🕊️ 尾道方式から国家OSへ
――AI時代のがん検診はどう変わるのか
先日、厚生労働委員会の議論の中で「尾道方式*」という言葉を耳にした。正直に言う。私は1997年から2020年まで海外生活が長く、この言葉を詳しく知ったのは最近である。
しかし調べてみると、これは単なる膵臓がんの話ではなかった。
日本の医療が持つ大きな可能性を示したモデルだったのである。
膵臓がんは「沈黙のがん」と呼ばれる。
症状が出た時にはすでに進行していることも少なくない。
そこで尾道方式では、地域のかかりつけ医が、
糖尿病の悪化
体重減少
膵嚢胞
膵管拡張
などの危険信号を見つけると、専門医療機関へ紹介する。
そして超音波内視鏡やMRIなどの精密検査につなげる。
興味深いのは、尾道方式の本質は最新機器ではないことである。
地域の診療所と専門病院をつなぎ、
「危ない人を見逃さない仕組み」
を作ったことにある。
私はこの話を聞きながら、別のことを考えていた。
AI時代の医療と、同じ匂いがする。
現在のがん検診は、多くの場合、年齢で区切られている。
40歳になったから検診。
50歳になったから検診。
もちろん一定の合理性はある。
しかし本来、人間のリスクは一人ひとり違う。
家族歴、生活習慣、体重変化、睡眠、既往歴、喫煙歴、飲酒歴、血液データ、画像所見。
その組み合わせによって、リスクは大きく変わる。
AIが得意なのは、まさにそのような膨大な情報の統合である。
例えば、
「最近血糖値が悪化している」
「体重が減っている」
「過去の画像で膵嚢胞が指摘されている」
そんな情報をAIが拾い上げ、
「この方は膵臓がんの精密検査を検討してください」
と提案する。
これは尾道方式の進化版である。
このハイリスク発見システムは膵臓がんだけに応用できるのではない。肺がん、大腸がん、糖尿病、認知症、心不全、フレイル、全部に応用できる。
尾道方式は、単なる膵臓がんの話ではない。
それは、「誰を診るべきか」
という医療の本質を教えてくれている。
全員を一律に検査することではなく、
本当に必要な人を見つけること。
そしてその先には、個別化医療という未来が見えているように思うのである。
<脚注>
*尾道方式(尾道市医師会膵癌早期診断プロジェクト)
2007年に広島県尾道市で開始。地域のかかりつけ医と専門医療機関が連携し、糖尿病悪化や膵管拡張などの危険因子を手掛かりに膵臓がんの早期発見を目指すシステム。全国でも先進的な地域連携モデルとして知られる。
