新型コロナウィルスの収束まで、長丁場になりそうです。
不要不急の外出を控えている方が多いと思いますが、当院には『急を要する』患者様もたくさんいらっしゃいます。
その一つが
『成長因子・グロースファクター注射後の腫れとしこり』
『成長因子・グロースファクターなどを混ぜたPRP注射後の腫れとしこり』
です。
上記の施術後に腫れが生じた場合、治療のタイミングが遅れると制御しにくくなります。
患者様は片時もマスクを外せない状態になり、不安と後悔でうつ状態になり、文字通り泣きながら来院されます。症状は軽症から重症まで様々です。
当院には、様々な『他院の修正』治療メニューがあります。
ヒアルロン酸注入失敗の修正
ヒアルロン酸注入後の遅延型異物反応
アクアミド・アクアフィリング・エランセなど溶けないフィラー注入後のしこり
脂肪注入後のしこり・石灰化
成長因子・グロースファクター注射後の腫れとしこり
成長因子・グロースファクターなどを混ぜたPRP注射後の腫れとしこり
ボトックス注射失敗の修正
上記の中で、一番治療がしやすいのは
ヒアルロン酸注入失敗の修正、です。
ヒアルロン酸製剤はヒアルロン酸溶解酵素(ヒレネックス・ヒアルロニダーゼ)注射で簡単に溶かせます。ただし、長期間放置するといけません。一部にしこりが残ったり、過剰注入で伸展してしまった皮膚がたるんでシワシワになるからです。でも、照射治療を組み合わせることで、ある程度までは引き締めが可能です。
次に治療しやすいのは
、ボトックス注射の失敗症例の修正、です。
追加注射することで表情のバランスが取れる症例もありますし、注入部位の誤りや適応の見誤りで表情の喪失や違和感が生じている場合は、アセチルコリン製剤を2~4日毎に注射しながらボトックス注射の効果が減弱するのを待ちます。
その次に治療しやすいのは、
ヒアルロン酸注入後の遅延型異物反応、です。
こちらは失敗というわけでは無く、患者様の体質で、少ない割合ですが発生してしまうものです。ただし、きちんとした治療が出来ない施設が多いようで、こじれて悪化した患者様がネットで検索して当院にいらっしゃいます。
まず異物認定されてしまったヒアルロン酸製剤を溶解します。同時に、反応性肉芽腫(しこった部分)には、適正に薄めたステロイド剤を注射します。このしこりは時に石のように硬く、27Gの針がギリギリ刺さるくらいガチガチのことがあります。
当日から、外来で投与可能な上限値のステロイド(プレドニン25~30㎎/日)を1~2カ月間内服して頂きます。2~3日毎に追加でヒアルロン酸溶解を3回程度行います。その後は、1週間毎に異物反応の改善を観察しながら、初回から1か月後に再度ステロイドを局所注射します。
治療に難渋するのが
アクアミド・アクアフィリング・エランセなど溶けないフィラー注入後のしこり
脂肪注入後のしこり・石灰化
です。
これらのフィラー(注入剤)には溶解酵素が存在しないので、デコボコしたり、遅延型の異物反応が生じても外科手術以外の対処法がありません。
治療としては、ヒアルロン酸注入後の遅延型異物反応と同様の処置を行い、触らなければ分からない程度に軽減できればラッキーです。脂肪注入では遅延型異物反応よりも、石のように硬くなることがあります。表面に飛び出していなければ経過観察とします。ステロイドの局注も無効だからです。
最も難渋し厄介なのが、
成長因子・グロースファクター注射後の腫れとしこり
成長因子・グロースファクターなどを混ぜたPRP注射後の腫れとしこり
でしょう。
これは、私の信頼する皮膚科専門医や形成外科専門医の友人医師たちも同意見でしょう。
症状
施術後2週間から半年後、注射エリアを中心にパンパンに膨れて、一部が硬くしこります。自覚症状としては、ツッパリ感、違和感、灼熱感、圧痛です。中から疼くような、刺すような痛み(自発痛)を覚える方も多いです。
治療施設の対応
このような治療を行う施設では、
「薄めているから絶対に安心」
「腫れることは一例もない」
と患者さんに説明し、患者様が「腫れた」と訴えても「一過性なので様子を見てください」と取り合ってくれないようです。
ちなみに、医学の世界で『絶対は、ぜったいに無い』のが常識です。学べば学ぶほど、心からそう思います。
患者さんはまともに取り合ってくれないクリニックと医師への信頼を無くし、その後の経過を報告しないので『一例もトラブルにならない』などという事が言えてしまうわけですね。
難渋する理由::治療抵抗性・再燃再発・照射注入不可
その後、積極的な治療をしないでいると、どんどん悪化します。そして初めてネットで検索し、当院にご相談に見えるのです。
また、グロースファクター系注射後のトラブル治療は、難しいだけでなく、一度改善したように見えてもちょっとしたきっかけで再び腫れあがるので厄介です。誘因は風邪などの感染症、飲酒、疲れなどが多いですが、原因不明がほとんどです。
さらに患者さんを絶望させるのが、照射治療が一切できない事です。
目の下やほうれい線など顔全体がたるみ、凹んでいる、シワがあったから成長因子含有のPRPを受けたので、しこりを何とか小さくした後にたるみ改善治療を始めたいわけです。ところが、このようなトラブル症例では、真皮から皮下組織内で、成長因子・グロースファクターがPRPの創傷治癒作用を必要以上に高めて、再生のスイッチが暴走してしまっている状態です。そこに、ウルセラやサーマクールを照射するとどうなるか・・・・想像が出来ますよね?
