📈相対リスク45%の正体
──エビデンス階層・交絡・NNT思考で読む「超加工食品×前がん病変」
最近話題になった
という研究結果。
医療者の立場から言えば、この見出しだけで臨床判断や生活指導に使うのはかなり危険です。
今回はあえて、
✔ エビデンス階層
✔ 交絡
✔ 絶対リスク・NNT(NNH)的思考
という“統計の読み方”に絞って整理します。
🍎自然食・ホリスティック医療と、この議論は矛盾しない
誤解のないように明確にしておきます。私は温活・ホリスティックヘルスを重視する医師として、できる限り自然に近い食事、過剰な添加物や不要な加工を避ける生活を日常的に勧めています。これは今も変わりません。
ただし同時に、医師として強調したいのは次の点です。
「少量の加工食品を口にしたこと」と「がんになること」を、直接結びつける科学的根拠はありません。
今回の研究も「超加工食品を食べたらがんになる」ではなく、特定の生活様式と前がん性病変との“関連”を示したものに過ぎません。そもそも本研究は観察研究であり、ランダム化比較試験(RCT)ではないため、因果関係を直接示すものではないのです。
1️⃣ まず、この研究は「何を示した研究か」
本研究はNurses’ Health Study(NHS)を用いた観察研究(前向きコホート)。
・対象:50歳未満の女性
・曝露:超加工食品摂取量(NOVA分類)
・アウトカム:大腸がんではなく、前がん性ポリープ(腺腫など)
📌最重要:がん発症ではなく中間アウトカム。
したがってエビデンス階層は観察研究(関連は示すが因果は証明しない)。
2️⃣ 「45%増」は何の45%か(相対リスク問題)
示されているのは
高摂取群 vs 低摂取群の相対リスク(RR) ≈ 1.45。
つまり、絶対リスクではなく、リスク差も示されていません。
医療者ならここで一度ブレーキを踏むべきです。
3️⃣ 絶対リスクは論文から直接は出ない
「◯人中◯人」「年間発症率◯%」などの明示が乏しく、RR中心の提示です。
つまり、我々は“RRしか与えられていない状態”で評価を求められています。
4️⃣ では、どう考える?──NNH(NNT的思考)の導入
重要なのは「仮定を置いた絶対リスク推定」です。
仮定:若年女性の前がん性ポリープのベースライン発症率を仮に5%とする(地域・年齢・検査頻度で大きく変動)。
RR=1.45がそのまま当てはまるとすると、
・低摂取群:5%
・高摂取群:7.25%
➤ 絶対リスク差(ARD):2.25%
➤ NNH:1 ÷ 0.0225 ≈ 44
📌解釈:高摂取が続く前提で、約44人に1人、前がん性ポリープが“余分に”出る計算。
※ただしベースラインが2%ならNNHはもっと大きくなり、10%なら小さくなる。NNHは仮定に強く依存します。
5️⃣ ここで必ず考えるべき「交絡」
観察研究である以上、完全には除去できません。
BMI・食物繊維・運動・赤身肉・飲酒・喫煙・検診/内視鏡頻度(検出バイアス)など。
特に「超加工食品中心の生活様式」そのものが交絡の塊であり、切り分けは難しい。
6️⃣ 日本人にそのまま当てはめてよいか?
対象はアメリカ人女性。DNA、肥満率、腸内細菌叢、添加物の種類、10サービング/日の意味合い。
日本人女性(特に非肥満層)ではベースラインリスクが低い可能性があり、同じRRでも絶対リスク差は小さくなり得ます。
7️⃣ それでも無意味か?
いいえ。価値は
「超加工食品=即がん」ではなく、
「生活様式としての超加工食品摂取が、若年の腸管病変と関連する可能性」を示した点。
仮説生成研究として意味があります。
8️⃣ 医師としての伝え方
❌「45%がんになる率がアップ」
⭕「超加工食品中心の食生活は腸内環境や炎症を通じ、腸管病変と関連する可能性。まずは置き換えから」
9️⃣ 結論:数字を“怖がらせる道具”にしない
相対リスクだけを抜き出し、絶対リスクも交絡も語らず、不安を煽る。
ここが一番危険です。
相対→絶対→NNH/NNT的→個別化。
これができて初めてエビデンスは患者の味方になります。
派手な数字より、「どの数字を、どう読むか」。
相対リスク45%より、絶対リスク差2%前後を冷静に語れる医師でありたい。
