一方、低インスリンダイエットは、炭水化物の“質”に注目した方法といえ、血糖値を上げにくい炭水化物を選んでいくことでインスリンの過剰分泌を抑えようというもの。先述したようにインスリンは血糖値をコントロールする(下げる)大切なホルモンですが、脂肪を蓄積させる様にも働くホルモンなので、年がら年中インスリンが高い状態にあるとなかなか痩せにくいわけです。血糖を上げやすい炭水化物、上げにくい炭水化物を選別するのがポイントであるこの方法において使われるのがGI(グリセミック・インデックス)値という指数です。これは50gのブドウ糖の吸収の程度を100とした時、ある食品(同量の糖質を含む)はブドウ糖の吸収率に比べて30しか吸収されなければ、そのGI値は「30」になります。数値が高いものほど血糖値の上昇が急峻で、数値が低いものほど血糖上昇は緩やかになるといえるので、血糖値を上げにくい食品を選ぶことが可能になるわけです。

 

2002年に日本で大ブームとなったNT氏提唱の「低インシュリンダイエット」はこのGI値に着目して、「カロリー計算はしなくていい」、「GI値の低いものを選んで食べれば量は気にすることはない」、「運動しなくても大丈夫」というセンセーショナルな謳い文句で拡まったわけですが、これは間違い。低インスリンな状態だけでは太りにくい状態にはなりますが、積極的に脂肪を減らすことにはつながりません。どんな食材を選ぼうとも、カロリーオーバーが続けば太っていきます。適切な食事コントロールの下、運動が伴ってこそ医学的に正しい減量=ダイエットが成功するのです。その証拠に今はもう、あの時流行った「低インシュリンダイエット」は跡形もありません(当時、私の先輩の糖尿病専門医の先生方が、「とんでもない大嘘ダイエット法だ!」と怒っていたのが懐かしく思い出されます…)。

 

もうひとつGI値の概念そのものにも問題がありました。GI値の考え方は決して新しいものではなく、今から25年前の1981年にカナダのトロント大学のデビット・ジェンキンス博士らが発表したものです。発表当初は糖尿病の食事療法を変えるのではないかと注目されましたが、その後、実はGI値は不確実性の高いものであることがわかり、日本の糖尿病の医学界の中では色あせていったのです。

 

血糖値の上がり方(糖代謝)は同じ人でも条件によってかなり大きく変動します。食後だったり、寝不足だったり、運動後であったり、風邪を引いていたり、下痢気味のときでは違ってきます。個々人での差もかなりあります。また、もっと根本の問題として、食材そのものをそのままそれだけで食べるようなこと自体がバーチャルだといえるでしょう。生のままでなく、煮たり焼いたりしたらGI値は変化します。同じバナナでも、まだ青いものと熟しきったバナナではGI値は大きく異なります。切り方の違いや、すりつぶしたりしても変わりますし、たんぱく質や脂質などと合わせて調理した場合、単材のGI値は何の意味も持たないものになってしまいます。

 

GI値は生活の中の食事における数字ではなく、実験室での研究上の数字ともいえるのです。GI値のような「指数」という科学的信憑性を匂わす言葉と「インシュリン」という医学用語の魔術によって、当時は多くの人がはまってしまったようですが…

 

ただ、このGI値もそういうことがわかった上で応用できれば、アンチエイジングにも有用です。最近ではたんぱく質なども含めた色々な食材や食材同士の組み合わせでGI値を計測する研究が日本でも行われてきています。