ウルセラやサーマクールほど強力ではなく、コラーゲンの再生を促す作用が少しでもあるもの、フォトフェイシャルやレーザーフェイシャル、ジェネシスのようなマイルド系でも経験があります。グロースファクター注射から数年経過し、もう収束しただろうと考えて上記のような照射治療を行うとまた腫れあがってしまうのです。
ちなみに、スレッドリフトのように糸でコラーゲン線維増生を促すものも危険です。
つまり、シミ治療、毛穴治療、引き締め治療、リフトアップ治療、シワ治療、小顔治療、といったほとんどの美容皮膚科治療が出来なくなってしまうのです。
私の経験ですと、問題なく施術可能なのは、ケミカルピーリング、イオン導入、手術のみと考えています。
ある美容施術で失敗しても、別の治療で改善させることが出来れるのならば、患者さんは涙を拭き、顏を上げ、前向きな気持ちでこれからの治療効果を楽しみにていただくことができます。
問題点
美しくなりたいと願う美意識の高い女性が、たった一つの施術を受けたために、数年~7年にわたって苦しむだけでなく、他のほとんど全ての美容医療を受けることが出来なくなることがあるのです。実際に、特別トラブルになっていない方もいらっしゃることは知っています。しかしながら、100人で1人(これは高頻度です)でも回復が難しい副反応が生じる治療は選ぶべきではないと思うのです。ヒアルロン酸製剤なら溶解酵素があるのですから。
ステロイド内服に関して
形成外科の先生方は専門医でもはステロイド投与が怖いと仰います。そのため、セレスタミン2~3錠やプレドニン5㎎/日程度しか処方されないようですが、これは例えるなら大火事なのにジョウロで消火しているようなものです。火事は初期消火が肝心です。
その点、皮膚科専門医は、膠原病などの自己免疫疾患の患者さんの治療経験がありますから、自信を持って適正量を処方し管理することができます。
通常の皮膚炎ですと2~3日毎に漸減し、2週間程度で中止します。ところが、『ヒアルロン酸製剤への遅延型異物反応』や『成長因子・グロースファクター単体またはPRP混合の注射後のしこり』は1~2週間毎に5㎎ずつ減量し、1か月半~2カ月半かけてプレドニンをゆっくり減量する必要があります。特に成長因子・グロースファクターは少量でも厄介で、早く減らし過ぎると、ぶり返します。
美容医療を受ける前の情報収集の大切さ
美容医療を受ける前には、起こりえる副反応とその対処法に関して、隠すことなく説明してくれる医師であることを確かめましょう。
とくに、「ぜったい安全」と根拠なく言い切る医師は警戒し、セカンドオピニオンを求めましょう。
厚労省や米国FDA承認製剤を使用していても、ヒアルロン酸に過敏反応を示す患者さんはいらっしゃいます。でも、その場合の対処経験があるかどうかが運命の分かれ道だと思うのです。
もしも、10000人に一人程度以下のごくごく少ない確率で生じうる副反応を心配されるなら、施術を受けないという判断をしても良いと思います。
注射注入治療は満足度の高い施術です。私も毎日たくさんの方に施術し、そう感じています。
でも、注射する製剤と任せる医師は十分に吟味しましょう。
新型コロナウィルスの感染症でお亡くなりになられた全ての皆様とご家族に心からの哀悼を捧げます。また、感染症治療の最前線で過酷な診療に心身を捧げる医療従事者の皆様に敬意を表します。
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