二人は急速に仲良くなっていく。しかし、真由子が21歳になった冬、百合は真由子が幼いころからずっと思いを寄せてきた澤村諒一の子どもを妊娠したと告白した。その日から、真由子の復讐が始まる――。
 諒一と百合の子どもの名付け親になった真由子は、『痴人の愛』の「ナオミ」から、二人の息子に「直巳」と名付け、彼を「調教」していく。直巳が二十歳の誕生日を迎えた日、真由子は初めて、直巳に体を許す。それが最初で最後となるとも知らず……。

 

 

山田詠美さんの作品はごく初期のものくらいしか読んだことがなくて、しかし現在の山田詠美さんは大先生です。

何か読んでみようと思い立ち、興味があったのは『つみびと』だったんですが、とりあえずヴォリューム的にも読みやすそうな『賢者の愛』を読んでみました。

 

こちらは以前Wowowドラマになったので観たことがあり、ドラマの出来もよかったと記憶していました。

真由子は中山美穂、百合は高岡早紀でした。

 

原作とドラマは結構近い感じですが、細かい内容は忘れていたのもあっていちいち読みながら驚いてしまいました。

これは読む人によっては嫌悪を感じるかもしれないとも思えたんです。

私は恋愛ものが苦手でラブシーン的な文章もあまり得意じゃないです。

『賢者の愛』はその辺りはやっぱりあからさまな感じがしてちょっと辛かったんですが、品がないというわけではなくて詠美さんらしい美意識なのだろうと。

 

ドラマの方が多分だれでも受け入れやすく少し底を浅くしていて、原作は読み終わった時はなかなか現実世界に戻ってこれない深みがありました。この作品の中にはドロドロと言い切るのとも違う真由子と百合が出会ったしまった運命のようなものがある。真由子が直巳を自分の眼鏡にかなった上等な男に育て上げようとした何十年もの歳月と執念も確かにインパクトが強いけれど、結局はこれは真由子と百合の物語だと思う。

…であるのに、このラスト。道具扱いされていた直己が結局は一人だけ目標を達成できちゃったのかっていう皮肉、この感じは原作にしかないように思います。

 

『痴人の愛』へのオマージュということで理想の異性を作り上げるというちょっと人として不遜な話とも言えるかもしれません。大人と大人が人間関係の中で互いに変化するのとは全く違うので。

 

しかし文庫本の柚木麻子さんの解説を読むとこの作品を全く違った角度から見ることができる。この作品を読むのならば是非文庫本でこの解説を読んでほしいと思います。

 

ちょっとドラマの話になりますが、原作を読んでからドラマを観ると高岡早紀の百合は好演しているなと思う。真由子は他の人でもできるかもしれないけれど、百合は高岡早紀だろう。恐ろしさと哀しさがあります。

関係ないけれど、高岡早紀のすっとほっそりした女優そのもののようなふくらはぎが本当に美しかった。

 

とにかく凄まじい話であることは間違いないんだけれど、処々にはっとするような文章があり心をからめとられました。