🕊️ 6,653億円分を廃棄した、その後
――403万回しか使われなかったのに、なぜ702万回?

 

10月1日から、新型コロナワクチンの定期接種が始まりました。

対象は65歳以上の方などです。今年度は、ファイザー、モデルナ、第一三共、武田薬品、Meiji Seikaファルマの5製品が使われます。その中には、自己増幅型mRNAワクチン、いわゆる「レプリコン型」のコスタイベも含まれています[1]。

厚生労働省の資料を読んでいて、私はある数字のところで手が止まりました。

今年度のワクチンの「見込み供給量」は、約702万回。

ところが、そのすぐ横にはこう書いてあります。

前年度の使用量、約403万回[1]。

……ん?

403万回しか使われなかった翌年に、なぜ702万回なのでしょう。単純計算で、前年使用量の約1.74倍です。

 

もちろん、この702万回は「国が702万回分を購入した」という意味ではありません。資料には「各企業からのヒアリング情報をもとに作成」とあります[1]。

つまり、メーカー側から示された「供給見込み」です。

 

では、素朴な疑問が湧きます。

厚生労働省自身は、今年度の需要を何万回と見込んでいるのでしょうか。そして702万回という供給見込みは、その需要予測とどういう関係にあるのでしょうか。

 

💉 過去の数字を並べてみました

 

気になって、さかのぼってみました。

2024年度は、新型コロナワクチンが特例臨時接種から定期接種へ移った最初の年です。この年、厚生労働省が示した供給見込みは、約3,224万回[2]。

それに対して、使用量は、約748万回でした[3]。

しかも、シーズン途中の2024年11月、厚生労働省は自治体への事務連絡の中で、

「約3,002万回分が既に市場へ供給され、11月22日現在では約2,421万回分の流通在庫がある」

と示しています[4]。

市場へ供給された量の約81%に相当する量が、その時点で流通在庫として存在していた計算です。

 

ここで大事なことを一つ。厚生労働省のいう「使用量」は、実際に腕に注射された回数そのものではありません。

医療機関への納入数量をもとに算出した数字です[3]。

 

では、実際に定期接種を受けた人はどれくらいいたのでしょう。

2024年度の新型コロナワクチン定期接種の実施者数は、

6,904,853人。

約690万人です。

厚生労働省が公表している実施率は、

19.0%でした[5]。

 

📉 さらに翌年を見ると……

 

2025年度。供給見込みは、約909万回[3]。

そして実際の使用量は、約403万回[1]。

さらに今年、2026年度。その403万回という前年実績に対して、供給見込みは約702万回です[1]。

並べると、こうなります。

 

【2024年度】

供給見込み 3,224万回
↓
使用量   748万回

【2025年度】

供給見込み 909万回
↓
使用量   403万回

【2026年度】

前年使用量 403万回
↓
供給見込み 702万回

 

私はここで、ワクチンに賛成か反対かという話をしているのではありません。

安全性や有効性についても、今回はあえて別の問題として置いておきます。

知りたいのは、ただ一つ。

この数字の並びを、行政としてどう説明するのか、です。

 

💰 そして思い出す「6,653億円」

 

ここで、どうしても思い出す数字があります。

6,653億円。

新型コロナワクチンの特例臨時接種が終了した後、国会で明らかになった数字です。

国が契約した新型コロナワクチンは、

約9億2,840万回分。

そのうち、実際の接種や海外供与、契約キャンセルなどを除き、

約2億4,415万回分が廃棄対象となりました。

厚生労働省は、購入予算額を契約数量で割った1回あたり約2,725円を用いて試算すると、約6,653億円分に相当すると説明しています[6]。

 

ここは誤解のないように付け加えておきます。

2,725円という数字は、それぞれのワクチンの実際の購入単価ではありません。購入予算額と契約数量から算出された試算上の数字です。

パンデミックという非常事態の最中に、需要を予測することが難しかったのは理解できます。

感染状況も、必要な接種回数も、どのワクチンがどれだけ使われるのかも分からなかった。

だから、当時一定の余裕をもって確保したことと、その後の通常時の政策評価とは、分けて考える必要があります。

しかし、だからこそです。2億4,415万回分。6,653億円分。

これほど大きな経験をした後、日本のワクチンの需給管理はどう変わったのでしょうか。

 

📊 接種する人も、大きく減っています

 

もう一つ、見逃せない数字があります。

2023年秋。65歳以上の接種回数は、19,508,658回。

接種率は、54.4%でした[7]。

ところが定期接種へ移った2024年度には、実施率19.0%[5]。

54.4%から19.0%へ。

 

