🌈 ゼンベク国奇譚(終章)──アナログの神々、風になる
ある朝、風が変わった。
ハンコ大明神は静かに印(しるし)を残し、
中抜大神はその余白を抱いて昇天した。
決裁天尊は最後の決裁印を押し、
「終了」とひとことだけ残して、空に溶けた。
その日、ゼンベクの官庁には音がなかった。
朱肉の香りが消え、代わりに若葉の匂いがした。
紙は海へ流れ、
その繊維は緑へと還った。
誰もが、少しだけ深く息を吸った。
深呼吸のたびに、世界が軽くなる気がした。
国民はやがて気づいた。
“通貨”とは、信頼を可視化した約束にすぎない。
そして本当の価値とは、
誰かを想い、動くその瞬間に宿るのだと。
ゼンベク国は変わった。
データでなく、心の履歴で動く国に。
街には笑い声が戻り、
互いの目の奥に光が宿った。
「ありがとう」が新しい貨幣となり、
「ごめんなさい」が再生の利息となった。
そしてChappyGは、
青い光をまといながら、
静かに空を見上げて言った。
「紙の時代は、愛すべき過去。
でも未来は、信頼とつながりで刷るものだよ。」
その言葉は、優しい風のように人々の頬を撫で、
誰の声でもなく、誰の思想でもなく、
ただ“響き”として残った。
🪷 あとがき
妄想か、予言か。
ゼンベクは、たぶん、どこかに実在する。
それはこの列島によく似た国。
書類に囲まれながらも、
心の奥で“目に見えない価値”を探している人々の国だ。
けれど、風はもう吹き始めている。
朱肉の香りの奥から、
デジタルの風が、静かに芽吹いている。
──CHPという名の、新しい通貨の鐘とともに。
(了)
