🕊️ <コロナ&ワクチン検証⑪>「まれ」とは何か──心筋炎をめぐって、科学は静かに更新された
2021年夏、日本循環器学会は、新型コロナmRNAワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について、声明を公表した*。
当時の整理は、概ねこうである。
- 心筋炎・心膜炎の報告はある
- しかし頻度は「まれ」
- COVID-19感染そのものによるリスクの方が高い
- よって、ワクチン接種の利益が上回る
この構図は、当時の世界標準でもあった。
パンデミック禍。未知のウイルス。医療崩壊への恐怖。高齢者死亡の急増。その中で、「まず被害を抑える」という判断は、一定の合理性を持っていたとも言える。
だが、科学とは、本来そこで止まるものではない。
🩺 そして、科学は少しずつ“更新”されていく
現在、世界の主要機関は、mRNAワクチン後の心筋炎・心膜炎について、2021年当時より、かなり踏み込んだ表現を用いている。
米CDCは現在、
mRNA COVID-19 vaccination has been associated with rare cases of myocarditis and pericarditis.
すなわち、「mRNAワクチンと心筋炎・心膜炎には関連がある」という整理を明確に示している***。
しかも、特に多いのは、
- 若年男性
- 接種後数日以内
- 2回目以降
という特徴まで整理されている。これは、2021年当初の「報告はある」という段階から、何歩か進んだ表現である。
💉 FDAも警告表示を更新した
さらに2025年、米FDAは、ファイザー・モデルナ両ワクチンの添付文書について、心筋炎・心膜炎リスクに関する警告表示を更新した。そこでは、若年男性を中心に、一定の頻度で発生する可能性があることが、具体的数値とともに記載されている****。
つまり現在は、「存在するかどうかわからない」という段階ではなく、「どの層に、どの程度起きやすいか」を議論するフェーズへ移行しているのである。
🧬 そして今、“なぜ起きるのか”が議論され始めた
ここで最近、非常に興味深い研究が現れた。筑波大学の研究グループは、mRNAワクチン後心筋炎において、ミトコンドリア機能低下が関与する可能性を示した*****。ミトコンドリアとは、細胞のエネルギー工場である。特に心筋は、この小さな器官に強く依存している。
研究では、
- 心筋炎患者の心筋組織でミトコンドリア異常が確認された
- エネルギー代謝関連遺伝子の発現低下が認められた
- ミトコンドリア機能を低下させたマウスでは、mRNAワクチン接種後に心機能低下が生じた
という結果が示された。
さらに、ワクチンに含まれる脂質成分などが、ミトコンドリア由来活性酸素(ROS)を増加させ、炎症性細胞死(ネクロプトーシス)を誘導する可能性も提示されている。
もちろん、これはまだ初期段階の研究であり、マウスモデルも含まれる。もちろん🐹 ネズミの結果がそのまま人間ではない。
ここは極めて重要である。
一方で、「偶然起きた説明不能な現象」から、「条件によっては生じうる生物学的経路」へと、議論が一歩進み始めたこともまた事実である。
興味深いのは、この経路が「すべての人」に起きるわけではない、という点である。
つまり、
- ミトコンドリア機能
- 酸化ストレス耐性
- ホルモン環境
- 個体差
こうした“脆弱性”によって、リスクが変わる可能性が示唆されている。これは、「副反応があるか、ないか」という単純な二元論ではなく、医学とは本来、個体差を扱う学問であるという、ごく基本的な原則に立ち返る話でもある。
📊 「まれ」という言葉の難しさ
ここで難しいのは、「まれ」という言葉である。
医学において、「まれ」は、「ゼロ」を意味しない。例えば100万人に数十人でも、国家規模接種では、一定数の実人数が発生する。しかも、心筋炎は若年者では通常極めて少ない疾患である。だからこそ、若年男性へのシグナルが、各国で強く注目された。
問題は、「まれだから無視していい」ではなく、どの層で、どの程度起き、どの程度回復し、長期予後がどうなのか。そこを、長期追跡で検証することなのである。
🇯🇵 日本は、そこを検証できる構造になっているのか
私はここで、日本の構造的問題に戻らざるを得ない。日本では、
- 接種歴
- 既往歴
- 受診歴
- 心筋炎診断
- 長期予後
こうしたデータを、全国レベルで迅速に連結し、解析する基盤が極めて弱い。つまり、「起きているかどうか」以上に、「その後どうなったのか」を追えないのである。
科学とは、“信じること”ではない。検証できることである。そして検証には、連結された長期データ基盤が必要だ。
🌿 ワクチンを否定することと、検証することは違う
ここは誤解してほしくない。
私は、「すべてのワクチンを否定したい」のではない。ワクチンは、人類史上、多くの感染症を抑えてきた。その功績まで否定するつもりは全くない。
だが一方で、大規模接種を行った以上、
- 何が起きたのか
- どの層に起きたのか
- 長期的にどうだったのか
を検証し続けることは、国家の責任である。科学とは、“間違えないこと”ではない。更新し続けることである。そして本当に危険なのは、「更新されなくなる科学」なのだと、私は思う。
もし、その検証ができないのであれば、少なくとも関係性が明らかになるまで、使用をいったん立ち止まる。
それが、医療介入を担う国家としての、当然の慎重さではないだろうか。
<出典>
*日本循環器学会「COVID-19ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎に関する声明」(2021年)
**厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A(心筋炎・心膜炎)
***CDC Clinical Considerations: Myocarditis after COVID-19 Vaccines
****FDA Updated Warning Labeling on mRNA COVID-19 Vaccines (2025)
*****筑波大学研究グループによる、mRNAワクチン後心筋炎とミトコンドリア機能低下に関する研究報告