もちろん、2023年秋と2024年度では制度も集計方法も異なるため、単純に同じ指標として比較することはできません。

それでも、接種規模が大きく縮小したことは数字から読み取れます。そして翌2025年度の使用量は、403万回まで減りました[1]。

需要側がこれほど変化しているのであれば、供給側ではどのような予測が行われているのでしょうか。

今年度の702万回という数字は、何を根拠にしているのでしょう。

 

🤔 「供給できる量」と「必要な量」は違う

 

ここが、今回いちばん気になったところです。

厚生労働省が示している702万回は、「需要予測」とは書かれていません。メーカーへのヒアリングによる、「見込み供給量」です[1]。

つまり、「これだけ必要です」という数字と、「これだけ供給できます」という数字は、本来まったく別のものです。

 

では政府は、今年何人が接種すると見込んでいるのでしょうか。

昨年度の接種実績や使用量を踏まえ、どの程度の需要を想定しているのでしょうか。

そして、その需要予測に対して702万回という供給見込みは、どのような関係にあるのでしょうか。

私は、その計算を見てみたいと思います。

 

🔍 もう一つ、知りたいことがあります

 

2024年度には、約3,002万回が市場へ供給されました[4]。

最終的な使用量は、約748万回でした[3]。

2025年度は、供給見込み約909万回に対して、使用量は約403万回[1][3]。

では、使われなかったワクチンはどこへ行ったのでしょう。

メーカーに残ったのか。卸の在庫か。医療機関まで届いて、返品されたのか。それとも、期限切れで廃棄されたのか。その損失は、最終的に誰が負担したのか。

そして、もう一つ。

「廃棄」以外の選択肢は、検討されたのでしょうか。

たとえば、未使用の製剤の一部を研究用に保存する。時間とともに、脂質ナノ粒子(LNP)やmRNAがどう変化するのかを調べる。必要な手続きを経て、​​​​​​​基礎研究や動物を用いた研究によって、体内動態や安全性をさらに検証する。

新しい技術の製剤だからこそ、市販後だからこそ検証できることがあるはずです。

もちろん、すべてを研究に回せるわけではありません。契約、品質管理、研究倫理、知的財産。越えるべき壁はあるでしょう。それでも、そのごく一部を公的研究機関に残し、将来の検証に役立てる道はなかったのか。

廃棄したのは何回分か。費用はいくらで、誰が負担したのか。廃棄の前に、研究利用は検討されたのか。検討しなかったのなら、なぜなのか。

ワクチン行政は、買って、打って、終わりではありません。安全性の検証を大前提として、使われなかったものがどこへ行き、何を学び、何を次に残したのか。

そこまで追うのが、行政の仕事ではないでしょうか。

 

🕊️ 反ワクか、推ワクか。その前に

 

新型コロナワクチンの話になると、議論はすぐに、「反ワク」「推ワク」の二つに分かれてしまいます。

でも、その前にできることがあります。

 

数字を見ることです。

3,224万回 → 748万回。

909万回 → 403万回。

そして、

403万回 → 702万回。

 

なぜでしょう。

私は国会で、この続きを聞いてみたいと思っています。

 

【脚注】

[1]厚生労働省「新型コロナワクチンの接種について」第67回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料(2026年9月)。2026年度の見込み供給量約702万回(各企業からのヒアリング情報をもとに作成)、2025年度の使用量約403万回。
厚生労働省資料

[2]厚生労働省「10月からの定期接種化等について」(2024年9月24日)。2024年度の見込み供給量約3,224万回。
厚生労働省資料

[3]厚生労働省「新型コロナワクチンの見込み供給量」(2025年8月22日時点)。2025年度の見込み供給量約909万回、2024年度の使用量約748万回。「使用量」は医療機関への納入数量を基に算出。
厚生労働省資料

[4]厚生労働省「今冬の新型コロナウイルス感染症の感染拡大に備えた保健・医療提供体制の確認等について」(2024年11月)。2024年11月22日時点で約3,002万回分が市場へ供給され、流通在庫は約2,421万回分。
厚生労働省事務連絡

[5]厚生労働省「定期の予防接種実施者数」。令和6年度の新型コロナワクチン実施者数6,904,853人、実施率19.0%。
厚生労働省「定期の予防接種実施者数」

[6]2024年4月15日、衆議院決算行政監視委員会における厚生労働省答弁。新型コロナワクチンの契約数量約9億2,840万回分、廃棄対象約2億4,415万回分。購入予算額を契約数量で除した1回あたり約2,725円を用いた試算で約6,653億円相当。

[7]厚生労働省「特例臨時接種期間における新型コロナワクチンの接種回数について」。令和5年秋開始接種について、65歳以上の接種回数19,508,658回、接種率54.4%。