楽園 上 (文春文庫)/宮部 みゆき
¥700
Amazon.co.jp

楽園 下 (文春文庫)/宮部 みゆき
¥680
Amazon.co.jp


宮部みゆきさんの『楽園』を読みました。

上下巻なので長いといえば長いわけですが一気に読まされてしまったので長さは苦にならなかった。


『模倣犯』の続編・・・というわけではないけれど登場人物が重なっているわけです。

もっとも私は『模倣犯』は映画をみて萎えてしまって原作を読んでいなかったので、全く別物としてなんの前知識もなく読んでいたわけですけれど。


私はとてもおもしろかったです。

おもしろいという表現は正しいかわからないけれど。


内容に超能力がとりあげられていたりするので違和感のある方もいらっしゃるようですが

もともと『クロスファイアー』等でも超能力が出てきたりしていたので私は気になりませんでした。


推理小説と思えば、超能力は萎えるのかもしれないけれど、小説としては出来はいいんじゃないかな。


16年前に娘を殺してしまった夫婦が火事を機に罪を告白する。一方、小学生の息子を事故で亡くした母親は息子の描いた不思議な絵の意味を解いてくれる人間をさがしていた。

その2つの話をつなぐものは・・・?


題材は重いし、前畑さんはライターとして冷静とは言い難い部分もあるけれど、根気よく丁寧に書かれた作品に私はひきこまれました。

敏子の亡くなった息子への気持ちはいたいほどわかるし、長すぎるようなこの一編の終わるまでの間が

敏子にとっての喪の時間というのか、息子の死を受け入れて再生していく時間であったとすれば長すぎることはなかったと思う。

実際冒頭で愚鈍であるかのように描かれていた敏子が、物語が進むにつれ、時折暗闇に引きずりこまれてしまいそうな読み手の重い感情を救ってくれるような純粋で力強い存在になっていくわけです。


事件の輪郭や犯人像はちょっとぼやけ気味だったと思うのですが先に書いたように推理小説でなくて単に小説と思って読めば特に気にならないし、むしろ不良少女を親が殺してしまうということだけで十分に生々しいので多少ピントがぼけてるくらいで十分のような気もして。


前畑さんを主人公としてすこし強引なまでの話の持っていきかたは少々気になりますが

さすが宮部作品という感じでクオリティーは高いと思います。


いい人はいい人、悪者は悪者と割り切れるほど物事が単純であればやりきれない気分になったり、気持ちが乱れたりすることもないでしょう。

なぜ地味で真面目な夫婦が子供に手をかけなければならなかったのか?

だって娘が不良で言うこと聞かないんだから仕方ないじゃない・・・と割り切れればどんなに楽かと思います。

でも結局正解なんてないわけで。


誰かを切り捨てなければ、排除しなければ、得ることのできない幸福がある。


それが正しいのかどうか、私にはわかりません。


『模倣犯』がとてつもなく有名な作品であるだけに、想像ですがこの『楽園』を完成させるまで相当大変だったんじゃないでしょうか?

また前畑さんにとっても、この『楽園』が再生のための道のりであったのだと思います。


今後また前畑さんの登場するストーリーを作られることはあるのでしょうか?

なんだか気になります。


人気ブログランキングへ