プリズム (新潮文庫)/野中 柊
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内容(「BOOK」データベースより)

いつかはこうなると予感していた、その人は夫の親友。足元に何の立場もない、倫ならぬ恋。甘やかな熱情に心もからだも揺さぶられて、わたしは流されてゆく―。人妻・波子、夫の幸正、親友・高槻。それぞれの孤独と秘密を抱えた男女が織りなす危うい関係。しかし痛烈な罰のような出来事が、三人の運命を変えてゆく。愛によって傷つき、愛によって浄められる魂を描く、長編恋愛小説。


えーと、いきなりあらすじを貼っちゃいました。

実は今朝一回感想を書き上げてそれをおしゃかにしちゃったので元気がでないからです。

ところが、こうして「内容」を読んでみると、違和感がぬぐえないあせる
違うよ、こんな話じゃないって思ってる自分がいる。

確かにこの本は恋愛小説なんでしょう。
そして恋愛小説の感想ほど厄介なものはない。
他人の恋路にとやかくいう馬鹿はいないっていうの。

主人公は33歳。夫は37歳の外科医。
波子が小さい時に母親は家を出て再婚して波子と父親違いの弟を生んだ。だから波子には2つの家がある。父親は13歳年下の女性と結婚して、波子には腹違いで、13歳年下の妹ができた。

前半はこの登場人物の紹介とゆるく結ばれた家族について書かれている。
あらすじにあるようにメインは波子の不倫のはずなのに、少しもそれに重きが置かれている気がしないのが不思議でならない。

冒頭波子が小さい時の母親のお葬式の記憶で始まる。
けれど、実際は母親はその時点で死んでいないわけで、波子の心の中だけにある記憶である。
これは何を暗示しているのでしょうか
波子という人格の危うさ、もろさでしょうか?

けれど、夫の親友である高槻との関係はあまりにありきたりで俗っぽく感じられるし、それなのに波子の気持ちの切実さは驚くほどに薄くしか感じられない。

波子は思う。

 夫に対する思慕は、共に暮らす年月を重ねれば重ねるほど、穏やかに深みを増していく。なにがあっても失いたくない絆。それは自分の心にあらためて問うまでもなく、疑いようがない。たしかなことだ。
 でも、そのたしかさこそが、私に恋しいひとをさらに恋焦がれるよう、おそれずに会いに行くよう、そっと後押ししているのかもしれない。

言いたいことはわからないでもないのだけれど、実際やってしまったらあまりにも手前勝手な言い分にしか聞こえない。

そんな中、物語の要所要所に妹の梨香が登場して語る言葉がシャーマンのように物語の方向を指し示していく。

 「ねえ。波子ちゃん、だれかを裏切ったり、裏切られたりってことは、人生で最高の贅沢じゃないかなあ?」と言った。
 妙に「のんびりとした、穏やかな口調だった。
 「だって、そもそも愛がなければ、裏切りだってないわけだものね。愛に恵まれただけでもすごいことなのに、それでも満たされなくて、裏切りをやらかすんでしょう?なんだか、ギャンブルみたい。気前がいいなあって思う。すべてを失う可能性だってあるはずなのに、自分の運を妄信して、生命力を惜しみなくじゃんじゃん使ってるって感じだよね」
 私が黙っていると、梨香はさらに言った。
 「でも、運に見放されたときには、どうなっちゃうんだろうね?


家族としての夫をかけがえのない存在と思い、失うことなどかけらも思っていなかった波子のしれーっとした鈍感さだけがなんとなく生々しくていやな感じだった。

そんなに大切ならば慎重にやればいいものをそういうずるさは持ち合わせていないそんな鈍感さ。

それが波子という人格なのでしょうか?


波子が認識していた夫や、高槻、そして家族たち・・・それは他の人というプリズムを通して見たら少し違う景色になる。

そのことに波子は驚くほど無頓着であり続けた。


この小説の中での会話ややり取りはとても曖昧でいろんな意味に取ることができるので実際の結末がどうなったのかは想像するしかないのだけど・・・。


ただもし自分だったら・・・と思うとかなりどんよりな事件が終盤あったにもかかわらず、まるで自分のことじゃないように状況が波子の心に沁みていないようで、なんだか最後まで違和感がとれない小説でしたね。


文章やストーリーはシンプルで読みやすいと思います。


「家族」という概念について考えさせられる小説です。





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